給付金「外国人に3600億円」見直しを維新要求も「教育費無償化は外国人も対象」国民を騙す自己都合と税金たかり

物価高対策をめぐり、自民党は新たな補正予算案を見送る考えを示した。世間を賑わせた国民一人あたり10万円を一律給付する案も見送られる。一体この騒動はなんだったのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
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記録的な物価高騰が国民生活に深刻な影響
記録的な物価高騰は国民生活に深刻な影響を与えている。エネルギー価格や食料品価格の上昇は止まらず、実質賃金の低下が続く中、家計の負担は限界に近づいている。企業においても、原材料費や輸送コストの増加が収益を圧迫し、設備投資や賃上げへの意欲を削いでいる。
このような厳しい状況下で、政府与党内では経済対策が議論されてきた。大型の現金給付や減税といった選択肢が俎上に載せられたものの、結局、自民党幹部は新たな補正予算案の編成を当面見送る考えを示した。当面は今年度予算に計上されている予備費を活用し、電気・ガス料金の激変緩和措置の継続や、ガソリン価格の引き下げといった一時的な措置で対応する方針が示された。これらはあくまで対症療法に過ぎず、物価高騰の根本原因や日本経済が抱える構造的な問題に切り込むものではない。国民が期待する抜本的な対策は先送りされ、政治の決断力の欠如を露呈した形となった。根本的な問題解決に向けた議論、そして何よりも具体的な行動が待ったなしの状況であることに変わりはない。
この停滞した議論において、日本維新の会の柳ケ瀬裕文参院議員が提起した外国人給付問題は、一部で注目を集めた。同議員は参院決算委員会などで、過去に実施された現金給付策、例えば新型コロナウイルス対策の特別定額給付金や、物価高騰対策の住民税非課税世帯等への臨時特別給付金が、住民基本台帳に基づき日本国籍を持たない在留外国人にも支給されてきた実態を問題視した。
仮に国民一人当たり10万円を一律給付する事態となれば、約360万人の在留外国人に総額約3600億円もの税金が投入される計算になる。さらに、柳ケ瀬議員は2020年度以降、同様の形で外国人に累計4000億円以上の給付が行われた事実も指摘した。「物価高から『国民』生活を守る」「『国民』の安心と希望のため」といった政策目的が掲げられながら、実際の支給対象が日本国内に住所を有する「住民」全般に及んでいる点について、「対象と税の投入に齟齬がある」と批判した。
日本維新の会、深刻な自己矛盾
この指摘は、税金の使途に対する国民の素朴な疑問や不公平感に訴えかけるものであり、一定の共感を呼ぶ側面を持つだろう。
しかし、柳ケ瀬議員及びその所属政党である日本維新の会のこれまでの政策主張や行動と照らし合わせると、この外国人給付問題の提起は、深刻な自己矛盾と政治的な意図をはらんでいるように見える。日本維新の会は、看板政策の一つとして「教育費の全額税負担化(無償化)」を掲げてきた。この政策は、その財源論の曖昧さや費用対効果の低さから、教育効果が薄く、少子化対策にも有効性を欠く典型的なバラマキ政策との批判が絶えない。
重要な点は、この教育税負担化政策が実現した場合、その恩恵は当然ながら日本国内に居住し教育を受ける外国人の子供たちにも及ぶことである。外国人への税金投入を問題視するのであれば、まず自らが推進してきた教育無償化という巨大なバラマキ政策における外国人への恩恵について、明確な説明責任を果たすべきではないだろうか。さらに言えば、もし仮に外国人への利益供与を厳密に排除することが政策の最優先課題であるならば、その目的達成には、対象者を日本国籍保有者に限定するなどの設計が技術的に可能な「給付」の方が、「減税」よりもはるかに適しているはずだ。
現金給付の効果は一時的なものにとどまる
現金給付の効果は一時的なものにとどまり、持続的な経済成長にはほとんど寄与しない。経済の供給側、すなわち企業の生産性向上や技術革新、労働者のスキルアップなどを促す効果は皆無に等しい。需要だけを人為的に刺激することは、供給能力がボトルネックとなっている場合、単に物価を押し上げるだけであり、インフレーションを悪化させるリスクすら存在する。
新たな動きとして、公明党がマイナポイント活用案を自民党に提案したことも報道された。マイナンバーカード保有者にポイントを付与し、非保有者には現金給付するという折衷案である。公明党は「貯蓄に回らず消費喚起につながる」「事務負担も少ない」とその利点を主張するが、これも本質的には現金給付の亜種であり、根本的な問題解決にはならない。ポイントという形を取ることで消費を強制しようという発想自体が、個人の自由な経済活動を歪めるものであり、国家による家計への過剰な介入である。カード非保有者への現金給付は新たな不公平感や分断を生む可能性がある。
最も有効かつ正当な選択肢は、減税である
これら問題だらけの給付策に対し、経済の活力を真に引き出す最も有効かつ正当な選択肢は、減税である。減税は、政府が国民から徴収した税金を非効率な形で再分配するのではなく、そもそも国民や企業の手元に残る資金を増やす政策である。これにより、経済主体は自らの判断と責任において、最も効率的と考える消費や投資を行うことができる。これは市場原理を尊重し、経済の自律的な成長を促す健全なアプローチである。
所得税減税は、勤労者の可処分所得を直接的に増加させ、労働意欲、すなわち「もっと働いて収入を増やそう」というインセンティブを高める効果が期待される。これは労働供給の増加を通じて、経済全体の生産能力向上に貢献する。法人税減税は、企業の内部留保や投資余力を増加させ、設備投資、研究開発、賃上げといった前向きな活動を強力に後押しする。企業の競争力強化は、ひいては持続的な経済成長と国民全体の所得向上につながる。OECD(経済協力開発機構)のワーキングペーパー『Taxation and Economic Growth』(オーサ・ヨハンソン他、2008年)をはじめとする多くの国際的な研究分析は、法人税率の引き下げが国内投資を促進し、経済成長に対して他の税目に比べてよりポジティブな影響を与える可能性を示唆している。サプライサイド経済学が示すように、適切な減税は、経済活動を活性化させることで、中長期的には税収基盤そのものを強化する可能性すら秘めている。
財源確保の課題は減税そのものを否定する理由にはならない
消費税減税は、物価高騰に苦しむ国民生活への直接的かつ即効性のある支援策となる。税率を引き下げれば、あらゆる商品やサービスの価格が実質的に下がり、消費者の購買力を直接的に高める。日々の買い物を通じて負担軽減を実感できるため、冷え込んだ消費マインドを改善させる効果も大きい。市場メカニズムを通じて、特定の層を選別することなく、経済活動に参加する広範な国民や企業に恩恵をもたらす公平性の高い政策でもある。
もちろん、減税の実現には財源の確保が課題となる。しかし、それは減税そのものを否定する理由にはならない。むしろ、減税を断行するためには、財源をどう捻出するのか、という問いに向き合わざるを得なくなる。その答えは明確である。選挙前で政治家たちが口にしたがらないだけであり、国民は皆、薄々気づいている。
経済の活力を最大限に引き出す減税を
それは、既存の非効率で無駄な歳出を徹底的に削減することである。日本政府の歳出規模は膨張を続け、その中身には既得権益化した補助金、効果の疑わしい公共事業、肥大化した行政コストなど、削減すべき余地が大量に存在する。
現状、政府与党は大型の経済対策を先送りし、予備費によるエネルギー価格抑制という、その場しのぎの対症療法に終始している。これは、物価高騰の根本原因や日本経済が抱える構造的な問題から目を背ける、無責任な態度と言わざるを得ない。経済の真の再生のためには、非効率で国民を愚弄する現金給付と完全に決別しなければならない。そして、その代わりに、経済の活力を最大限に引き出す減税を、強い意志を持って断行するべきである。