足元みられてるのに…評論家・石破茂、トランプは「不安や緊張を抱かせて、取引を仕掛ける手法」「日本から色々提案」過去発言!現実とのギャップ

米大統領選で勝利した共和党候補・ドナルド・トランプ前大統領は「アメリカ・ファースト」(米国第1主義)をうたい、あらゆることを「ディール」(取引)する手法を好む。2017年から4年間続いた第1次トランプ政権は世界中を当惑させたが、これから日本にはどのような影響が生じるのか。早期会談に意欲を示す石破茂首相は信頼関係を構築できるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「社交スキルに不安がある石破首相では個人的な信頼関係を築くのは難しいのではないか。日本経済への影響は大きく、さらなる防衛費負担増なども要求される可能性は高い」と見る。
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石破首相は「対等な関係」をトランプ氏と構築するのは難しい
まず言えることは、石破首相は「対等な関係」をトランプ氏と構築するのは難しいとみられることだ。かつてはロナルド・レーガン大統領と中曽根康弘首相、トランプ大統領と安倍晋三首相のように日米首脳が個人的な信頼関係によって良好な関係を築くことに成功したが、それは石破首相とトランプ次期大統領の間では望めないだろう。
理由はいくつか考えられるが、その1つはトップリーダーとしての個性があまりに違いすぎる点にある。言うまでもなく、トランプ氏は不動産業で財を築き、既成概念にとらわれない大胆な提案やビジネス感覚を政治の世界でも当てはめることで知られる。明るく、強いリーダー像が熱烈な支持者を生み出してきた。
これに対し、石破氏は参院議員や鳥取県知事を務めた父親の死去を受けて政治への道を進むことになった。安全保障政策に精通し、防衛相や地方創生相、自民党幹事長や政調会長など要職を歴任し、首相に就任するまでは国民的人気も高かった。だが、長期政権を築いた安倍晋三元首相が距離を置いたことで非主流派としての期間が長く、かつて率いた派閥「水月会」は人望が足りないこともあって広がりを欠き、消滅した。自民党内には「机上の空論ばかり並べる人」(閣僚経験者)との評もあり、銀行での勤務経験はあるものの「経済音痴」(野党)である点も否めない。
2人のキャラクターを見る限り、とても安倍元首相とトランプ氏の関係のように「ケミストリー」が合うとは思えないのだ。その石破首相は2016年11月の記者会見で、第1次政権発足を目前にしたトランプ氏に以下のように語っている。
石破、トランプは「相手に不安や緊張を抱かせて不安定な心理状態に置き、取引を仕掛ける」
「これからトランプ氏との間で行われるであろう交渉は非常にハードなものであり、我々は心して臨まなければならないと思います。米国から言われて『こうする』ということではなく、日本から色々な提案をする。そして日本の外交安全保障上の改革せねばならないところは早急に改革する。そうでなければ厳しい交渉に臨むことはあってはならないと思います」
2017年1月13日に「水月会」のホームページに掲載された石破氏のコラムを読むと、「彼のことを『ディールとサスペンスの大統領になる』と予測した人がありましたが、まさしく『相手に不安や緊張を抱かせて不安定な心理状態に置き、取引を仕掛ける』という手法を駆使するように思われます。対アジア政策も、対中・対露政策も、就中対中東政策もそうなるでしょうし、当面世界情勢は不安定にならざるを得ないものと覚悟しなければなりません」とも指摘している。
「洞察」「理念」と「現実」は大きく異なる
もともとは財界人の知己から得られた話のようだが、「評論家・石破茂」としては第1次トランプ政権で起こるであろうことは見抜いていたことになる。石破氏は相手の心理が不安な時にディールするのがトランプ流とも見ており、その洞察力は少なくとも評価されて良いかもしれない。
だが、問題は「洞察」「理念」と「現実」は大きく異なる点にある。それは9月の自民党総裁選で石破氏が「アジア版NATO」や「日米地位協定の改定」といった重要課題を並べながら、インドやASEAN諸国、米政府から一蹴されていることを見ても明らかだ。石破首相は11月7日にトランプ氏と電話会談し、「非常にフレンドリーな感じがした。本音で話ができる方だ」などとファーストコンタクトで好感触を得たという。
わずか5分間、それも通訳を交えての電話で何が分かったというのだろうか。首相は11月中旬からペルーとブラジルを訪れるのに合わせ、初の日米首脳会談を調整する方針だが、社交スキルが不安視される石破氏が「日本から色々な提案をする」ことなく、愛想笑いに終始するだけになるとの見方は政府内にも広がる。
それでも、「石破首相の類い稀な洞察力があれば、トランプ氏と強固な関係を築ける」という人はいるだろう。