日本を脱出する裕福層たち……海外移住を決める3つの理由と人気の移住先とは

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 海外不動産投資家・海外移住コンサルタントの宮脇さき氏は、「日本が抱える構造的なリスクや世界情勢の不確実性――これらの不安から近年、富裕層の間で海外移住への関心が高まっている」と話す。

 ただ同氏によると、彼らの目的は、単に日本を脱出することだけにとどまらないという。税制面でのメリットや子どもの教育、新たなビジネスへの挑戦など、より前向きな理由から、海外に生活拠点を移すケースが増えていると話す。

 今回は、富裕層の海外移住の動向とその背景にある日本国内の事情、そして移住がもたらすメリットについて深掘りしていく。全3回中の3回目。

※本稿は宮脇さき著『世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか 20代で純資産4億円をつくった超レバレッジ投資の極意』(KADOKAWA) から抜粋、加筆修正したものです。

第1回:20代から始める「ヤドカリ投資」普通の会社員が億を築く資産形成

第2回:賃貸利回り、ドバイは日本の約3倍…日本の富裕層が「海外不動産」に注目する理由

目次

海外移住は裕福層でなくても工夫次第で実現可能

 海外移住と聞くと、特別なスキルや多額の資金が必要だと考える人も多いかもしれません。しかし、インターネットを活用して場所を選ばず働ける人にとっては、海外でも安定した収入源を確保しやすく、移住は現実的な選択肢になりつつあります。円安インフレの影響でタイやマレーシア、ジョージアといった国でも物価は上昇していますが、工夫次第では生活費を抑えることも可能です。

 海外移住の最も大きな動機は、やはり税制面でのメリットでしょう。日本の所得税や相続税は国際的に見ても非常に高く、多額の資産を持つ富裕層にとって、将来の税負担は大きな悩みの一つです。

 しかし、海外には所得税やキャピタルゲイン税、相続税などが一切かからない国や、日本よりも税率が大幅に低い国が存在します。シンガポール、香港、マレーシア、ドバイ(UAE)などはその代表例です。自らが経営する会社を海外に置き、自身は株主やアドバイザーとして関わることで、税負担を軽減するケースも少なくありません。

 ただし、安易な判断は禁物です。国際税務は複雑なため、必ず専門家である税理士や会計士に相談することをおすすめします。

国が進める「資産の見える化」だから裕福層は海外に行く

 一方で、富裕層を取り巻く日本の税制も、日々変化しています。その一つが、2022年に行われた「財産債務調書制度」の改正です。この制度は一定以上の資産を持つ富裕層に対し、税務署への資産報告を義務付けるもので、その対象は下記に当てはまる人です。

①所得2000万円超 + 総資産3億円以上
②所得2000万円超 + 有価証券等1億円以上 ③総資産10億円以上(所得制限なし)

 特筆すべきは、年収がゼロでも総資産が10億円を超えると報告義務が発生する点です。これは、政府が富裕層の資産動向に対する監視を強化し、高額な資産を持つ個人による課税回避を防ぐための対策だと考えられます。

 近年、海外への資産移転や運用を通じて、日本の課税網をすり抜けようとする動きが一部で見られます。これに対して国は「資産の見える化」を推進し、税務当局がより的確に富裕層の資産状況を把握し、適正な課税を行う体制を整えつつあります。

 しかし、こうした報告義務は「日本に居住していること」が前提です。海外に居住することで、報告義務の対象から外れることも、富裕層が海外移住を検討する大きな要因になっています。

 もちろん、各国の税務当局が情報を共有する「CRS(共通報告基準)」の枠組みもあるため、海外移住したからといってすべてが把握されなくなるわけではありません。しかし、節税を検討する場合、単に資産のみを海外に移すだけでなく、自身も海外に暮らすことがより重要になってきています。

税金だけではない、海外移住3つのメリット

 税制面以外にも、富裕層が海外移住を考える理由はいろいろあり、その中でもよく見られる3つを紹介します。

 1つ目は、 プライバシーの確保です。著名な経営者やインフルエンサーなど、国内での知名度が高まるにつれて、日常生活に制限を感じる人は少なくありません。日本では、些細なことでもプライベートがゴシップの標的になり、SNSで住所や車のナンバーが拡散されることもあります。常に監視されているようなストレスは計り知れません。

 さらに、日本社会では一度の失敗が致命的な打撃となりやすい傾向があります。そのため、警戒心が強くなり、人間関係を築くのが難しくなるケースも多いようです。

 しかし、国際的な超有名人でなければ、海外では日本ほど注目を集めることはありません。人目を気にせず、自分らしく暮らせる海外移住は、生活のストレスを減らし、新しいことに挑戦できる環境を与えてくれる、かけがえのない価値を提供します。

 2つ目は、教育です。子どもに国際的な視野や教養、英語力を身につけさせたいという思いから、教育目的で海外移住を検討する家庭も増えています。日本の教育水準は高いものの、受験重視のカリキュラムや多様性を十分に育みにくいなどの課題も指摘されています。

 例えば、マレーシアやドバイは多民族国家のため、子どもたちは日常生活の中で自然と国際感覚を身につけることができます。さらに、英語だけでなく、中国語やフランス語なども学べる学校も多く、トリリンガル教育を受けることも可能です。加えて、インターナショナルスクールや全寮制のボーディングスクールなど、教育の選択肢も豊富です。海外教育移住は、子どもたちの可能性を広げるための理想的な場所として、多くの日本人家庭から支持を集めています。

 3つ目は、ビジネスチャンスです。新世代の富裕層の中には、「もっと自分が知らない世界を見たい」「新しい市場に挑戦したい」という目的で移住する人もいます。

 日本国内では、暗号資産やWeb3関連事業などに対する規制が厳しく、柔軟な事業展開が難しいのが現状です。そのため、ドバイやシンガポールなど規制が緩やかな国に拠点を移し、事業の可能性を広げる動きが加速しています。

 また、現時点で国内で成功を収めている人でも、「今後も日本社会に依存していいのか」という将来不安から、リスク分散のために海外に生活基盤を移すケースも見られます。これは、長期的なキャリアや資産形成を見据えた賢明な選択と言えるでしょう。

 ただし海外移住は税制面やビジネス、教育など、多くのメリットがある一方で、言葉の壁や文化の違い、医療制度への不安、家族の理解など、多くの課題も伴います。どんなに税制面で有利な国であっても、治安や医療水準、気候といった日々の生活の質が原因で、精神的なストレスを感じるようでは本末転倒です。

 海外移住は、安易な「脱出」ではなく、人生の新しいステージを切り拓くための「挑戦」です。多角的な視点からメリット・デメリットを比較し、自分や家族にとって最適な場所を選ぶことが、後悔しないための鍵となるでしょう。そのためには目的に合った国選びだけでなく、現地の生活環境やコミュニティの情報も事前にしっかりリサーチすることが重要です。

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この記事の著者
宮脇さき

海外不動産投資家・海外移住コンサルタント。1997年宮崎県生まれ。2019年お茶の水女子大学卒業。UAEドバイ在住。日本国内のほか、ジョージア、トルコ、UAEに不動産を複数所有。現在は個人投資家として資産運用をしながら、富裕層やへの資産コンサルティングのほか、海外移住支援も行う。

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