葛飾区の最果てにある街が住みやすいのはスタバがあるからじゃない「アドバルーンと丸源ラーメン」があるからだ…意識低い系が愛する都会のオアシスを歩く

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」。
書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第5回は今年9月にオープンした「MARK IS 葛飾かなまち」で湧く「金町」周辺を歩く。
目次
ショッピングモールオープン時にアドバルーンが飛ぶ町
丸源ラーメンがある時点で、金町は住みやすい町だと決まっている。
子連れでも入りやすく、ホスピタリティ溢れる丸源ラーメンだが、基本は郊外型店舗。23区の出店はあまり多くない。ゆえに丸源ラーメンがあえて出店している金町がいかに子育て世代にとって住みやすい街か理解できるだろう。
今回、金町を訪れた理由は、9月3日にオープンした「MARK IS 葛飾かなまち」がきっかけだ。店舗も多い金町であるが、これまで周辺にショッピングモールは存在していなかった。もっとも近いモールは、隣の亀有駅近くにある「アリオ亀有」である。広大な「アリオ亀有」ほどの面積はなくとも、大型商業施設のオープンは金町をさらに魅力的な街に変えるのではないか。それに期待しつつ、オープン当日朝から客として訪れて見ることに……。客目線が重要なので、プレスでは入らない。

この店舗構成にカルディが混じっている。これぞ金町らしさではないか

とりあえずどこにでもありそうなチェーン店は一通り揃ってる利便性はもっと評価されるべき
さて、この商業施設のオープンは金町では大きな出来事である。駅前には「今日からオープンです」とチラシを配る人々があり、店へと向かう東京理科大学通りには看板を持った人も立っている。
そして空を見上げて、驚いた。そこには、オープンを知らせるアドバルーンが!
かつては、デパートの屋上などで当たり前に見られたアドバルーンだが、高層建築物が増えた現代では、その数も少なくなっている。どちらかというと、昭和を感じさせるノスタルジックなものだろう。そんなアドバルーンを掲げてオープンを祝うセンス。そして、その情景が似合う金町が魅力的でないはずがない。
令和の時代になんと10円ゲームが
そもそも、この「MARK IS 葛飾かなまち」自体がキャラ立ちした商業施設である。この区画の再開発エリアにあった著名施設が金町自動車教習所。スーパーの屋上が教習コースになっているという、一風変わった教習所である。そんな教習所は「MARK IS 葛飾かなまち」の上階に移転。ショッピングモールの上が教習所というのは、なかなかレアなスタイルである。なお、旧教習所の建物は今後マンションに生まれ変わる予定だ。
そんな旧教習所を眺めつつ、入り口を目指していると大行列が!! その行列たるや、店に入るための人だけでなく、駐輪場に自転車を止めたい人まで並んでいるというもの。予想だにしなかった行列なのか、みんな「ええ!」とか「ひやっ!」とか声を出している。あたかも全金町住民が、集結しているかのような狂乱だ。

丸源ラーメンがある。ただこれだけで金町に引っ越す理由にはなる

駐輪場すら並ばないと入れないなんて。一体どれだけの人が、この商業施設に期待を?
残暑厳しい折だというのに、この行列は本当に長かった。一度は入り口の前を通り過ぎて建物の裏へ、ほぼ入り口と真逆の裏まで回ってからUターン。それでも待ち時間40分程度で入店できたから、かなりオペレーションはスムーズだったと思われる。
店舗構成は1階がスーパー、2階以上が専門店という一般的な構成だ。この中で、特に注目したいのが3階である。フードコート、子供服、ゲームセンターなどが揃うフロアなのだが、このゲームセンター(実質、クレーンゲームコーナー)が、やたらと広い。かつ、10円で遊べるものまでが設置されている。令和の時代に10円ゲーム!渋谷や新宿では100円が当たり前の中、この価格設定だけで金町の良心が伝わってくる。
ひとまず、子供連れにまじってプレイしてみたが、設定は緩い。巨大な駄菓子店もあるし、子供を楽しませて、普段の買い物もという計算し尽くされた店舗になっている。
驚愕の人口増!一部エリアはなんと2倍に
「アリオ亀有」には店舗数と面積では劣るものの、普段使い以上の設備が整っている。つまり、わざわざ「アリオ亀有」や「プラーレ松戸」まで出かける労力をかけなくても、十分に家族で楽しめる施設が地元にできたということだ。電車に乗って、駐車場を探して、混雑に巻き込まれて……そんな大げさな外出をしなくても、徒歩や自転車でふらっと立ち寄れる距離にこれだけの充実した施設がある。金町住民にとって、これほど便利なことはないだろう。

アリオ亀有には及ばないとしても、日常の買い物における不自由さは完全に消滅。金町は都心だ

タマネギが6個入り1袋で100円だと?ずっとこの価格なら俺も金町に引っ越す

古着専門店が巨大なスペースを取っているところにも金町らしさがあると思う
ちなみに、この規模の施設で喫煙所が2カ所。2階の大きな古着ショップが早々に賑わっていたことも、金町らしさとして記録しておきたい。
金町にこのような施設ができた理由は、施設周辺を歩けばよくわかる。2013年に工場跡地に東京理科大学が葛飾キャンパスを設置。それを契機として、都心までメトロ千代田線で直通の金町は、ニュータウンとして発展を遂げた。
マンションが目立つ「MARK IS 葛飾かなまち」周辺の人口を見てみると東金町1丁目は、2011年1月時点で2575人だったのが、2025年1月には5738人に増加。新宿6丁目は967人から6377人まで増えている。葛飾区自体の人口も43万5253人から46万9916人と増加しているわけだが、金町の人口増は目を見張るものがある。
加えて、東京理科大学は薬学部を野田市から移転しており、街を利用する人の人口はさらに増加している。「MARK IS 葛飾かなまち」は、当然、求められた施設だったといえるだろう。
肉体労働者仕様の重厚な品揃え
しかし、商業施設が増えて買い物が便利になっただけでは、単に凡庸な街である。金町の本当の魅力は、この子育て世代向けニュータウンエリアを囲むように、プロレタリアート感溢れる土着的な街が広がっていることにある。