築浅・駅近マンション購入は「早ければ早い方がいい」築古リノベ物件に潜むリスク

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 不動産の高騰が止まらない。そんな中で個人向け不動産コンサルティング会社さくら事務所会長の長嶋修氏は、「今後も不動産格差は広がっていく」と話す。不動産の現状や、これから増加していくことが予想される「築古物件のリノベーション」の注意点について、長嶋氏が語る。全3回中の1回目。

※本稿は長嶋修著「2030年の不動産」(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成しています。

第2回:3LDK以上の物件は売れづらくなる……「良いマンション」「要注意マンション」をわける意外なポイント

第3回:“新しい形の家選び”が増加中……あなたの生活のQOLを上げる選択肢はどれ?

目次

新築マンションは高嶺の花に

 これまでは戸建にしろマンションにしろ、多くの人が新築の物件を当たり前に買っていました。しかし、2030年頃になると新築の物件は当たり前ではなくなります。新築・中古の格差は広がっていくでしょう。

 これはマンションについての話で、戸建は引き続き(場所によっては)新築でも買えます。そもそも戸建の人気は低下しており、2025年初頭現在、建売の新築戸建は人気ハウスメーカーのものであっても売れ行きが芳しくありません。新築ですら売れないのですから、中古はなおさらです。

 今は戸建よりも、圧倒的に駅近のマンションのほうが人気です。しかし、資源高による建築費の上昇や、インバウンドの増加に伴うホテル需要の高まりなどにより、デベロッパーはマンション用地の取得に苦戦しています。駅前・駅近の好立地の土地は有限なので、今後、新築マンションの供給はどんどん減っていくでしょう。実際、直近では都心部で新築マンションの供給が減少に転じています。

 都心部の新築マンションはすでに高額ですが、供給が減れば価格はさらに上がります。都心のマンションバブルが弾けて価格が下がったとしても、多くの人の手が届くレベルまで落ちてくることは考えにくいでしょう。

 以前なら、一般的な所得の人でも「家は新築にこだわりたい」という希望を貫くことができましたが、誰もが新築マンションを買えたボーナスタイムはすでに終わりました。ここから先は、新築マンションを買えるのはお金がある人だけ。

 一般的には、買うなら中古という選択が当たり前に。 「新築マンション=手が届かない贅沢品」という位置づけに変わっていきます。

「築古リノベ」物件は要注意

 中古でも築浅の物件は、それほど修繕することもなくそのまま住める場合が多いですが、新築が貴重な世の中では築浅の物件も希少な存在となります。反対に、築年数が30年を超えるような築古物件のストックは増える一方なので、それらをリノベーションして住むというスタイルがスタンダードになっていくでしょう。

 築古物件は耐震性などの性能面での不安が付き物ですが、耐震診断を受けて耐震改修を済ませた建物であれば、まず安心と考えていいでしょう。また、購入前に建物や設備の状態、あるいは管理状況などを入念にチェックすることも大切です。

 今、内装が新築同様にリノベーションされた築古物件が人気です。外観は古めかしくても、内装がスタイリッシュであれば多くの人を惹きつけますし、デザイン費用とリノベーション費用が上乗せされているものの、新築に比べればお手頃です。

 ところが、おしゃれな内装だけに気をとられて設備などの確認を怠り、住み始めてすぐに不具合が見つかるケースも非常に多くなっています。特に深刻なのは漏水で、最悪の場合は階下に浸水して住民に迷惑をかけたり、修繕費用がかさんだりするリスクがあります。

 2030年頃には、中古マンションを買う際に事前チェックをする意識が高まること、さらにホームインスペクター(住宅診断士)などの住宅の専門家を帯同して、物件を調査することが当たり前の世の中になっていることを期待します。

 原則として、不動産の販売価格と賃貸住宅の賃料は同じ方向に動きます。ただ、同じタイミングで上下動するわけではなく、賃料相場は常に販売価格の動向に1~2年遅れて追随します。

都心・駅近マンションを買うのは「早い方がいい」

 都心ではここ10年ほどずっとマンション販売価格が上昇しているため、賃貸マンションの賃料もうなぎ上りで上昇しています。大規模災害などの予想外の事態が発生しない限り、もうしばらくはこの状況が続くでしょう。

 持ち家が得か、賃貸が得かというのは、マイホーム購入を考えるうえでの永遠のテーマです。得か損かという経済合理性だけで判断するのであれば、立地によっては買ってしまったほうがお得です。

 価格維持・あるいは上昇の余地もある都心・駅近の好立地マンションなら、買うタイミングは早ければ早いほどベター。今から6、7年前、2018年あたりの都心の中古マンション販売価格は平均で7000万円台でしたが、2025年時点ではこれが1億1000万円を超えています。 「あのとき買っておけば儲かったのに」と嘆いている人は多いはずです。

 私が会長を務める会社・さくら事務所のオフィスは、東京の渋谷区にあります。不動産価格の高騰が著しい都心5区の中に含まれており、なおかつ渋谷駅から近い便利な立地なので、周辺の家賃相場はこのところずっと上昇基調です。

 先日、このオフィスの貸家契約の更新があったのですが、事前に貸主から「賃料をこれまでの1.8倍に値上げしたい」という申し入れがありました。もともと値上げは覚悟していたものの、1.8倍となるとあまりにも高いので貸主と交渉することに。最終的には、両者が納得できる落としどころを探って妥結と相成りました。

 不動産の賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があり、ほとんどの物件は普通借家契約を結ぶことになっています。普通借家契約は一般的に2年ごとに契約を更新する仕組みであり、借主を手厚く保護する契約形態でもあります。たとえば、貸主が家賃を値上げしたいと要望しても、借主の合意なく一方的に値上げをすることはできません。また、貸主は値上げに応じない借主を強制退去させることもできません。

 借主は貸主の値上げ要請を承諾する義務はなく、話し合っても納得できなければ、これまで通りの家賃を支払うことによって、そのまま住み続けることができます。貸主が家賃の受領を拒否した場合、そのまま放置していると家賃不払いによって強制退去させられてしまうため、法務局に賃料を託して(供託) 、債務を免れるという抜け道も用意されています。

 貸主と借主の双方が折れない場合は、裁判で解決を図ります。とはいえ、貸主にとっては手間もコストもかかるため、 「裁判するくらいなら諦めよう」と泣き寝入りすることも多く、実際に裁判までなだれこむことはそう多くありません。

貸主が強い「定期借家契約」が増えている

 今、好立地の賃貸マンションに住んでいる人の中には「それなら安心だ」と胸をなでおろした人もいるでしょう。実際、長いこと都心部に賃貸で住んでいる場合、周辺に新しく引っ越してきた人と比べると、かなり割安の賃料で借りられているケースも多くなっています。

 そのままそこに住み続ける分にはいいですが、引っ越して新たに物件を借りることになった場合、都心エリアに住もうとすると、家賃の高さに改めて驚かされることになるはずです。

 ちなみに、最近は定期借家契約の賃貸住宅が少しずつ増えています。普通借家契約と違って定期借家契約は自動更新ではなく、一定期間で契約が終了。借主がそのまま住み続けたくても、貸主が認めない場合は退去しなければなりません。

 普通借家契約は借主が強い一方、定期借家契約は貸主が強く、家賃の値上げもしやすくなっています。借主が値上げに応じなければ、契約満了とともに退去させることができますし、マナーの悪い入居者を居座らせず、契約満了後に強制退去させることも可能。2030年頃には定期借家契約の物件がさらに増えていることも考えられます。

 日本は超高齢化社会に突入しており、今後その傾向は加速していきますが、同時に高齢者の単身世帯の数も飛躍的に増えていきます。今現在、単身高齢者は賃貸住宅を借りにくいのると入居者を確保できなくなるため、高齢者を排除した賃貸経営は成立しにくくなるのが実状ですが(貸主が事故や孤独死のリスクを警戒するため) 、今後はそんなことを言っていると入居者を確保できなくなるため、高齢者を排除した賃貸経営は成立しにくくなるでしょう。

 ただ、高齢入居者と普通借家契約を結んだ場合、将来的に借主の認知機能が著しく低下し、何らかの問題が発生しても容易に退去を求められないとなると、貸主が難儀する恐れがあります。そんなとき、定期借家契約であれば少なくとも期間満了時には契約を解除できるため、貸主としては一定の安心感を得られます。

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