基礎教養が抜け、「ミニ社会人養成施設」化する大学・・・“採用新時代”に担当者が見極めるべきポイント

近年、採用市場で「最近の学生は質が落ちた」という声を耳にする機会が増えた。以前と同じ学歴フィルターを使っているはずなのに、最近は優秀な学生に出会えない、せっかく優秀な学生に内定を出したのに他社に取られてしまった。
「かつては大学入試によって学生の能力がある程度振り分けられていましたが、今はそうではありません。同じ大学名でも、学生の能力差が非常に大きくなっているんです。特に、多くの企業が採用のボリュームゾーンとしているMARCH(明治、青山、立教、中央、法政)は、人口減少や大学教育の変化の影響を強く受けています。大学や学生の変化を知らないと、優秀な人材の取り逃してしまうかもしれません」
そう語るのは進学塾VAMOSの富永雄輔氏だ。採用担当者が知っておくべき現代の大学受験環境と、大学生の実像とは何か。全3回の最終回。
目次
「ミニ社会人養成施設」化する大学
前回は、価値観の変化によって大学生の性質が変わったこと、そしてインターン経験の拡大によって社会人基礎力が高まっていることをお話ししました。最終回となる今回は、この変化がもたらした代償と、採用担当者が本当に見極めるべきポイントについてお話しします。
現在の大学生はインターンの拡大や就活準備によって、社会人基礎力が高まっています。それにより採用担当者からすれば、学生の実務能力を事前に把握しやすくなりました。
一方で、大学側も本格的な人口減少時代を前に、教育の質的向上に力を入れています。少人数のプロジェクトベースドラーニングや企業連携型講義も積極的に展開されています。また、そのための施設やプログラムの充実も進めています。
しかし、この変化には負の側面があります。大学が「ミニ社会人養成機関化」してしまっているんです。本来であれば、大学で鍛えられるべきアカデミックな思考力や新しい発想といった能力が低下しており、基礎教養もかなり抜けている。
文学部だったら太宰やドストエフスキーを読む、経済学部であればアダム・スミスやケインズを学ぶといった骨太な知的訓練を積む時間は大幅に減ってしまいました。こうした変化はMARCHに限った話ではなく、全国の大学で起きている問題です。
大学と社会のギャップが減ったことで、新卒社会人の基礎スキルは全体的に底上げされました。ルール遵守が身についていて、指示されたことはしっかりやる「プチ社会人」とも言える学生たち。企業にとっては即戦力として使いやすい人材です。
パソコンスキル、コミュニケーション能力、時間管理術といった「即戦力としての優秀さ」は向上していますが、同じような環境・経験で育った「均質な優秀さ」になっているとも言えます。
彼らの中から批判的思考力、抽象的な概念を扱う力、新しい発想を生み出す力が備わっている人材を見つけ出さないと、十年後、二十年後に組織を革新していく人材が不足してしまうかもしれません。
こうした状況の中で、もう一つ見逃せない変化があります。大学が「ミニ社会人養成機関化」したことで、就職活動のノウハウが学生たちに行き渡りました。中には「就職活動について熱心に研究し、面接で高評価を得るための経歴を作り上げただけ」という”就活だけ上手な人材”も一定数存在します。