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渡邊渚インタビュー「病んでる人間がグラビアに出るな」“元気そう”でいることが叩かれる、この社会で(聞き手・吉田豪)

 テレビから姿を消していた元フジテレビアナウンサー・渡邊渚さんが、いま少しずつ言葉を取り戻している。前編では、休業中の様子やSNSでの誹謗中傷への向き合い方、そして「私だから死んでないだけ」と語る彼女の強さと繊細さが見えてきた。後編では、PTSDの発症から回復までの過程、生活の中で起きた変化、家族や社会との関係、そしてこれからの生き方について、プロインタビュアー吉田豪氏の前で、静かに、率直に語ってもらった。

目次

毎年書いていた遺書が「本物」になる危機感

――休業中、最初にインスタで体調不良だと告白したときがあったじゃないですか。あれが10月22日だったから、毎年必ず遺書を書く(2004年10月23日、7歳のとき新潟県中越地震に被災。これをきっかけに、毎日寝る前には「家族や大切な人たちが苦しむことなく、明日を笑って過ごせますように」と祈り、毎年10月には遺書を書くようになった)って知ったあとだと意味がわかるんですよね。あの年には遺書が書けなかったってことだから、そのタイミングでまず現状を打ち明けたんだろうなって。

渡邊 そういう感じですね。あの年は書けなくて。書いたらその遺書が本物になっちゃいそうと思っていました。

――遺書といっても基本、ポジティブな内容ではあるんですよね。

渡邊 そうですね。これからの人生で何をしたいか考えて、道しるべになるような計画書みたいな感じにもなってたので。それが、いま書いたらこれホントに遺書になっちゃう、これから自殺しちゃうかもって。

――希望や夢を失った段階で書くのは危険ですよね。

渡邊 はい。なので無理かもと思って。でも、なんにも書かないのも変だしなって思ってました。

――それで、書ける範囲でとりあえず現状を報告した、と。……ホントにお疲れさまです。

渡邊 いやいや、私ひとりではここまで元気になれなかったので。

――運もあるじゃないですか。病院に行ったものの、医者と合わなくてそれっきり通わなくなっちゃう人もたくさんいるし。

渡邊 いますね。たまたま運がよかったのと、あとは私のもともとの性格もポジティブに働いたんじゃないかなとは思いますね。負けたくない、みたいな。ぜんぜん気が強いわけではないんですけど、ぜんぜん弱いし。でも最後の最後、あとちょっとだけ生きてみようかな、みたいなパワーがほんのちょっとだけあったっていう。

――気が強いわけではないのかもしれないけど、芯は強いタイプなんだろうなと思ったんですよ。

渡邊 ぜんぜん自覚はないんですよね。

――女子アナ時代から「私は玉の輿という言葉が嫌いです」みたいなことも言ってました。

渡邊 それは嫌いです。子供の頃からそうなんですけど、女とか性別で区切られるのが好きじゃなかったんですよ。両親の育て方的にも、私は妹がいるんですけど、ふたりとも女ひとりでも生きていけるように、そういう時代だからっていう感じだったし、行った学校も「男性に頼る人生を送るの?」みたいなスタンスの学校だったんです。だから自立した人間になるっていう気持ちは大きくて、子供の頃から玉の輿って言葉は気持ち悪いなと思ってましたね。

――ところが、女子アナのゴールはだいたいそういうもの、みたいな感じで思われてましたからね。

渡邊 そういう人たちがいたからこそ、まかり通ってきちゃったんだろうなと思うんですよ。自分の仕事上あまり関係のなさそうな人との食事に連れて行かれることも多々ありましたし。

――「私は早く帰って家でボトルシップ作りたいのに」って(笑)。

渡邊 そうですね。でも、世間から見たら女子アナという枠でひと括りにされるわけじゃないですか、キャピキャピしてて玉の輿しか考えてない、野球選手大好きみたいな、勝手にそういうレッテルを貼られちゃう、でもぜんぜん違うんだけどなーと思ってました。

――当然いろんな人がいますからね。

渡邊 括らないでと思ってましたね。

――そういうものが好きじゃない人だったわけですよね、飲み会的なものもそうだし。

渡邊 そうですね。休んでようやく外界とちゃんと接して、ふつうの一般企業にはデスクの下に「ハラスメントがあったらここに連絡してください」という紙が貼ってある、と。それが女性社員にとっては守りの電話にもなるし、男性社員にとっては戒めの電話になる。何かあったらここにすぐ連絡できるんだっていうのを提示されてるって、銀行とか不動産会社に勤めてる友達の話を聞いて、「そうなんだ!それが社会の一般か!」と思いましたもん。遅れてたなって。でも、中にいたら自分たちが遅れてるっていうことに気づかないんだなって。いまいろんなところでお仕事して、仕事相手は芸能だけじゃないので、いろんな世界を見て「はぁ……」って。

――どこも結構ちゃんとしてる。

渡邊 ちゃんとしてます。いま福祉的な仕事もしてるから、こういうお仕事もあるんだな、こうやって社会で救われていったりっていう流れができるんだなっていうのを勉強してて、すごく視野が広がりました。

フジを退職する際に言われた母からの痛烈な言葉

――本を読んで、フジテレビを辞めようとしたときのお母さんの発言にもビックリしたんですけど、お母さんはそういうことをけっこう言っちゃう人なんですか?

渡邊 母はけっこう辛辣なんですよ。世の中の悪い意見をいったん総まとめで全部言ってくる、みたいな(笑)。

――ダハハハハ!先に食らわせておく(笑)。

渡邊 はい。それで私もある程度、心構えができるんですよね。「ですよねー、そういう見方ありますよねー」っていう(笑)。

――それでお母さんが「アナウンサーじゃない渡邊渚になんの価値があるの?」と言ってきたんですね。

渡邊 「お、それ母親が言う?」とは思いましたよ。

――弱ってるときにそれって、けっこう食らうじゃないですか。

渡邊 はい、けっこう食らいますね。でも、そうよねって。自分を内省するきっかけにはなります。

――これが一般世間の見方なんだ、と。

渡邊 そうです。じゃあ私はそこからどうやって生きていくんだっていうのを考えて。辛辣なことを言う人も必要だし、自分に甘い人間だけが周りにいてもよくないと思うので。

――よくも悪くもそういう育てられ方をして芯が強くなった部分もあるのかもしれない?

渡邊 柔軟に育てられたっていう感じもしますね。あらゆる意見を言われても、いったん全部「そうか!」って受け止めるんですよ、私。社会の罵詈雑言もいったん全部受け止めて、「そうか、そういう見方もあるか」みたいな。そんなに怒るっていう感じではないんですよ。1回受け止めて、「そうよね、じゃあ私はどうしようかな」って受け止めて考えて実行するっていうスキームを、厳しい母親が意図せずにやってたことで作り出されたという感じです。

――怒りの感情がないとか、子供の頃から我慢が得意でなんでもひとりで解決できると思いこむタイプだから、心の声を言語化することも誰かに相談することもやり方がわからなかったとか聞きましたけど、ボクもそうなんですよ。

渡邊 多いと思います。特に日本人は自分の意見を……意見と心の声って違うと思うんですよ。意見はどちらかというと考え方とか頭のなかを言葉にすることで。私も考えをディベートするみたいな教育は若干受けてきてるから、そこはできるようになってるし、そういう社会にもなってるんだろうなと思うんです。そうしないと世界で通用しない人材になるから。でも、心の声を言語化するってあんまり教育にないんですよね。現在の道徳の教科書とか見ても、それをどうやったらできるのかって結局あんまりわからなかったりして。感情って喜怒哀楽の4文字くらいでしかわからない、みたいな。素直に自分の心を言葉にして誰かに伝えることができたら楽になれるんだよなっていうのを、私はこの2年くらいですごく感じたので。

――人に甘えないことがいいとされがちじゃないですか。

渡邊 日本の社会は我慢が美徳って言われてますよね。

――愚痴をこぼさないのが偉い、みたいな。

渡邊 ただ「それってホントに健康ですか?」って。

――それがわかったんですね。結局、とんでもなくたいへんな目に遭ったけど、そこから人としての学びが出来た部分もあるって言っていいのかどうか……。

渡邊 そうですね、人間としての厚みが生まれたのかなっていうのと、いろんな立場になって考えることができるようになったので、視点が増えて自分のことも世の中のこともちゃんと多面的に見られるようになったと思ってます。

「PTSDにはグラビアできない」という世間の偏見

――グラビアの仕事もやった結果、けっこう叩かれたりもしてるじゃないですか。それもそんなにしんどくないですか?

渡邊 グラビアに関して言えば、世の中のグラビアという言葉に対する認識がそもそも間違ってるので。グラビアって印刷方法じゃないですか。

――そうなんですよね。グラビア印刷というものが存在して、いまのいわゆるグラビアはほとんどグラビア印刷じゃないんですよね。

渡邊 世の中では「グラビア=エロ」みたいに思われてますけど、「グラビア=性的に売る」ではないんですよ。写真として残してるだけなんです。「PTSDにはグラビアはできない」とか言われても、いやいやできますよっていう。それは冷静にその意見のほうが間違ってるので。

――しんどい思いをした人が笑顔でグラビアをするのはおかしいって批判に関しては、意味がわからないですからね。

渡邊 ホントそうなんですよね。じゃあ他の病気になった人もできないんですか?って。できるじゃないですか。なんで笑って過ごしちゃいけないの?笑顔で過ごすのを世間から止められるのは、ちょっと違うんじゃないかな、と思っています。

――何かの被害者になった人が笑顔を見せたときに「おかしい!」って言い出す最近の風潮ってホントに謎なんですよ。そりゃあ、どんな人だって楽しかったら笑うでしょうって話なのに。

渡邊 だからグラビアとかは何も思ってないですし、PTSDになる前からグラビアはやってたので。ふつうにいままでも撮られてたし、変な盗撮されるよりはいいじゃないっていう。

――ちゃんと自分でコントロールできるものを出してるだけだと。

渡邊 そのほうがいいに決まっていますし。

「お肉やお魚を家に置きたくない」PTSD後に起きた異変

――あと「いまはフルーツグラノーラとグミしか食べてないっていう発言もあって、ちょっと心配なんですよ。

渡邊 ホントです。人とご飯を食べるんだったら行けるんですけど、自分ひとりのためにご飯を作れないというか(笑)。

――セルフネグレクト的なことでもあるんですかね?

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この記事の著者
吉田豪

1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。

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