記録的高値のコメ価格…経済誌元編集長が指摘「江藤農水大臣の欺瞞に満ちた問いかけ」政府責任から目を逸らしている

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 庶民はコメを食べるなということなのか―。3月の全国消費者物価指数(2020年=100)が衝撃を与えている。総務省が4月18日発表した生鮮食品を除く総合指数は前年同月比3.2%上昇し、43カ月連続で上昇。特にコメ類は92.1%もアップし、1971年以降で最大の上昇率となったのだ。政府は3月から備蓄米放出という「切り札」を放ち、過去最高となったコメ価格が落ち着いていくと豪語するものの、多くの国民にはとどいていないのが実情だ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

目次

江藤大臣の説明は「政策責任から目を逸らすための悪質なプロパガンダだ」

 日本の食卓が悲鳴を上げている。主食であるコメの価格が、歴史的な高騰を続けているからだ。2025年に入り、スーパーでの平均価格は5kgあたり4000円を超える水準が常態化し、前年の実に2倍以上という異常事態である。多くの国民が日々の食費に頭を悩ませ、購入をためらう姿さえ見られる。この未曾有の「コメ・クライシス」の元凶は、長年にわたる自由民主党政権と農林水産省による無策・失政、そして国民不在の利権構造にあることは、もはや誰の目にも明らかである。

 にもかかわらず、農政の最高責任者であるはずの江藤拓農林水産大臣は、国民の苦境に寄り添うどころか、信じがたい責任転嫁と的外れな弁明に終始している。まるで、この価格高騰は国民自身のせいであるかのような物言いすら見られる。驚くべきその言い分を検証し、彼らが隠蔽しようとする不都合な真実を白日の下に晒さなければならない。

 まず江藤大臣が繰り返すのは、「転売ヤー」や「流通の目詰まり」が価格高騰の原因であるかのような主張だ。農水省は「在庫が様々な段階に分散している」「JA等を介さない直接販売が増え、従来のルートが滞った」などと、あたかも市場参加者の行動が混乱を引き起こしたかのような調査結果を発表している。

 しかし、これは問題の本質を矮小化し、自らの政策責任から目を逸らすための悪質なプロパガンダに過ぎない。価格が高騰する根本原因は、需要に対する供給力の不足、そして生産・流通コストの急激な上昇にある。転売や在庫の偏在は、その結果として現れる二次的な現象でしかない。因果関係を逆転させ、国民や一部業者を悪者に仕立て上げる手口は、あまりにも卑劣である。

国民の切実な要求を退けようとしている

 さらに驚くべきは、アメリカからのコメ輸入拡大要求に対する江藤大臣の反応である。2025年4月22日の記者会見で、大臣はこう言い放った。

「カリフォルニアのコメは美味しいらしいと、安いんだったらぜひ日本に輸入して、店頭に並べてほしいという声があることは、その気持ちはよくわかります」

 一見、国民の声に理解を示しているかのように聞こえる。しかし、直後に続く言葉に、この大臣の本音が透けて見える。

「もし大量に主食である自給可能なコメを海外に頼ると、日本のコメの国内生産が大幅に減少してしまうということが国益なのかということは、私は国民全体として考えていただきたい」

 これは一体どういう意味なのだろうか。高すぎるコメ価格に苦しむ国民が、輸入小麦でできたパンやパスタを食べるより、輸入米を求めるのは当然の欲求である。それを「その気持ちはよくわかります」と口先で同調しながら、結局は「国益」「国内生産の維持」という抽象的な言葉を持ち出して、国民の切実な要求を退けようとしている。まるで、「安い米を求めるお前たちの気持ちは分かるが、国のためには我慢しろ」と言わんばかりではないか。国民のコメ食への渇望よりも、国内の非効率な生産体制を守ることこそが「国益」だと、この大臣は本気で考えているらしい。国民がまるで国益を損なう元凶であるかのような、驚くべき責任転嫁である。

江藤大臣の欺瞞に満ちた問いかけ

「主食であるコメを海外に頼る体制を築くことが国益なのか」

 この問いかけ自体が欺瞞に満ちている。日本は既に、小麦、大豆、飼料穀物など、食料の多くを海外に依存している。コメは、自民党とJA(農業協同組合)にとって都合の良い「聖域」であり、巨大な利権の温床だ。国民の食卓の安定や、真の意味での食料安全保障戦略など、彼らの頭には微塵もない。食卓がパスタやパンに代わっていくことよりも、自分たちの票田と組織を守ること、それが彼らにとっての「国益」なのだ。この発言は、国民の利益よりも特定の集団の利益を優先する、腐敗した政治構造を自ら露呈している。

 財政制度等審議会が、国内の供給安定のためにミニマムアクセス(MA)米の主食用枠拡大を提案した際も、江藤大臣は「MA米は国産の需給に影響を与えないよう対応することがはっきり決まっている」と、けんもほろろに反論した(4月18日会見)。

「十分参考にさせていただきたい」という空虚な返答

 国民の食卓に安定的に安価な米を供給するという視点が全く欠落している。既存のルール、既存の利権構造を守ることだけが目的化している。全国知事会が「これまでの輸入ルールを堅持」するよう求めた際には、「十分参考にさせていただきたい」と空虚な返答をする(4月22日会見)。一体誰のために政治を行っているのか。国民不在も甚だしい。

 一方で、自身の責任については、驚くほど軽い。コメ価格の高止まりについて、「備蓄米を出しても店頭価格が下がらないことに責任を重く感じている。申し訳ない」(4月22日会見)と陳謝する。しかし、その舌の根も乾かぬうちに、卸・小売業者を集めた意見交換会では「消費者の皆さま方に安定供給を一日も早く取り戻したいという気持ちは皆さま方も我々も同じ。皆さま方にもより一層、協力してもらいたい」(4月14日)と、あたかも民間企業の協力不足が原因であるかのように責任の一端を押し付けている。口先だけの謝罪と責任転嫁。これが江藤大臣、そして現在の自民党・農水省の体質である。

最大原因は半世紀にも及ぶ自民党政権の「減反政策」

 そもそも、この価格高騰を招いた最大の原因は、半世紀にも及ぶ自民党政権の「減反政策」である。補助金をばらまき、農家の生産意欲を奪い、日本の農業全体の供給力と競争力を徹底的に破壊した。国際的な研究でも、所得補償的な補助金が農業の技術効率を低下させることは明白である。にもかかわらず、彼らはこの亡国の政策を続け、その事実すら国民に隠蔽してきた。2018年に形式的に廃止したと見せかけ、実際には交付金という形で実質的な作付け誘導を続けている。こんな「二枚舌」が許されていいはずがない。

 さらに、日本の高品質な米を海外に輸出し、国際市場で稼ぐという戦略も放棄してきた。「国内農家保護」という歪んだ建前を振りかざし、農家の成長機会を奪い、内向きの保護主義に安住してきた。その結果、日本の農業は国際競争から完全に取り残され、わずかな国内需給の変動やコスト上昇で、いとも簡単に価格が高騰する脆弱な構造に成り下がってしまった。

 そして、この期に及んで政府が打ち出す対策が、効果の疑わしい備蓄米の小出し放出である。3月に放出して効果がなかったにも関わらず、7月まで毎月だらだらと放出し続けるという。

考えるべきは国民ではない、江藤大臣自身だ

 一体、国民をどれだけ馬鹿にすれば気が済むのか。備蓄米は国家の食料安全保障の根幹である。それを、市場への影響も限定的な量で小出しにし、一時的なガス抜きに使うなど、愚策中の愚策である。放出するなら、市場の需給バランスを正常化させるだけの量を一気に放出すべきだ。そして、不足分は外交交渉で米国などから関税交渉を含めた戦略物資として購入し、備蓄を再構築することもできた。それができないのは、JAをはじめとする国内の既得権益への配慮以外の何物でもない。

 野村證券の山口正章氏が2025年3月25日付のレポートで指摘するように、本当の問題は長期的な供給体制にある。「地球温暖化対策や、高齢化による耕作放棄地の増加などへの対策を抜きにして、食糧安全保障も語れません」。政府はこの本質的な課題から逃げ続けている。

 江藤大臣は言う。「国民全体として考えていただきたい」と。何を言っているのか。考えるべきは国民ではない、江藤大臣自身だ。長年の失政の責任を認め、国民に真摯に謝罪し、そして直ちに具体的な改革案を示し、実行すること。それ以外に道はない。減反政策の完全な廃止、生産・流通の自由化、戦略的な備蓄と輸入政策の確立、JA改革。これらを断行する覚悟がないのなら、即刻その職を辞すべきである。

 記録的なコメ価格の高騰の原因の半分は、人災である。その責任は、間違いなく自民党と農水省にある。国民のせいにするような言い分は断じて許されない。彼らの無能と欺瞞によって、日本の食卓と農業の未来が危機に瀕している。国民は、この驚くべき言い分と無責任な姿勢を、決して忘れてはならない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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