なぜ?24年は日経紙面に「ROE」が頻出!同紙編集委員「企業の資本コストに注目高まった」今年よりも更に多かった年は…

「今さら聞けない」というくらい重要な指標となった「ROE(自己資本利益率)」。ROEが高いほど、自己資本を活用して利益を生み出せているということになるため、経営効率が良く、投資価値が高いと考えられる。いまやビジネスパーソンにとって必須の知識とも言っていいだろう。そんなROEについて、日経新聞の編集委員である小平龍四郎氏がくわしく解説。年々経済紙面からROEの登場回数が減っていることについては、「日本の資本コストへの意識が低下していることと同義」と語るーー。
目次
ROEを高めるためには分子(利益)を大きくするか、分母(資本)を小さくするかの2通りある
株式市場の日本企業は本当に進歩がない。同じ課題を抱えて、1カ所をぐるぐる回っている。そんな思いを禁じえない事例がある。ROE、Return on Equity。日本語では「自己資本利益率」とか「株主資本利益率」と訳されることが多い。分子が利益、分母が資本。つまり、株主が企業に払い込んだお金をどの程度有効に活用して利益をあげているかという指標だ。
ROEが高いほど株主のためにリターンを上げていることになり、株式市場の評価が高まり、株価が上昇しやすい。もちろん、逆も真なり。どうして日本の株価は米国のように力強く上がらないのかという理由の定説として指摘されるのもROEだ。
ROE低下は株価の低迷に直結する
ざっくりいって、日本企業は10%弱、米国は約20%。およそ2倍の開きがあるのだから、株価も格差がついて当然といえば当然だ。ROEを上げようという声が日本になかったわけではない。むしろ逆。ROEの重要性は長年にわたってくり返し指摘されるところだった。
例えば、日本の株式市場の歴史を学ぶための基本図書ともいえる「日本証券史3」(内田茂男著、日経文庫、1995年)では、しめくくりの「市場再生のキーワード」として、ROEをまっさきに挙げている。
「企業の経営指標としてアメリカでもっとも一般的なこの指標は、80年代までは(日本で)ほとんど注目されなかった。最大の理由は、総資産に占める株主資本の比重が低かったことであろう。しかも、株式投資の採算を企業の収益力で図る習慣もなかった。右肩上がりで株価が上昇していのだから当然ともいえよう」
内田はこう指摘したうえで、80年代後半に企業が積極的に実施したエクイティファイナンスにより株主資本の比重が上がる一方、事業投資の収益率は下がり、ROEの急低下を招いたと総括する。バブル期に日本市場に注目した外国人投資家は米国と同じ物差しで企業を評価したため、ROE低下は株価の低迷に直結した。
30年以上経っても通用する「至言」とは
こうした実情を直視し、内田は「株式市場の今後は、企業がROEを意識した経営に転じるかどうかにかかっているといっていい。これが株式市場立て直しの基本である」と訴えている。バブル崩壊から30年余り。今でも通用する直言ではないか。
日本でもROEの重要性が顧みられてこなかったわけでは決してない。
日本経済新聞で始めて「ROE」の言葉が登場したのは、1981年のことである。この年の10月5日付朝刊3面、インタビューコラム「月曜経済観測」で独立系格付け会社、三国事務所の三国陽夫氏が日本企業の公募増資ラッシュに警鐘を鳴らす格好でこう述べている。「銀行からの借金より自己資本のほうが低コストと言われるが……」との問いへの答えだ。
「投資家は預けたお金にどれだけ利益が出ているか、つまりその会社の自己資本利益率を見ている。日本の会社(製造業)いま平均10%ちょっとですが、それは税引き前で20%程度の利益をだせないと時価発行増資を継続していけるだけの株価を維持できないということでもあるんです。増資のコストは安くない」
昭和に直せば56年。令和6年の今も、平均的な上場企業の財務担当者にとっては胸に刻むべき教訓なのではないか。筆者が冒頭で述べた「日本企業は本当に進歩がない。同じ課題を抱えて、1カ所をぐるぐる回っている」との思いも、三国氏のこの発言を再発見したことに由来する。
山一証券破綻の年に「ROE」の登場が急増
1981年10月を起点として、ROEはどれほど日経の紙面に登場したのだろうか。この言葉の登場頻度は、日本企業の市場重視の資本効率への意識の高まりを示す代理変数と考え、日経テレコンで検索した。すると、興味深い傾向が分かった。グラフをみてほしい。