「親と不仲&友達が少ない人が多い」地方女性、「専業主婦の母親&教育熱心な家庭が多い」東京女性――東大女性の中にも大きな差

日本が誇る最高学府・東京大学。ただし、東大の特任研究員・久保京子氏によると、東大に進む人物に一様のバックグラウンドがあるわけではないという。とりわけ「東京出身の女性」と「地方出身の女性」には、大きなへだたりがあることが調査によって示されたとしている。調査から浮かび上がってきた、東大に進む女性の“地方格差”とは。全3回中の1回目。
※本稿は本田由紀編『「東大卒」の研究——データからみる学歴エリート』(ちくま新書)から抜粋、再構成しています。
第1回:「親と不仲&友達が少ない人が多い」地方女性、「専業主婦の母親&教育熱心な家庭が多い」東京女性――東大女性の中にも大きな差
第2回:東大卒の親はやっぱり高学歴……東大卒業生調査が明らかにした「高学歴再生産」の実態
目次
東大生の母親は東京では無就業、地方ではフルタイム
高校時代の母親の働き方(就業形態)について見ていきましょう。東大卒業生調査では、回答者が高校生の頃の母親の就業形態を「フルタイム」「パートタイム」「無就業」から選択する形式で尋ねています。

まずは、母親のフルタイム率を見てみましょう。1985年以前世代では、東京圏で低く、地方で高くなっています。しかしそこから1986年以降世代への動きが異なり、東京圏男性が微減、地方男性は微増、地方女性は大幅な増加、東京圏女性は減少がみられます。
母親無就業率については、1985年以前世代では、東京圏男女で高く、地方男性で低くなっています。1986年以降世代では、地方男性、東京圏男性、地方女性では母親無業率が減少していますが、東京圏女性ではほぼ変わりません。これらの変化によって、1986年以降世代では、地方女性は最も母親フルタイム率が高く、東京圏女性は最も母親フルタイム率が低く、母親無就業率が最も高くなっています。
回答者が高校生の頃ではありませんが、母親の就業形態と深いかかわりのある子ども時代の親の育て方(図表1-6)のうち、「あなたに関して保育所やベビーシッターなどをよく利用した」を見ると、どちらの年代でもほかのグループに比べて、地方女性が「当てはまる」と回答した割合が多く、さらに1986年以降世代では、東京圏女性で他のグループよりも大幅に少なくなっています。
これは、地方女性の母親でフルタイム勤務が多いこと、東京圏女性で無就業率が高くなったことが理由であると考えられます。つまり、東京大学の女性の中でも、東京圏女性は専業主婦である母親の姿を見て育っているのに対し、地方女性は働く母親の姿を見ている、言い換えれば、最も身近な大人の女性の属性が東京圏と地方圏の間で全く異なるのです。
子ども時代の経験にもみられる「東京」「地方」の差
次に、東大卒業者の子ども時代の親の育て方を見てみましょう。
保護者の子育てに関する以下の項目「あなたに本の読み聞かせをした(以下、読み聞かせ)」「あなたを博物館や美術館に連れて行くことが多かった(以下、博物館・美術館)」「あなたに勉強を教えることが多かった(以下、勉強を教える)」「あなたにスポーツや習い事をさせることが多かった(以下、スポーツ・習い事)」における4グループの違いを図表1-6に示しました。

実際のところ、これらはすべて東京圏女性で、いずれの年代も「当てはまる」と回答した割合が高くなっています。そのうえで、地方女性を見てみると、1985年以前世代では、地方女性は「博物館・美術館」が東京圏女性と同程度に「当てはまる」と回答した割合が高く、「勉強を教える」も同程度に高くなっています。
しかし、1986年以降世代では、「博物館・美術館」「勉強を教える」で東京圏女性との差が広がり、そのかわり、「読み聞かせ」で東京圏女性以上に「当てはまる」と回答した割合が高くなっています。地方女性の子ども時代の親の子育てが、お金がかからないもの、親の学歴に依存しないものへ移っているといえるでしょう。
教育投資の中でも「スポーツ・習い事」については、子どもを私立・国立高校に進学させる(進学させることができる)家庭ほど過熱している状況があり、東京圏でも地方でも資源に恵まれている者と恵まれていない者との分断が見られます。
教育社会学者の本田由紀は、マイノリティである女性が東京大学に入学するには、学業成績以外に文化的資源による後押しが必要であることを指摘しています。4グループの分析から、それは東京圏女性において顕著であり、地方女性は地方の中では男性と比べてやや豊かではあるものの、東大卒女性全体で見ると、それほど恵まれているわけではないということがわかりました。また、地方女性の中でも格差が生じていることも示されました。
地方女性は「親と仲良くないこと」が重要?
親子関係についても見てみましょう。「父親も子育てを積極的に担当していた」は、地方女性は1985年以前世代では、「当てはまる」と回答した割合が高くなっています。しかし、「あなたと保護者は仲が良かった」では1985年以前世代の地方女性は他の3グループに比べて際立って低く、1986年以降世代ではその差が縮まっているもののその傾向は残っています。
1985年以前は、地方女性にとって、父親が子育てに関わっていることが重要であったことがわかります。これは、父親が子育てに関わることで精神的な安定性が得られたということかもしれませんし、家庭内で比較的高学歴である父親が子育てに関わることにより、ロールモデルに近い役割を果たしたからかもしれません。
一方で、親子の仲は良かったわけではなく、有意差が消失しているものの、その傾向は1986年以降も続いています。地方女性にとっては、小学生までとはいえ、親子関係が良好ではないことが東大進学に何かしら影響を与えているようです。地方の親が子どもに、地元に残ってほしい、浪人はやめて欲しいと求めることは、進路選択に影響を与えることが知られています。子どものチャレンジ精神を阻む親の願望に立ち向かって自分の意思を通すために、地方女性には「親との仲の良くなさ」が重要なのかもしれません。
地方女性に目立つ「交際歴」
小学校までの親の子育てだけではなく、大学進学の時期が近づいた高校時代の経験を見ていきましょう。1985年以前世代では「多くの本を読んでいた」は、地方女性、東京圏女性の両方で多く(「やや当てはまる」と「とても当てはまる」の合計、地方女性83%、東京圏女性90%)、女性に共通した特徴といえます。1986年以降世代では、地方女性が際立って高く、地方女性の特徴といえるでしょう。

「1年以上の海外生活」は、各年代で東京圏女性が突出して高くなっています。これは東京圏女性の特徴の一つといえるでしょう。地方女性は、経済的豊かさにそれほど左右されない読書量が重要である一方で、東京女性は海外経験という豊かな資源を持っていることがわかります。
高校時代の経験のうち「友だちが多かった」については、1985年以前世代で「当てはまる」と回答した割合は、ほかのグループが過半数を超えているのに対して、地方女性では36%と少なくなっています。1986年以降世代でも、有意差はないものの、他のグループよりも少ない傾向が続いています。
出身高校の設置主体間で比較すると、1985年以前世代では、地方において、私立・国立で肯定的な意見が東京圏女性と同じ水準まで増えていました(地方・私立国立55%、地方・公立23%)。友だちが多くないことは、公立高校出身の地方女性の特徴といえるでしょう。地方であっても、私立や国立の高校であれば、仲間を作って東京大学を目指すことができるかもしれませんが、地方公立高校の女性は、孤独な状態で進路を決定し、受験勉強を頑張っている様子がうかがえます。
「異性と交際した経験があった(異性と交際した)」については、1985年以前世代では、地方女性が3グループより多く、1986年以降世代では有意差はないものの、他のグループよりも多く、地方の特徴であるといえそうです。交際相手が地方女性の東大進学のキーパーソンになっている可能性も考えられますが、今回のデータからは明らかな理由は導き出せません。この点を明確にするためには、さらなる調査が必要でしょう。