「鬼の国賊内閣」石破おろしスタート…複数の自民議員が出馬辞退「旧安倍派を全員敵認定」のあまりに大きい代償

石破茂首相(自民党総裁)は10月27日投開票の衆院選で、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題に関与した萩生田光一元政調会長ら6議員を党公認候補としない方針を打ち出した。不記載が確認された議員・支部長は比例代表への重複立候補を認めず、問題決着を急ぎたい考えだ。ただ、党内には「二重処分だ」「旧安倍派を狙い撃ちにしている」などの不満が充満する。経済アナリストの佐藤健太氏は「結局は党内の主導権争いに過ぎない。衆院選で大幅な議席減があれば『石破おろし』の号砲が鳴るだろう」と見る。
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出馬辞退を検討する議員たち
「今度の衆院選には、私は出馬しない方が良いと思っています」。石破首相が比例重複を認めないとの方針を打ち出した10月6日、首都圏選出のある自民党中堅議員は先輩議員にこう伝えた。この議員は2021年の前回衆院選で野党議員に敗れ、比例復活を果たしている。次期衆院選でも敗北すれば比例代表での“救済”がないため、落選となるからだ。自民党内の動揺は激しく、他にも「出馬辞退」を検討している議員は少なくない。
自民党は4月、裏金問題で不記載が確認された議員ら85人のうち39人を処分した。旧安倍派の幹部だった塩谷立元文部科学相と世耕弘成元参院幹事長は離党勧告となり、塩谷氏は政界引退を表明。離党した世耕氏は次期衆院選に無所属で和歌山2区から立候補することになった。
石破首相が示した公認方針に基づけば、安倍派幹部だった下村博文元文科相、西村康稔元経済産業相(党員資格停止1年)、高木毅元国対委員長(同6カ月)に加えて、政治倫理審査会に出席せず説明責任を果たしていないという理由から党役職停止1年の処分を受けた萩生田氏や平沢勝栄氏、三ツ林裕巳氏の計6人が「非公認」となる。
前回衆院選(2021年)の結果を見ると、下村氏(東京11区)は得票率50.0%、西村氏(兵庫9区)は同76.3%、高木氏(福井2区)は同53.9%、萩生田氏(東京24区)は同58.5%、平沢氏(東京17区)は同50.1%、三ツ林氏(埼玉13区)は同51.6%だ。これまでは選挙に強いと評されてきた面々なのだが、「自民党公認」という金看板を失えば結果は異なるかもしれないと焦燥感は隠せない。
「二重処分だ」(自民党中堅)と怨嗟の声
思わぬ形で石破首相からのパンチを受けたのは、この6人以外で「党役職停止」「戒告」などの処分を受けた議員たちと言える。引退表明した議員を除き、「役職停止」の7人や「戒告」の9人も、石破執行部が説明責任を果たしていないと判断すれば非公認となる方向だ。最終的には選挙区情勢や地元の声などを踏まえて決定される見通しだが、「岸田文雄総裁時代の処分に加えて、今回の非公認・比例重複認めずという方針は『二重処分』だ」(自民党中堅)と怨嗟の声が漏れる。
対象者には、自民党最大派閥だった旧安倍派のメンバーが多い。参院議員から東京7区で鞍替え出馬を目指す丸川珠代元五輪相や比例単独候補として議員バッジをつけた人々には深刻な問題だ。不記載があった議員・支部長の比例重複を認めないということになれば、最大で40人近い議員が退路をたたなければならなくなる。
だが、石破首相の周辺は「比例復活の道が閉ざされたら立候補しないというのは、議員として格好悪いよね」と強気だ。首相就任の前後から「発言がブレた」「言っていたことと違う」などと批判されていたことを踏まえ、世論は味方になってくれると読む。「自民党内は蜂の巣をつついたようになるだろうが、すぐに衆院解散がある。国民からの拍手喝采があれば党内批判は怖くない」(周辺)というのだ。
「アジア版NATO」「日米地位協定の改定」は封印
思い出されるのは、2005年の「郵政選挙」だ。当時の小泉純一郎首相は「改革の本丸」と位置づけた郵政民営化関連法案が否決されたことを受け、衆院解散に踏み切った。造反した自民党議員の選挙区に“刺客”を放ち、「国民に直接聞いてみたい」などと小泉劇場と呼ばれる構図を生み出した。結果、自民党の獲得議席は296という圧勝となった。
もちろん、小泉元首相と今回の石破首相による方針は全く異なる。郵政民営化推進の賛否はあれど、小泉氏は自らの信念として、政策を強力に推進するために解散を断行した。だが、石破首相にはそれらがなく、首相就任前に言及していた「アジア版NATO」「日米地位協定の改定」「憲法改正」といった持論は所信表明演説で封印し、信念や政策の軸で自民党内が“分裂”しているわけでもない。