コメ価格高騰の江藤農水大臣、過去にとんでもないデタラメ行為…今「胃に穴が空く思い」は本当なのか

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 コメが高い。農林水産省によると、3月の新米販売価格は小売り事業向けで昨年同月比で1.8倍になったという。農水省は3月に備蓄米約21トンを放出していたが、卸売業者などに引き渡された量は約2万トンにとどまっているという。一体われわれの食生活はどうなるのか。江藤拓農水相はコメ価格の責任を問われると「胃に穴があく思い」という表現を用いている。これに対し経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「実際のところ、空いているのは江藤大臣の胃袋ではない。空いているのは、国民生活への想像力と、自らの政策に対する責任感」とバッサリ切るーー。

目次

職務が遂行できない痛みというなら、辞めて療養に専念すべき

 記録的な米価高騰に国民が喘ぎ、日本の食の根幹が揺らぐ未曾有の危機に対し、農政の舵取りを任された男、江藤拓農林水産大臣の口から発せられる言葉は、驚くほど軽く、空虚で、そして国民を愚弄する欺瞞に満ちている。

 江藤大臣は記者会見で、米価高騰の責任を問われると、しばしば「胃に穴があく思い」という表現を用いる。例えば、備蓄米の放出という異例の措置に踏み切った際の苦悩を語る場面(4月25日)。あるいは、米が投機の対象になりかねない状況への危機感を訴える場面(同年2月14日会見)。この「胃に穴があく」という言葉を、江藤大臣は複数回、公の場で繰り返している。

 この「胃に穴があく」という表現を考えてみたい。本当に胃に穴が開くほどの心痛がある人間が、平然と大臣の職務を続け、メディアの前でよどみなく答弁できるわけがないのだから、これは自身の心労を強調する修辞であることは明らかだ。

 実際のところ、空いているのは江藤大臣の胃袋ではない。空いているのは、国民生活への想像力と、自らの政策に対する責任感である。胃に穴が空くような思いをしてきたのは、農家であり、消費者なのである。心労が重なっていることは事実なのだろうが、その原因は自身であり、自民党にあるのだから、しっかりと向き合わなければならないし、職務が遂行できない痛みというなら、さっさと辞めて療養に専念すべきだ。農水大臣の代わりの人材も、大臣になりたい人も日本にはいくらでもいる。

 江藤大臣は「田舎の政治家ですから、生産現場を守りたい気持ちが強くあります」(令和7年2月14日 大臣記者会見)とも述べた。しかし、この言葉ほど空虚で、国民を愚弄するものはない。

「生産現場を守りたい気持ち」という言葉がなぜ空虚か

 これまでの米価高騰に対する無為無策、繰り返される失政の数々を目の当たりにしてきた国民にとって、この発言は白々しい自己弁護、あるいは責任逃れの煙幕にしか聞こえない。彼が本当に守りたい「生産現場」とは、一体どこを指すのか。その実態は、江藤大臣自身の地元、宮崎県の農業構造を見れば一目瞭然である。

 宮崎県の農業産出額の実に6割以上は畜産(肉用牛、ブロイラー)であり、米の生産は耕種農業の中でも極めて比重が小さい。2022年時点で宮崎県の主食用米の収穫量は約71,400トンで、全国第32位にすぎない(農林水産省「作況調査(令和4年(2022年)産)」)。温暖な気候と限られた平野という地理的条件から、マンゴーやピーマンといった高収益な園芸作物が主力であり、県としても飼料用米や園芸作物への転作を積極的に進めてきた。つまり、江藤大臣の地元宮崎において、米はそもそも「選ばれにくい作物」なのである。

「流通の目詰まり」「転売ヤー」などと的外れな原因分析

 そんな地域の政治家が「生産現場を守りたい」と美辞麗句を並べるとき、その言葉が全国の米農家、特に生活必需品である主食としての米生産者を真に想定しているとは到底思えない。むしろ、自身の強固な選挙基盤である畜産農家や、関連するJA組織、特定の業界団体の利益を守りたいという、極めて偏狭で利己的な動機が透けて見える。全国的に米価が高騰し、卸売業者は悲鳴を上げ、消費者は食費の節約に苦しみ、コメより安い小麦でできたパンやパスタを食べる人もいる。

 このような深刻な状況下で、「流通の目詰まり」「転売ヤー」などと的外れな原因分析に終始し、効果の薄い備蓄米の小出し放出でお茶を濁し、挙げ句の果てには「安い米を求める国民が国益を損なう」かのような責任転嫁発言まで繰り出す。この大臣の対応に、米の安定供給に対する真剣さ、国民生活への配慮が決定的に欠如しているのは明らかである。なぜなら、米価が高騰しようが、流通が混乱しようが、彼の地元の主要産業への影響は限定的であり、当事者意識を持つ必要がないからではないか。

 江藤大臣が守ると言う「生産現場」とは、自民党と農水省が長年かけて作り上げ、補助金漬けにしてきた、非効率で硬直化した既存の農業システムそのものではないのか。

失政のツケが回ってきたのが、現在の「コメ・クライシス」

 半世紀にわたる減反政策で農家の自主性を奪い、供給力を破壊し、国際競争力を失わせた。その結果、わずかな天候不順や需給変動で価格が乱高下する脆弱な構造を作り上げた。その失政のツケが回ってきたのが、現在の「コメ・クライシス」である。にもかかわらず、江藤大臣はその責任を認めず、「農家と意見交換してきたつもり」などと自己正当化に終始する。本当に生産現場を守りたいなら、まずやるべきことは、減反政策の完全撤廃と生産の自由化、そして補助金に頼らない自立した経営を支援する抜本的な制度改革であるはずだ。しかし、江藤大臣が行っているのは、その真逆、利権構造の擁護と現状維持、そして問題先送りに他ならない。江藤大臣の言う「生産現場を守る」とは、結局のところ「自民党を守る」という本音の言い換えに過ぎないのである。

 その証拠に、江藤大臣が過去、TPP交渉において見せた姿勢がある。この江藤大臣の転向プロセスとTPP参加への協力は船橋洋一著『宿命の子』に詳しい。

 かつて、江藤大臣は「TPP参加の即時撤回を求める会」の会長を務めるなど、明確な反対派であったが、安倍晋三元首相が自身を自民党へ復帰させたことを「政治家として一生の御恩」として、安倍政権下ではTPP推進派へと転向。その過程で、牛肉の市場開放には協力的であったとされる。理由は「マツサカ、ヨネザワ、タジマ、ミヤザキ……みなそれぞれの土地で違いがあり、国際競争力がある」からだという。自分の政策を実現しないどころか全く逆の政治行動をとることによる、自民党への復党が「政治家として一生の御恩」というのだから呆れてしまう。

江藤大臣のデタラメな行動は、全くもって腹立たしい

 私はTPPの推進論者であり、トランプ関税に心を痛める一人であるが、この言っていることとやっていることが全く違う江藤大臣のデタラメな行動は、全くもって腹立たしいものだ。

 さらに看過できないのは、江藤氏が関与してきたTPP関連対策予算が、地元宮崎においてすら、成果を上げていなかったという事実である。会計検査院の報告(令和4年)によれば、宮崎県は6年間で約68億円の補助金(主に畜産・酪農分野)を受け取っていたが、その多くが「成果未達」に終わっている。畜産クラスター事業では、導入された機械や施設が実際には稼働せず、報告書未提出のまま放置されていたケースも確認された。補助金の返還も指導も行われておらず、まさに“使いっぱなし”の典型例である。

 こうした予算のずさんな運用は、支援を受けた農家の再生産にも資さず、むしろ「補助金もらい得」の風土を温存した。江藤氏は「生産現場を守る」と繰り返すが、その実態は、生産性や自立性ではなく、既得権益と非効率な構造の防衛に過ぎない。支援の名を借りて、選挙地盤の強化に国費を流用しているに等しい。

構造的な歪みを正す覚悟を示すべき

 その一方で、江藤大臣は「行政は、価格にコミットするのは正しくない」「市場で決まるのが大原則」と口にする。しかし、現実には備蓄米の放出という形で市場に介入し、その正当化として「異常事態だから」などと釈明する。市場原理主義と介入主義の間を、その都度都合よく渡り歩く姿勢は、政策に一貫性がなく、信頼に値しない。

 さらに、「生産数量の割当ては完全にやめました」という発言もあるが、これは真っ赤な嘘である。表向きの配分廃止の裏で、「水田活用の直接支払交付金」などを通じて、実質的な作付け誘導は継続されている。政策の骨格は依然として減反の延長線上にあるのに、それを「お手伝い」と矮小化するのは、国民への侮辱である。

「国民に考えていただきたい」という発言も、責任転嫁に他ならない。考えるべきは、まず自らの政策の誤りであり、国民の生活が直面している困難をどう解消するかという視点である。国民に思考の責任を丸投げする政治家に、指導者たる資格はない。

「胃に穴があく」ほどの思いで責任を果たす気があるなら、まずは自らの過去の政策判断を振り返り、構造的な歪みを正す覚悟を示すべきだ。そうでなければ、その言葉はただの演出にすぎない。空いているのは胃ではない。責任感と覚悟である。そして今、空洞化しているのは、日本の農政そのものである。自民党と農水省の解体的政策転換こそが、立て直しの第一歩となる。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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