「推薦入試の面接は陽キャが有利」は嘘!“面接なしの推薦”でも早稲田・慶應に行ける道がある

「大学の推薦入試」と効くと、「面接に得意な陽キャが選ばれがちだ」と考える人も少なくないだろう。だが受験ジャーナリストの杉浦由美子氏は、「大学の教授陣が陽キャ気取りの受験生に共感するかは疑問」と指摘する。昨今の面接事情を杉浦氏が紹介する。全3回中の1回目。
※本稿は杉浦由美子著「大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法」(青春出版社)から抜粋・再構成したものです。
第2回:“おだやかな面接”と“厳しい面接”をわけるのは「志望理由書」……AIが書いてもプロが書いても一目でバレる
第3回:偏差値40台で上智大も!「偏差値58未満」であれば推薦入試を検討すべし
目次
「面接はプレゼン能力が高い人が有利」の誤解
「どうして推薦入試を受験したんですか?」と総合型選抜で難関大学に合格した学生に訊くと、こう返ってきました。
「母が『おまえは人見知りしないし、話をするのが得意だから総合型選抜に向いているんじゃないの』と薦めてきたんです」
お母さまは今でも「うちの子は明るくて話すのが得意だから総合型選抜で大学に合格した」と信じているかもしれませんが、それは勘違いされています。
「総合型選抜や公募制は面接重視なのでプレゼン能力が高い生徒が合格していく」という誤解を塾や高校もしていることが非常に多いです。
ある大手塾の講師もいいました。
「真面目すぎる子は総合型選抜や公募制には合いません。コミュニケーション能力が高くて、明るい性格の子に向いています」
私も最初はそう思っていました。私はテレビのコメンテーターとなんどか食事をしましたが、彼らはとにかく話し方がうまく、プレゼン能力が高いのです。ある女性のコメンテーターは、会社員時代にアシスタント的な立場で関わったプロジェクトを「私が中心になって成功させた」と堂々と話していました。その会社とつき合いがあって、事情を知っている私がいるのにですよ。
かつては敬遠されていた「AO入試組」
また、別のコメンテーターは有名な東京大学のA教授の名前を出し、「僕はAさんのゼミの学生でかわいがってもらっている。今度、Aさんを紹介しますよ」と私にメールを送ってきました。でも、実はこのコメンテーターはそのA教授のゼミの飲み会に潜り込んでいただけでした。
ほかのコメンテーターたちも皆そんな感じで、自分を大きく見せることがうまかったのですが、彼らの共通点はAO入試で慶應義塾大学に入学していることでした。
それ以外にも、社交的でプレゼン能⼒だけは⾼いけれど、実務能⼒がないAO⼊試組に仕事で接することが多く、彼らが「ありえない」ミスをして、⼤きなトラブルになっていったこともありました。そのため、⼀時期、私はちょっとした「AO⼊試組恐怖症」になったぐらいです。
多くの企業でも私同様にAO入試組に手を焼く人が多かったようで、その頃、企業の新卒採用で、AO入試組は避けられるという傾向が強まっていました。「口ばかりがうまく、実務ができない」とAO入試組は嫌われていました。当時は指定校推薦や系列校からの推薦入試組も能力が足りないという理由で、採用で敬遠されていました。
それでは大学は困ります。大学は優秀な人材を企業に送りだすことが役割だからです。そこで推薦入試も〝てこ入れ〟をし、指定校推薦の条件を評定平均値だけではなく英語資格試験のスコアも求めたり、総合型選抜や公募制でも学生の能力を見極めたりして、しっかりと選抜するようになっていきました。
そのため、就職での事情も変化しています。就職情報サービスの新卒担当者はいいます。
「今は推薦入試でもきちんと学生を選抜するようになってきているため、推薦入試組も一般選抜組も能力に差がありませんから、採用で不利になることはありません。エントリーシートに入学の方法を書かせる欄があってもあくまでも参考にするだけです。出身地を訊いてもそれで差別しないのと同じですよ。ただ、推薦入試組の学生が『僕らは不利なんじゃないか』と過剰に気にすることは問題ですね」
「海外ボランティア経験」はなくてもいい
さて、なぜ、「しゃべるのが得意な陽キャが総合型選抜や公募制では有利」という誤解が生まれるのでしょう。先に話したように、メディアに出ているAO入試組の影響があるでしょう。それに加えて、ネットで配信されている合格者のインタビュー動画には、快活に自分をアピールする学生が出てくるからではないでしょうか。
たとえば、早稲田大学が公開している地域探究・貢献入試の紹介のサイト。ここで配信されているプロモーション動画でも、合格者たちは手慣れた感じで明るい表情かつ、よく通る声で受験体験を話し、「地方在住だったので早稲田に進学するなんて考えてもいなかった」「海外ボランティア経験をアピールしました」という旨を語ります。
これを見ると「面接でさぞ華麗に海外経験をアピールしたんだろうなあ」と想像しそうですが、実は地域探究・貢献入試には面接がありません。書類審査と筆記試験、早稲田の総合型選抜は面接がない共通テストの点数で合否は決まります。つまり、彼らの志望理由書などの提出書類がよく書けていて、筆記試験と共通テストできちんと点数を取ったから合格したのです。教授陣は彼らと面識のない状態で合格を出しています。
つまり、地域探究・貢献入試の合格者に「動画に出てくれる人はいる?」と大学側が声をかけたところ、「はい、やります」と応じてくれたのは、人前で快活に話すのが得意な学生だったと推測できます。引っ込み思案の合格者は躊躇するでしょうから。
早稲田塾の執行役員、中川さんもこう話します。
「もちろん、話し方がうまければコミュニケーションが円滑になりますから、面接ではそれはプラス材料になります。ただ、実際にはしゃべるのが苦手な子でもちゃんと話ができれば問題ないです」
早稲田塾は推薦対策塾の老舗かつ最大手で、首都圏の総合型選抜に関してはもっとも情報を持っている塾です。ナガセグループの傘下でもあり、大学とのつながりもあります。
その早稲田塾を今回、かなりしっかりと取材しましたが、話の大半は志望理由書に関することで面接の話はこちらから訊かないと出てこないくらいでした。
他の大手推薦塾に通って合格した学生たちも「面接の練習は一度だけ受講した」という程度で、特別に力を入れていなかったことが分かります。実は総合型選抜や公募制は、面接はメインではないのです。
面接ナシで早稲田・慶應へ
先に早稲田大学の地域探究・貢献入試は面接がないと紹介しましたが、同じ早稲田大学の国際教養学部、そして、慶應義塾大学の文学部、東京科学大学(旧東京工業大学)の公募制の一部は面接がありません。
なぜ、面接がないのでしょう。
塾の代表、山永絵里香さんが慶應義塾大学文学部の総合型選抜についてこう話していて「なるほど」と思いました。
「面接がないということは、あまり書類を見ていないということです」
ここでいう書類とは志望理由書です。総合型選抜や公募制は志望理由書を重視するケースが多いのですが、早稲田の国際教養学部と慶應の文学部はペーパー試験を課し、一般選抜より難しい英語の問題を出します。早稲田の国際教養は英検1級がないと受からないという噂が流れていますが、実際には、準1級でも合格しています。
⾼度な⽂法⼒も求めるので、しっかりと勉強をしてきた⽣徒でないと受かりません。ペーパー試験の点数を重視するので、その分、志望理由書の評価の比重は下がると推測できます。