“新しい形の家選び”が増加中……あなたの生活のQOLを上げる選択肢はどれ?

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 人々のライフスタイルが多様になる中で、不動産コンサルティング会社さくら事務所会長の長嶋修氏は「賃貸住宅の選択肢も今後はより多様化していく」と話す。個人が幸せになるために取るべき選択肢について、長嶋氏が考える。全3回中の3回目。

※本稿は長嶋修著「2030年の不動産」(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成しています。

第1回:築浅・駅近マンション購入は「早ければ早い方がいい」築古リノベ物件に潜むリスク

第2回:3LDK以上の物件は売れづらくなる……「良いマンション」「要注意マンション」をわける意外なポイント

目次

QOLを向上させるマイホーム選び

 都心の好立地エリアではなく、「都心からやや離れ、最寄りの駅からも多少離れたエリア(なだらかに地価が下落する地域) 」に住もうという場合、不動産を買ったほうが得か、賃貸が得かと悩む人も多いでしょう。

 これは判断が難しいところです。買った直後から資産価値はじわじわと下がっていくので、トータルで考えたら賃貸のほうが得だったとなる可能性も大いにあるでしょう。資産価値が毎年2〜3%ずつ目減りしていくと仮定し、買うのと借りるのとでどれだけの差が出るのかシミュレーションしてみるとわかりやすいかもしれません。

 ただ得か損かという話をしましたが、そもそもマイホームは経済合理性だけで決めるべきものではありません。 「ちょっと不便だけど緑が多いエリアで、庭付きの戸建に住むのが理想」という人が、資産性を優先して大都会の駅前にそびえ立つタワマンに無理して住む、というのもおかしな話です。

 あるいは、賃貸住宅を渡り歩くような身軽な生活がしたいのに、「シミュレーションしてみると買ったほうが得だから」というだけの理由で、持ち家派に切り替える必然性もないでしょう。逆に、賃貸のほうがトータルの出費が少なくて済みそうだとしても、 「老後を考えてマイホームを持っておきたい」という気持ちを優先させることも間違いではありません。経済合理性だけにとらわれず、QOLを向上させるようなマイホーム選びをしたいものです。

シェアハウス/コレクティブハウスの可能性

 賃貸住宅の選択肢もより多様化していくでしょう。賃貸住宅を借りる際に、友人同士などで一緒に住んで、家賃や光熱費などを折半するのがご存じの通りルームシェアです。ずいぶん前からごく当たり前に行われているようですが、実は多くの賃貸住宅は同居禁止というルールを敷いているため、ルームシェア可の賃貸住宅は数が限られています。

 一方で、同居前提の賃貸住宅とされているのがシェアハウスです。シェアハウスは一つの物件を数人でシェアする住居形態。一軒家タイプが多く、空き家の有効活用という意味でも注目されています。住人はそれぞれの個室を持ち、リビングやキッチン、バス、トイレなどを共有します。生活家電が備え付けられている場合が多いので、初期コストが抑えられるほか、一人で借りて住むよりも家賃が安上がりというメリットがあります。

 シェアハウスが普及し始めてだいぶ時間が経ったこともあり、最近では外国人が多く住んでいて、日本にいながら国際交流ができる物件や、何らかの共通の趣味を持っていることを条件に募集するなど、コンセプトを掲げたシェアハウスも増えています。

 さらに、高齢者向けのシェアハウスも全国で作られ始めていて、人気が広がっています。シェアハウスなら老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに比べると家賃を抑えられますし、水道光熱費も住人同士で折半するので、一般の賃貸住宅より節約できる可能性が高くなります。

 何より、高齢者が一人で暮らしていると、体調が急変したときに誰にも気づいてもらえず、孤独死につながるというリスクがありますが、シェアハウスであれば入居者同士でコミュニケーションを図れるため、一定の安心感があります。介護サービスが必須な状態ではなく、身の回りのことは一通り自分でできる状態の高齢者の受け皿として、この先ますます普及していくでしょう。

 シェアハウスと同様にずいぶん前からあるものの、これまであまり普及してこなかった住居の形態に「コレクティブハウス」があります。コレクティブハウスは、シェアハウスと同じく、広い家に複数の人と共同で住むというもの。シェアハウスの入居者は基本的に単身者ですが、コレクティブハウスでは年代も家族構成もさまざまな世帯が一緒に生活します。物件にもよりますが、多くは居室に個々のキッチン・バス・トイレがついており、さまざまな設備(広いキッチン、図書コーナー、コワーキングスペースなど)を入居者同士で共有するシステムになっています。

 もともとは北欧で生まれた生活様式で、シングルマザー・シングルファザーやシニアなどがともに住み、お互いに助け合いながら生活できる点が最大のメリットとされています。もちろん、他人とのかかわりが多くなる分、意見が衝突することもあるでしょうが、一人で生活するデメリットを補い合える点を魅力に感じる人は多いはずです。日本ではまだ数が少ないですが、シェアハウスと同様に増加していくことが考えられます。

進む自治体格差、流山市の成功例

 人口減少と高齢化が進んでいく郊外エリアでは、自治体が人の取り合いをしています。自治体にとってとりわけ重要なのは、若い世代(生産年齢人口)の確保です。若い世代が減ると、自治体の歳入(税収)が減ります。一方、高齢者が増えると医療・福祉といった扶助費が増えるため、自治体にとっては重荷です。

 そのため、各自治体は若い世代の転入を増やすべく、さまざまな施策を打ち出しています。その施策がうまくいっている自治体は生産年齢人口が増加、もしくは維持できていますが、そうでない自治体は人口が減り、高齢化率が上がり続けています。状況が悪化すると財政が逼迫し、行政サービスが滞るなどの問題が出てくるかもしれません。

 すでに自治体間の格差は広がっています。主要駅の駅前を見るだけでも、その差は歴然としています。人が増えている自治体では駅前に活気があり、商業施設も充実して休日ともなると多くの家族連れで賑わっています。一方、高齢化が進んで人が減りゆく街の駅前は、コンビニや飲食店などのチェーン店も少なく、シャッターが閉まった建物が目立って閑散としています。2030年頃には、この格差がより一層顕著になっているでしょう。

 自治体経営の成功者としてよく名前が挙がるのは、千葉県の流山市です。流山市は人口増加率が全自治体の中でもトップクラス。特に、若い世代の流入が相次いでいます。郊外エリアの一都市に過ぎなかった流山市が、人口20万人を超える中核都市に成長するきっかけとなったのは、つくばエクスプレスの開通です。つくばエクスプレスは東京都心部の秋葉原駅と茨城県のつくば駅を結ぶ鉄道路線で、2005年に開通。これにより、流山市から都心まで20分強でアクセスできるようになりました。

 利便性という強い武器を手に入れた流山市は、そこから子育て世代に着目し、都心に通勤する共働き世帯を手厚く支援する取り組みを展開します。たとえば、2010年には17しかなかった認可保育園を、2024年4月時点には100以上まで増加させました。さらに、送迎保育ステーションを設置し、保護者が駅で子どもを送り迎えできるようにしたことでも、大いに支持を集めています。

 2024年に東京の葛飾区でも試験的に送迎保育ステーションを導入して話題になりましたが、流山モデルの子育て支援策は多くの自治体に影響を与えています。流山市は街のPRも巧みで、全国の基礎自治体としては初めて役所の中にマーケティング課を設立したことでも知られています。民間企業でマーケティングに携わってきた人材が手腕を発揮し、さまざまなイベントの企画やメディアへの積極的なアプローチも展開。 「母になるなら、流山市。父になるなら、流山市。 」というキャッチコピーは鮮烈な印象を与え、実際に子育て世代の心を摑みました。 

「ながれやまStyle」というオウンドメディアでの情報発信も怠りません。この流山モデルを参考にしている自治体は増えつつありますが、まだ流山市ほどの成功事例は見当たりません。しかし、2030年頃には第二の流山市が登場している可能性もあるでしょう。ただし、そのためには立地適正化計画の推進や駅前の再開発、子育て世代の支援といった抜本的な改革が必要になってきます。

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この記事の著者
長嶋修

不動産コンサルタント。さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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