体に悪いことくらいわかっとるわ! 飲み放題、ストロング缶禁止へ「タバコ撲滅の次は酒」… 厚労省「女性は少量でも脳卒中リスク」

 厚労省から発表された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」に困惑する声があがっている。作家で元プレジデント編集長の小倉健一氏が問題点を語るーー。

目次

タバコの次は酒…厚労省の次のターゲット

 これまでタバコをいじめ抜いてきた厚労省だが、次の標的に選んだのは「お酒」「アルコール」だったようだ。

 本稿では、アルコールやお酒についての今後起こる規制について主に述べていこうと考えるが、そこで重要になっていくのが先行指標である「タバコの規制」である。よって、タバコの規制について少しだけ触れておく。

 タバコには、メンタルや幸福度においていい影響を与えているといういくつかのエビデンスがあるものの、身体に悪い影響を与えることもわかっている。タバコを吸うことを「病気」と断定し、禁煙外来や禁煙薬などで医療・薬品業界は大いに潤うため、タバコ害について膨大な研究予算が投入されてきた。逆に、タバコ業界は、医療や研究調査機関にお金を投じることには大きな規制がかかっており、一方的なエビデンスを次から次へと発表され、ただただ殴れる一方という状態になっている。

 当然のことだが、人間は自由に愚かなことを行える権利(愚行権)を持っている。タバコ害を十分認識した上で、成人が自己責任でタバコを吸うことは何も問題はない。問題は、副流煙など他人にも迷惑を被ることがあるということだ。そのために、一定の規制は必要であることは、タバコ業界も含めて、誰も反論はしていない。

タバコの規制はバランスがとれているのか

 しかし、その規制は、バランスが取れたものでなくてはいけない。有害な煙を発出するのは、タバコだけではなく、工場からもクルマからも焚き火からも発電所からも有害な煙を発出している。また、他人に少なからずの迷惑をかけるという意味においては、より広い範囲のものが当てはまってしまう。その代表例が「お酒」である。お酒は、自分の身体に悪いという点においては、タバコと一緒であるが、判断能力を著しく低下させることがわかっており、社会的問題を多く引き起こしてきた。ウェブサイト「アルコール依存症治療ナビ」(http://alcoholic-navi.jp/understand/problem/social_loss/)には以下のように記述されている。

  • アルコールは、全身の臓器に害をおよぼしたり、事故などによる外傷を引き起こしたりします。日本では飲み過ぎによる病気やけがの治療は年間1兆101億円と推計されています(2011年厚生労働省調査班)
  • 飲みすぎによる労働・経済への影響は、治療費を大きく上回ります。飲酒や体調不良により生産性が低下する、病気休暇や死亡により労働力を失うなど、労働損失と雇用の喪失は年間推定3兆947億円にも上る。
  • 自動車事故・犯罪・社会保障によるその他の社会的損失は、年間約283億円(2011年厚生労働省調査班)。
  • まさにWHOが言うように、「アルコールの有害な使用は、個人や社会の発展を危険にさらしている」

つまりお酒は健康面から言えば、一滴も飲むなということに

 ちなみに、禁煙の急先鋒である「日本医師会」によれば、「2018年8月に厚生労働省から、たばこの害は社会全体の大損失になるという驚きの研究結果が出されました。2015年度の医療費や介護、火災などたばこによる損失を合わせると、その額は推計で2兆500億円!」などと「!」入りで大袈裟に報じているが、この数字をみても、社会的損失は「タバコ」よりも「お酒」のほうがひどいことがわかる。

 日経新聞が2023年7月28日に報じたところによれば、

  • カナダの薬物使用・依存症センターによれば「少量のアルコールでも健康を害する可能性があることが分かった。飲酒は少なければ少ないほど良い」。
  • 国立がん研究センターがん対策研究所の井上真奈美副所長は「がん予防の観点から言えば、一滴のお酒でもリスクになるというのが国際的な評価だ」。

 という。つまりお酒は健康面から言えば、一滴も飲むなということになっている。

 ここまで、議論の前提を述べてきたが、ここで、今回(2月19日)厚労省から発表された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」をみていこう。

いったい、「適量」とはなんなのか

 今回のガイドラインでは、疾患ごとに発症リスクが高まる酒量を純アルコール量換算で示し、「適量」を心掛けるよう呼び掛けている。しかし、ガイドライン文中には「高血圧や男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などの場合は、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまう」と指摘があり、国際的な評価では一滴も飲むなという状況だ。タバコと比べて、ずいぶんと甘い評価である。また、気になるのが次の文言だ。

「女性は、一般的に、男性と比較して体内の水分量が少なく、分解できるアルコール量も男性に比べて少ないことや、エストロゲン(女性ホルモンの一種)等のはたらきにより、アルコールの影響を受けやすいことが知られています。このため、女性は、男性に比べて少ない量かつ短い期間での飲酒でアルコール関連肝硬変になる場合があるなど、アルコールによる身体への影響が大きく現れる可能性もあります」

 いったい、「適量」とはなんなのか。もし、適量飲んだが、女性が脳卒中になった場合、この「適量」なる文言をつくりだした厚労省や医師は責任を持たねばならないだろう。「適量」なるもんh言は、大きな誤解を生んでしまう。

タバコ規制が、お酒にも始める

 さらには「健康に配慮した飲酒の仕方等について」なる項目がある。これを守ったところで、健康リスクが上がるのであり、はっきり言って意味不明な項目であるが、「自ら飲む量を定めることで、過度な飲酒を避けるなど飲酒行動の改善につながると言われています」「水などを混ぜてアルコール度数を低くして飲酒をする」などと書かれている。他にも「避けるべき飲酒等について」として「一時多量飲酒」が俎上に載せられている。

 これまでの事例でいけば、この厚労省のガイドラインに基づいて、各地方自治体は独自に条例を定めていくことになる。この文言が意味しているのは、飲食店へ「飲み放題の自粛」、アルコール飲料を発売しているメーカーへは「ストロング缶などアルコール度数の高いお酒の自粛」が行われることになる。個人営業の店舗などは独自判断で従わないケースもあるかもしれないが、大手飲食チェーンでは、飲み放題メニューなどがなくなることになる。

 つまり、厚労省がこれまで国民の健康のためにと言い張って、行ってきたタバコ規制が、お酒にも始めるということになる。

タバコやお酒が身体に悪いことぐらいわかっている

 私たちもいい大人なのである。タバコやお酒が身体に悪いことぐらいわかっている。なぞの「お酒は適量」なる文言が、これまで国際的に発表されてきたものと全く違うことから、この「適量フレーズ」はいつしかなくなるであろう。

 いずれにしても、情報はきちんと公開されるべきだが、それを踏まえて、タバコを吸おうが、お酒を飲もうがあとは自己判断にすべきであることはいうまでもない。分煙はやったほうがいいと思うが、お酒だって子どもがいる食卓に並べば誤飲する可能性がある。では、タバコ同様に、飲酒席、禁酒席を設けるのだろうか。

 このように、どこまで完全な棲み分けができるかといえば、難しいところだろう。どこかで、なるべく規制の少ない社会を実現する方向に舵を切らなけらば、タバコダメ、お酒ダメとなって、今度は(身体にとって有害とされることがエビデンスとしてわかりつつある)砂糖ダメ、小麦ダメ、牛肉ダメ、白米ダメというような社会になってしまう。厚労省も少しは正気に戻ってほしいものだ。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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