足立区の最果てにある「リトル・イタリア」北綾瀬が「ららテラス」爆誕で晴海フラッグに完全勝利している…もう治安最低とは言わせない

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」。
書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第4回は「ららテラス」のオープン(2025年6月)で従来の足立区ブランドからの脱却を図っている「北綾瀬」周辺を歩く。
目次
足立区の最果て駅
そこは、ジェネリック晴海フラッグ。都内在住者でも、北綾瀬を訪れたことがある人は、そうそういないと思う。
そこは、東京メトロ千代田線の終着駅。綾瀬車両基地に隣接する駅は、ほかの路線と接続もない孤立した駅。かつては、隣の綾瀬駅との間を往復する電車に乗り換えなければ、たどり着くことができなかった。2019年以降は、代々木上原方面との直通列車も走るようになったが、すべての列車がそうではない。むしろ千代田線が綾瀬駅止まりと北綾瀬駅までいく列車などが混在するようになり、ややこしい。

イタリア感はないけど看板はオシャレでやる気を感じる(筆者撮影)
今回も、漫然と乗っていたら綾瀬駅止まり。駅員さんに「北綾瀬に行きたいんですけど」と尋ねたところ「0番線です」と。ホームにたどり着いてみたら次の列車は3番線であった。
このように、慣れていなければたどり着くことも困難な足立区の最果て駅。しかし、たどり着いた北綾瀬駅にすでに辺境の風は吹いていなかった。
「愉快な、うれしい、楽しい」北綾瀬
かつての閑散とした風景と違い、現在の北綾瀬駅前は郊外のニュータウン然としている。まず改札を出ると目の前にあるのは、駅ビル。駅前の猫の額のような土地に駅ビルを建設、さらに高架下にも店舗を入居させ全12店舗の「M’av北綾瀬Lieta」が形成されている。運営する東京メトロのサイトによれば、名称は「マーヴ」はメトロアベニューの造語」、「Lieta(リエッタ)」はイタリア語で「愉快な、うれしい、楽しい」という意味だそう。

土地を工夫して店舗を誘致。ただこれだけで北綾瀬が激変してる(筆者撮影)
リエッタといえば、イタリアの陽気な街角のカフェや、地中海の青い海を思い浮かべるかもしれない。だがイタリア感は皆無である。
とはいえ、店舗構成は優れている。改札を出たところには、焼きたてパンのリトルマーメイド。コンビニはセブン-イレブン。軽食はモスバーガー。レストランは日高屋と和幸が入っている。これに100円ショップのキャンドゥと、Y`sマートが入っているのだから、生活に必要なものはほぼ揃ってしまう。
イタリアンカフェで優雅にエスプレッソを飲むような洒落っ気はないかもしれないが、実用性という点では文句のつけようがない。
北綾瀬は実にイタリア的
この名前とは裏腹な利便性に溢れる生活感を筆者は晴海の商業施設・晴海トリトンでも見ている。2001年の開業当初はイタリアの伝統的な花祭りとして有名な「インフィオラータ」を開催するくらいにイタリア志向だった施設は、今ではトモズ(薬局)やダイソーなど生活感満載だ。かつてはイタリア全開だった建物でサラリーマンがラーメンを啜り、子供が走り回っている。
結局は、等身大の暮らしの営み。それこそが、日本人が本当に求めていた「イタリア」だったのではないだろうか。

オシャレなマンションも増えたが、前の道を走っていくのはトラック(筆者撮影)
そうした思考でみると、北綾瀬は実にイタリア的である。代々木上原方面へ列車が直通、そうでなくとも綾瀬駅で乗り換えれば、都心への移動は難ではない。その利便性が注目されたのか、マンションが建ち並び新住民は増えている。同時に増えているのは一戸建ての建売住宅だ。東京23区で一戸建てなど、相当稼いでいる人であっても、夢のまた夢だろう。
ところが北綾瀬であれば、射程圏内だ。不動産情報サイトSUUMOを検索してみると、北綾瀬駅徒歩19分の3LDK建物面積109.73㎡が7780万円。徒歩30分を超えると同程度で6800万円台の物件もある。
つまり、一定水準程度のパワーカップルにとっては、高騰する湾岸のタワマンよりも現実的かつ、土地という財産も手に入るというわけだ。
ブルーカラーが主役の街
今回、取材の途中で立ち寄ったマクドナルドでは、店の前に屯するUber配達員の姿もあった。そう、足立区の辺境と思われたこの土地に、すでにビックマックごときを、わざわざ他人に手間賃を払って運ばせる余裕のある階層が住むようになっているのだ。