サラリーマンは「40代でFIRE」するのはやめなさい…早すぎるリタイアの大きな落とし穴

「自分の引退年齢を自分で決められるパラダイムシフトが起こっている」。そう話すのは、企業年金連合会の調査役として確定拠出年金の調査を担当するなど、老後のお金事情にも精通したファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんだ。山崎さんは「50歳代での “プチFIRE” を目指すべき」と勧めている。誰にとっても実現可能性が高いという “プチFIRE” とは――。 全3回中の3回目。
※本稿は『金持ちFIRE 貧乏FIRE』(宝島社)から抜粋、編集したものです。
第1回:ハーバード芸人パックン「アメリカではドケチ=貧乏ではありません」1セントの節約は1セントの儲けだ!
第2回:米国株で「自称FIRE」した人たちが迎えた ”貧乏FIRE生活” の冬…あんなに強気だったあの人たちの今
FIREを目指すには、まず収入を上げよ
私がFIREについて相談を受けたときのアドバイスはシンプルです。まずはしっかり稼ぎ、しっかり節約をして、そこから積み立ての原資を1万円でも2万円でもいいので、毎月増やすというサイクルをきちんと構築することです。
確実にFIREを成功させたいと考える普通のサラリーマンがまず行うべきは、年収を上げる努力です。仮に200万円を貯める場合、年収1000万円の人なら年収に占める貯蓄率は20%です。
一方、年収400万円の人が200万円を貯める場合、貯蓄率は年収の50%、手取りで考えれば70~80%を貯めることになりますので、ほぼ不可能ということになります。キャリアアップが FIRE実現に欠かせない第1ステップなのです。
年収を上げることができたら、次には年収の何割を貯められるかという問題が出てきます。そのために必要なのが「節約」です。同じ生活を低コストで行えるのであれば、より多く貯金ができるわけですから、それをいかに追求できるかがFIREの柱の2つ目になります。本気でFIREを目指す人は25%以上の貯蓄を目指してみてください。
また、節約自体もそれほど難しいことではありません。固定費の見直しや不要なサービスの解約、安売りの活用、家計簿アプリの活用などで、かなりのお金が節約できるはずです。家計の「見える化」が節約には大事なので、家計簿アプリを使った自動記帳、自動分析機能を活用してみてください。
普通のサラリーマンはTOPIXで十分
FIREを実現するためには、資産運用も欠かせません。「運用」でまず重要なのは、「運用利回りと毎月の積立額」のバランスから目標を導き出していくことです。例えば大まかに次のような3つのモデルが考えられます。
- 銀行預金のみの年0.01%モデル
- 国内外に分散投資を行い、投資信託により長期的に年4.0%程度を目指すモデル
- 年8%以上を目指す、個別株式などを活用した集中投資モデル
この中で、普通のサラリーマンの方にとって妥当なのは 2. のモデルでしょう。1. はリスクはほぼゼロですが、とてもFIREに必要な資産には到達しませんし、3. はリスクが大きすぎ、日々のメンテナンスに大きな負担が生じます。
そこで、2. のモデルを選択した場合ですが、普通の人の投資手法は「インデックスの長期積み立て投資」で十分です。例えばTOPIX連動のインデックスファンドを買っておくとTOPIXの騰落とほとんど同じ値動きを誰でも確実に得られます。
インデックス投資の最大のメリットは、運用の負担とコストを下げられることです。個別の優良銘柄を日々探すのは大変な作業ですが、「日本株まるごと」とか「世界の株まるごと」を買うのは簡単です。銘柄選びの負担もなくなります。
そして「運用」で忘れてならない大事な点は、NISAやiDeCoの税制優遇措置をフル活用することです。例えばこれからFIREチャレンジをスタートする人は、まず年40万円のつみたてNISAからスタートすればいいでしょう。さらにFIREを目指していく中で貯蓄余力が高まってきたら、一般NISAを活用すれば、年120万円の投資枠が設けられます。
一方、iDeCoの大きな特徴は、所得控除があることで、毎月積み立てた掛け金は全額非課税扱いとなります。その分、所得税や住民税が軽減され、年収によっては掛け金の20%相当が軽減されることもあります。運用として考えたとき、この「非課税分」は確実でおいしいリターンといえます。
夫婦であれば、それぞれが口座を作り、ダブルで運用していくべきです。私はダブルNISAとダブルiDeCoの組み合わせは、老後の資産形成における「最強方程式」だと思っています。
そのためには、もしFIREにチャレンジする場合は、夫婦できちんと話し合いをして、一緒に夢に向かって行くことが大切です。
目指すべきは50歳代での “プチFIRE”
資産形成には一定の期間が必要です。それは誰でもわかることなので、40歳代でFIREしたくても30歳代、40歳代で FIREに関心を持った人は、「今からでは遅い」と思い込み、早期リタイアを諦めてしまいがちです。ただし、ここで諦めてしまうのは、単なる「FIREへの思い込み」に過ぎません。
早すぎるリタイアには、それなりの問題もあります。例えば、公的年金水準は会社員を辞めた期間が長いとモデルを大きく下回ります。退職金も40歳前後でもらってしまうと、定年退職者の半額以下になるでしょう。
また、普通の社会人は22歳から65歳まで43年間働くわけですが、仮にその中間である40歳代半ばでFIREするためには、社会人人生前半の約20年で、その倍の稼ぎをしなければなりません。
しかも収入が上がるのは、一般的には社会人人生の後半です。これらの問題を考えても、無理に40歳代くらいでFIREする計画は難易度が高いことがご理解いただけるでしょう。50歳代、60歳代、あるいは引退年齢の5年前にリタイアする選択肢だってあります。私はこれを「リトルFIRE」とか「プチFIRE」と呼んでいます。
たった5年と思われるかもしれませんが、65歳定年の会社を60歳で辞めても、90歳まで生きる人は、その後30年のリタイア生活を満喫できます。また、プチFIREならリタイア後に数年待てば公的年金をもらい始めることができますから、それほど高額な資産額を用意する必要もありません。

このように考えると、FIREは50歳代くらいを目標にして、まずはプチ FIRE を実現し、さらに資金を積み上げて50歳代FIREを達成するのが妥当ではないかと思います。