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小泉悠が語る「プーチンの『本当の勝利』」3つの重要ポイント…トランプ就任で何が変わるのか「もし軍事援助が削減されたら?」

(c) AdobeStock

 トランプ米大統領の就任により、泥沼化の様相を呈しているウクライナ戦争について変化が生じるのではないかとの期待が膨らんでいる。しかし、東京大学先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠氏は、そのような希望的観測が叶う可能性は低いと見る。小泉氏が考える、2025年のウクライナ戦争の展望とは。みんかぶプレミアム特集「業界大予測」第8回。

目次

トランプ就任でウクライナ戦争が終わればいいが…

「ウクライナでの戦争を24時間で終わらせる」と豪語してきたトランプ氏が大統領職に復帰した。これにより、3年近くに及んだロシアのウクライナ侵略にいよいよ決着がつくのではないかとの期待が高まっている。ウクライナのゼレンシキー大統領も2025年中の停戦に言及するなど、戦争当事者たちの言動にも微妙な変化が見られるようになってきた。

 しかし、ウクライナでの戦争がそう簡単に終わる可能性はあまり高くないと思われる。もちろん、何らかの大胆な政治的動きがあり、これが戦争を一挙に終結に導くという可能性もないではない。そうなったらいいと筆者も思う。その一方、この戦争に関するロシア側の大目的と軍事的現実からして、やはり戦争は長引くと見ておくべきであろう、というのが筆者の考えである。

プーチンが戦争を始め、今も続けている「真の目的」…プーチンにとっての「勝利」とは

 トランプ政権のはっきりした停戦プランは明らかにされていないが、「現在の戦線での凍結」がその基本に置かれていることはおそらく確かであろう。ロシアはこれまで得た領土で満足せよ、ウクライナは残った領土で我慢せよ、といったところだろうか。2023年のウクライナによる「反転攻勢」が失敗に終わって以降、ウクライナが占領地域を実力で取り返すことは困難であるという見解は概ねどの立場にも共有されてきた。

 だから、トランプ政権の現状固定案は一種の現実主義に立脚するものと言えなくもない。「ウクライナ政府は土地にこだわって国民を死なせるべきではない。土地など諦めてさっさと戦争を終わらせればいいではないか」という、この戦争始まって以来の停戦論とも相性がいい。

 しかし、プーチン大統領は土地を目的としてこの戦争を始めたのだろうか? 開戦以来、彼が述べてきたことをごく素直に受け取るなら、そのようには考えられない。そもそもロシアの国土は1700万平方km以上あり、これは冥王星の表面積にほぼ等しい。仮にウクライナの全土を掌握できたとしてもせいぜい60万平方kmであって、「惑星ロシア」に小さなコブができる程度のものであろう。

 代わりにプーチンが強調してきたのは、「ロシア人とウクライナ人は元々一つの民族だ」という歴史観であり、そのウクライナがソ連崩壊後にロシアから分裂し、西側の支配下に置かれそうになっている、という危機感である。もう少し細かくブレイクダウンすると、ロシアがコントロールできなくなったウクライナがNATOに加盟してしまうかもしれないという地政学的懸念、そこに中距離ミサイルが配備されたら防ぎきれないという純軍事的な脅威認識、西側がウクライナを使ってロシアの政治体制を脅かしているという体制転換への恐怖…などがこの戦争に関するプーチンの発言には色濃く滲んでいる。

 こうした言い分はどれも身勝手なものであり、時に全く事実に基づいておらず、しかも侵略を正当化するわけでもない。ただ、こうしてプーチンの言い分を見ているなら、ウクライナの土地を幾らか与えたところで彼が満足しないだろう、という想像は容易につく。ウクライナをロシアの政治的コントロール下に置くことがロシアにとっての「勝利」であるということになるからだ。

「プーチンの停戦条件」は「停戦交渉の開始条件」に過ぎない

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この記事の著者
小泉悠

東大先端科学技術研究センター准教授。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。民間企業勤務を経て、未来工学研究所特別研究員、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済研究所客員研究員、国会図書館調査員などを歴任し、2019年より現職。専門はロシアの安全保障政策・軍事政策で、特に軍改革、ハイブリッド戦争、核戦略、インターネット統制など。「『帝国』ロシアの地政学」でサントリー学芸賞を受賞(2019年)。近著に『現代ロシアの軍事戦略』、『軍事大国ロシア』など。ユーリィ・イズムィコ名義でnoteも。

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