長期的なリターンを逃すのは“売買のタイミングを測る”から……億越え投資家「最後はインデックス投資に帰ってくることになる」

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 会社勤めのかたわら、2002年からインデックス投資を始めたベテランインデックス投資家の水瀬ケンイチ氏。“26歳貯金なし”から20年で1億円超を達成した水瀬氏が、「ふつうの人」のインデックス投資の始め方について語る。全3回中の2回目。

※本著は『彼はそれを「賢者の投資術」と言った 水瀬ケンイチのインデックス投資25年間の道のり全公開』(Gakken)から抜粋、再構成したものです。

第1回:「これこそ私の求めていた投資法だ」山崎元氏がもっと信頼した個人投資家が、インデックス投資にたどりついた理由

第3回:投資にかけたその時間、無駄じゃないですか?億越え投資家がたどり着いた「手間をかけない投資」の魅力

目次

最初は「緊急時の資金の確保」から

 財務計画の専門家は、緊急時のための資金を持つことが投資成功の前提条件であると強調している。JPモルガン・アセット・マネジメントの「Guide to the Markets」(2019年第4四半期版)によると、緊急資金を持たない投資家は市場暴落時に資金が必要となり、最悪のタイミングで投資を引き出す確率が3倍高くなる。  

 私も2008年のリーマン・ショック時に、この重要性を痛感した。当時、ポートフォリオポートフォリオの損益はプラス10%~20%あたりで順調に推移していたものが、あっという間にマイナス50%近くまで暴落した。金額にして1000万円近くが軽く吹っ飛んだことになる。それでも冷静でいられたのは、生活防衛資金の預貯金がたっぷりあり、たとえリストラされても当面は生きていけるという安心感があったからだ。  

 フィデリティ社の「Emergency Savings Research」(2019年調査)では、6カ月分以上の生活費を現金で保有している投資家は、市場暴落時でも95%が投資計画を維持できることが示されている。  

 生活防衛資金の目安は、単身者なら月の生活費×6カ月、家族持ちなら月の生活費×12カ月が望ましいといわれている。しかし、私はリーマン・ショック、東日本大震災の経験から、生活費の2年分まで用意することを目標にしてよいと思う。

 20年、30年といった長期投資の間、もっといえば人の長い人生で一度や二度くらいは、勤務先の倒産、リストラ、大病、大災害といった特大リスクに見舞われてもおかしくない。被災地での生活の立て直し、自分を安売りしないで済む転職先探し、長期間の療養などの際には、投資のことなど気にせずどんどん取り崩しても何の問題もない生活防衛資金の存在があなたと家族を救うだろう。 

 実際、私も職場のストレスから体調を崩したとき、休職という選択をためらわなかった。生活費が確保できていたからこそ、自分の健康を優先できたのだ。

 「生活防衛資金を貯められなければ投資を始めてはいけない」とまでストイックに考える必要はない。生活防衛資金と積み立て投資を半々くらいで始めればよいだけだ。いずれ、必要な生活防衛資金が貯まり、安心感とともに投資ができるようになるだろう

自分にもっとも合った投資方法を探そう

 アクティブ運用がインデックスを上回ることがいかに難しいかは、実証研究で繰り返し証明されている。S&P Dowジョーンズ・インデックスのSPIVAレポートによると、過去15年間(2009─2024年)で米国株アクティブファンドの89.5%がインデックス(インデックス(S&P500)を下回っている。同様に、日本株アクティブファンドの77.6%がインデックス(S&P Japan500)を下回る結果となっている。  

  私も投資を始めたころはアクティブ運用をしていて、チャート分析とファンダメンタル分析の間をふらふら行き来していた。チャート分析では、結果として、ちょこちょこリターンをあげてはドカンと失うことを繰り返す悪循環に陥っていた。  

 ファンダメンタル投資は恐ろしく手間がかかり、投資タイミングが常に気になる。投資が私から時間を根こそぎ奪っていく。せっかく仕事は順調なのに、投資が原因でなにか問題を起こす直前のところまでいき、そのまま続けていると、仕事もお金も両方失うことになりかねないところまでいってしまった。  

 それがインデックス投資への道を開くことになった。銘柄選択も、投資タイミングを見計ることもなくなった。  

 チャールズ・シュワブ社の「2019年Modern Wealth Survey」によれば、初心者投資家の約61%が「市場のタイミングを図ることが投資成功の鍵」と考えているが、実際にはタイミングを計ることが長期的なリターンを損なう主要因となっている。投資初期に健全な投資哲学を確立することは、こうした苦い経験を避けるための重要なステップなのだ。

  投資哲学などというと仰々しいが、要するに、自分に最もフィットした投資方法のことだ。もちろん、私はあなたが最初からインデックス投資を選択することを勧めるが、アクティブ運用のさまざまな投資方法を試したことは、結果的に、インデックス投資への確信をさらに強固なものにしてくれたと実感している。  

 もし、あなたが若ければ、最初はいろいろな投資方法を試してみてもよいかもしれない。でも、決してのめり込みすぎないこと。投資をするために生きているのではなく、生きるために投資をするということを忘れずにいてほしい。  

 そして、きっと最後はインデックス投資に帰ってくることになるだろうと予言しておく。

「適切な資産配分」は人によって違う

 心理的リスク許容度の個人差は、行動経済学の分野で広く研究されている。ダニエル・カーネマンとエイモス・トゥヴェルスキーの「プロスペクト理論」(Econometrica誌掲載論文”Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”)によれば、人間は一般的に利益よりも損失に対して約2倍敏感に反応する。これは「損失回避バイアス」と呼ばれている。  

 だから、感情にまかせてアクティブに運用すると、利益確定は早く、損切りは遅く(利小損大)なりがちなのだ。たとえ、投資ではその逆を行わなければならないと、頭ではわかっていたとしても。 

 バンガード社の「Investor Behavior During Market Stress」(2020年レポート)でも、投資家の約60%が市場暴落時に当初の投資計画から逸脱する行動をとることがわかっている。特に過度にリスクを取った投資家ほど、市場のストレス時に耐えきれず、最悪のタイミングで売却してしまう傾向がある。  

 私の場合、最初に選んだ資産配分はシンプルな日本株式:外国株式:日本債券:外国債券=1:1:1:1の伝統的4資産均等に近い形だった。  

 この控えめな資産配分を選んだのには理由があった。凝り性の私は、一度何かにのめり込むと周囲が見えなくなるタイプだったため、リスクを少し低めに設定し、精神的な安定を優先したのだ。仮に株式比率100%で大暴落に遭遇していたら、おそらく投資を続けることはできなかっただろう。  

 その後、「100マイナス年齢パーセントの株を持て」という目安から学んだ知識と、ポートフォリオの期待リターン・リスクを計算できるツールによって、最大損失の目安が年マイナス30%程度に収まるという目算から、私も徐々に株式比率を上げていった。自分が何パーセントまでの損失に耐えられるかというリスク許容度は、人により異なる。

  ツールを利用して、ポートフォリオの期待リターンとリスク、特にリスクを「数字」で把握することが極めて重要だ。私自身は、最終的に株式:債券=8:2くらいになるまで株式インデックスを買い進めたが、それでも値動きは多少大きくなったものの、計算と想定の範囲内に収まるものだった。  

 さらに、日本人にとっての外国債券投資の必要性に疑問を感じ、債券は国内債券に一本化することにした。  

 結果的に、積立商品としては、「オルカン」と「個人向け国債 変動10年」を8:2の比率で積み立てるだけという至極シンプルな形に着地している。

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この記事の著者
水瀬ケンイチ

1973年、東京都生まれ。都内IT企業会社員にして下町の個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を執筆、インデックス投資のバイブル的ブログに。インデックス投資の代名詞となった『ほったらかし投資術』(朝日新書)では、経済評論家の山崎元氏(故人)と共著、ベストセラーに。著書に『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)など。著書の累計部数は55万部突破(電子含む、2025年6月時点)

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