記録的高値のコメ価格…政府に責任があるのに「まるで国民が悪いような言い方」をする江藤農水相の驚きの言い分

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 庶民はコメを食べるなということなのか―。3月の全国消費者物価指数(2020年=100)が衝撃を与えている。総務省が4月18日発表した生鮮食品を除く総合指数は前年同月比3.2%上昇し、43カ月連続で上昇。特にコメ類は92.1%もアップし、1971年以降で最大の上昇率となったのだ。政府は3月から備蓄米放出という「切り札」を放ち、過去最高となったコメ価格が落ち着いていくと豪語するものの、多くの国民にはとどいていないのが実情だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「コメ不足は続き、価格が一気に下がることは考えにくい。石破茂政権は“失政”を認めて出直すべきだ」と指弾するーー。

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5キロ4214円(税込み)と記録的高値

 一体、どれだけ待てば良いというのか。農林水産省が4月14日に発表したコメの「販売数量・価格の推移」によれば、全国のスーパーで3月31日~4月6日に販売された平均価格は5キロあたり4214円(税込み)と記録的高値になっている。1年前は2068円であり、わずか1年で2倍という衝撃的な価格だ。

 政府が「切り札」とした備蓄米は3月に入札が2回実施され、計21万トンが順次放出されているが、多くの人々は店頭でいまだ見つけられていないのではないか。4月18日発表の備蓄米の販売状況(3月30日時点)によれば、備蓄米のうち小売業者に届いたのは約426トン(0.3%)にすぎない。SNS上には「備蓄米どこ?」「全く価格は下がっていないんですけど」といった批判の声が渦巻いている。

 集荷業者と卸売業者の相対取引価格(3月)は全銘柄平均(玄米)で60キロあたり2万5876円(税込み)となり、2月に比べて610円ほど安くなってはいる。だが、それでも前年同月に比べれば68%も上昇しているのだ。6カ月連続で過去最高を更新し続けるコメの価格は確実に家計を直撃し続けている。

 言うまでもなく、5キロ・4214円というのは全国平均の価格であり、地域差もある。輸送費上昇が響く沖縄県など一部地域では「コシヒカリ」が5キロで6000円(税込み)オーバーとなっているところも珍しくはない。4月18日には「X」(旧ツイッター)上で「コメ5キロ5000円」がトレンド入りした。

コシヒカリの茶碗一杯57円で、4枚切の食パン1枚48円

 民間シンクタンク「三菱総合研究所」の試算によれば、コシヒカリの茶碗一杯(150グラム)の価格は約57円で、4枚切の食パン1枚(48円)よりも9円近く高いという。ちなみに、2023年4月時点では1膳約30円、4枚切のパンは42円であり、一気に逆転している。一部店舗で販売されている備蓄米は「ブレンド米」と表記され、5キロ・3000円台で販売されているものの、入荷予定のない販売店も目立つ。もはや異常事態だろう。

 今回のコメ価格高騰は、政府の“失政”によるところが大きい。そもそも国民が説明されてきた理由は次のようなものだった。2024年産米の生産量は679万トンと前年産より18万トン増えたものの、JAなどの集荷業者が買い入れたコメは今年1月末時点で前年同期比23万トン少なかった。コメは生産者からJAなどの集荷業者が買い、卸売・小売業者を通じて消費者に流れるのが一般的だが、流通に「目詰まり」が生じているというものだ。

 たしかに、最近はJAを介さずに生産者が直接販売したり、高値で売ることができるタイミングを見定めたりする業者も存在する。ネット直販の普及に加え、新規参入者などがJAよりも高価格で生産者から買い取るなど流通経路の多様化が進んでいるのは事実だ。

江藤農水相「価格に直接コミットするつもりはない」

 林芳正官房長官は「生産量が前年より多いにもかかわらず、大規模な集荷業者にコメが集まっていない。供給に滞りが生じている」と指摘。その上で「円滑なコメの供給が行えるよう政府備蓄米の買い戻し条件付き売り渡しを実施する」と説明し、在庫抱え込みを解消するため備蓄米放出を決めたとする。

 政府は7月まで備蓄米を毎月放出する方針だが、江藤拓農林水産相は4月18日の記者会見で「価格に直接コミットするつもりはない。価格はあくまでも市場で決まる。ただ、価格が安定するような環境を整える努力を農水省としてするということだから、価格水準については、私の方からお答えすることはできない」と語っている。つまり価格がいつ、どのように推移するのかは分からないということだ。

 政府が説明するコメ価格高騰の理由は先に触れたものだが、江藤農水相は4月1日の会見でこうも語っている。

まるで国民が悪いような言い方

「例えば、トイレットペーパーがオイルショックの時になくなりました。各家庭で暮らしを守るためにみんなが買ったので一気になくなりました。米がないのではないかという不安感が消費者にも、流通関係者にも集荷業者の方々にも多分にあり、それに加えて『転売ヤー』と言われるような方々も一部市場に参入し、新たなプレイヤーも参加してきて庭先で米を買う」

 さらに「18万トン、昨年よりも穫れている。非常に収穫は良く、7%余計に穫れている結果だったわけだが、そういうことよりもネットの力や伝聞が大きく影響しているのだろう」というのだ。これでは、まるで国民が悪いような言い方に感じてしまう。

 卸売業者から小売業者への流れ、集荷業者の在庫状況、コメの価格維持との整合性などを検証し、国民に寄り添ったリーダーシップを発揮してもらいたいと思うのは当然だが、今の石破政権にはそれらが欠落していると言わざるを得ないだろう。そもそも、コメが足りていないという認識が不足しているのだ。昨年夏の時点で約40万トンのコメ不足に対応するため、2024年産米は「先食い」されている。

物価上昇に国民からは批判がわきあがっている

 4月23日からは備蓄米放出の3回目入札が始まるが、以前のように2000~3000円のコメはいつになれば消費者に届くのか。共同通信が4月12、13日に実施した世論調査によると、コメ価格高騰への政府の対応が「十分だ」とする回答は14.7%にとどまり、「不十分だ」が82.7%に上っている。さらに深刻なのは価格上昇時にも食べるコメの量は「変わらない」と答えた人が82.8%に達していることだ。「食べるコメの量が減った」とする回答も16.3%あるものの、多くの人々は価格上昇に耐えながら「国民食」を求めている。

 政府が「転売ヤー」に矛先を向けるのは構わないが、「先食い」はすなわち自転車操業状態を意味する。当たり前のことだが、よほどのことがない限り今年夏以降のコメ不足も懸念されるところだ。需要と供給のバランスが崩れたままであれば、価格上昇は容易に止まらないだろう。これは、消費者を見ずにコメの価格維持を優先させた政府にこそ責任があるものだ。

 相次ぐ物価上昇に国民からは批判がわきあがっている。だが、石破首相は新たな経済対策を裏付ける補正予算案の編成を見送る方針を固めたと伝えられる。なんでも、国民一律の現金給付を求める声があるものの、参院選前の「バラマキ」批判が想定以上に強いため断念したのだという。

首相はまるで国民の生活を理解していない

 石破首相は4月20日のNHK番組で「国民の負担が少しでも減るように政府としてきちんとやりたい」と語り、今夏の電気代やガソリン価格の引き下げ策に意欲を示した。その上で現金給付や消費税の減税には「これから色々な議論が行われていくが、その場しのぎでないこと、次の時代にもきちんとした経済が維持されることが政府の責任だと思っている」などと説明している。

 もちろん、電気代補助やガソリン価格引き下げ策も大切だ。しかし、それらをストップしてきたのは石破政権だったのではないか。政府による電気・ガス代への補助金が今年3月で終了することに伴い、電力大手10社と都市ガス大手4社は、4月使用分(5月請求分)から全社値上げの料金変更を発表。昨年12月以降、ガソリン価格は補助金の段階的縮小で高騰している。誤解を恐れずに言えば、首相はまるで国民の生活を理解していないと言わざるを得ない。要は「おまゆう」状態なのである。

 将来世代にツケを残さない、国家・国民を守るのが政府の使命であるのは当然だ。ただ、首相は今を生きる人々に対しても、もっと寄り添う必要があるだろう。言うまでもなく、国家は国民による納税で成り立っている。過去最高の税収を記録しておきながら、国民に適切な還元をできないようならば、もはや政府の責任を果たせているとは言い難い。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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