「心が折れそう…」コメ農家の悲鳴「始まった水不足と猛暑」腐敗した自民党では日本のコメ文化が終わる

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 国民の生活と政治の距離が、かつてないほど離れている。物価が上がっても実感なき説明が繰り返され、困窮の声が届かない。中でも“食”を支える農政の崩壊は見過ごせない問題だ。現場で苦しむ農家をよそに、政治は自らの責任を語ろうとしない。冷ややかで無責任な言葉が、現場の怒りに火をつけている。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説していくーー。

目次

異常気象が“当たり前”になる時代へ

 2025年、日本の夏は再び過酷な様相を呈しそうだ。「梅雨明け早く猛暑」「戻り梅雨に注意」「また猛暑」――日本気象協会が発表した暖候期予報(2025年2月25日)は、楽観を許さない厳しい見通しを示している。過ごしやすい季節は短く、激しい気象変動が日常となる「メリハリ型」の気候。これは単なる一年の天候不順ではない。気象庁の報告書「日本の気候変動2025」が示すように、これは地球温暖化によって加速する、日本の気候の構造的変化なのである。

 この報告書が突きつける現実は、米作りにとって悪夢そのものである。日本の年平均気温は、世界平均の倍近いペース(100年あたり1.40℃)で上昇を続け、特に1980年代後半からの加速は著しい。その結果、真夏日、猛暑日、熱帯夜の日数は統計的に有意に増加し、将来予測ではさらに激増する(4℃上昇シナリオで猛暑日は全国平均約17.5日増)。一方で、雨の降り方も極端化している。

「降水量」に振り回される田んぼと農家

 年間の総降水量は大きく変わらないものの、1時間降水量50mm以上の短時間強雨や、日降水量100mm、200mm以上の大雨の発生頻度・強度は明確に増加している(信頼度高い)。短期間の集中豪雨と、それに続く高温・乾燥。水田は冠水し、稲は倒れ、病害虫が蔓延しやすくなる。かと思えば、必要な時に水がなく、田は干上がる。今年4月、大分県佐伯市で早期米の田植えが深刻な水不足でできなくなったという報道は、まさにこの気候変動リスクが現実化した姿だ。農家は「心が折れそう」(テレ朝NEWS、4月29日)と悲鳴を上げている。

 このような科学的知見と現実の危機を前にして、日本の農政を司る自由民主党と農林水産省は何をしてきたのか。そして、今、何をしようとしているのか。答えは、驚くべきほどの無策、怠慢、そして国民を愚弄する責任転嫁である。彼らは、この気候変動という国家的な危機に対し、何の有効な手も打たず、問題を悪化させ、挙句の果てにはその責任を国民や市場になすりつけようとしている。

「卸のせい」にすり替え?江藤農水相の無責任な発言

 農政の最高責任者であるはずの江藤拓農林水産大臣の言動は、その象徴である。国民が記録的な米価高騰に喘ぐ中、この男は信じがたい詭弁と自己弁護に終始している。4月25日の記者会見では、米価高騰の原因を問われ、「卸がたくさん持っているが出てこない」などと、あたかも流通業者の「売り渋り」が問題であるかのような認識を披露した。記者が「卸売業者は通常の7割しか仕入れられておらず、そもそも生産量が足りていないのでは」と現場の声を突きつけても、「我々は、推測に基づいて言っているわけではありません。多分、御社よりもきめ細やかに調査をかけています」「この調査結果に狂いはほとんどない」と、根拠不明な自信に基づき、現場の声を一蹴する。

 卸に米がない実態を「高い値段で買い入れているから出しづらい」などと、意味不明な論理ですり替えるに至っては、もはや失笑すら禁じ得ない。価格が高騰している現実、供給が不足している現実から目を逸らし、責任を他者に転嫁するその姿勢は、閣僚としてあるまじきものである。

“潔白”を装う農政トップがもたらす、農業崩壊の連鎖

 さらに江藤大臣は、自らが推進してきた、あるいは黙認してきた政策の失敗から目を背ける。半世紀に及ぶ減反政策が日本の農業の供給力と競争力を破壊してきたことは明白な事実である。国際的な学術研究も、所得補償的な補助金が農業の技術効率を低下させることを示している。にもかかわらず、江藤大臣は「生殺与奪権を国が持っているというのは、あまりにもひどいと思います」「我々が、あたかも農家を弄んできたかのような言い方は、慎んでいただきたいと思います」と、あたかも潔白であるかのように感情的に反論する。

 そして、2018年に生産数量の割り当ては「完全にやめた」と強弁し、その後の実質的な作付け誘導を「データ提供」「お手伝い」などと矮小化する。過去の強圧的な減反と現在の政策を切り離し、「米農家の声に応えてきた」と自己正当化を図る。歴史を歪曲し、国民を欺く詭弁も甚だしい。減反政策の悪影響と政策の継続性が、現在の供給不安と価格高騰の根本原因の一つであることから目を背け、責任を認めようとしないその態度は、政治家としての倫理観の欠如を示している。

本当に問われるべきは「市場」か、それとも政策の一貫性か

 この異常事態に対する対応策が、市場原理を持ち出したかと思えば、場当たり的な市場介入に終始するという支離滅裂ぶりである。「行政は、価格にコミットするというのは正しくありません」「市場で決まるというのは大原則です」と、あたかも自由市場を尊重するかのように語る。その舌の根も乾かぬうちに、「今回は異常事態に対応するために、備蓄米を出すしかないという判断をした」「政策決断をした以上は、結果にコミットしなければなりません」と、政府介入を正当化し、結果責任まで口にする。どちらが本音なのか。都合の良い理論をその場その場で使い分ける、一貫性のない姿勢は、国民の混乱を招くだけである。

 備蓄米の放出自体が愚策であることは言うまでもない。効果が限定的であることは既に証明済みだ。にもかかわらず、7月まで毎月小出しに放出するという。これは、国民を「朝三暮四」の猿と見なすに等しい。国家の食料安全保障の根幹を揺るがしかねない危険な行為であり、資源の無駄遣いである。本来であれば、備蓄米は緊急時以外に動かすべきではない。平時の価格調整に使うなど論外だ。もし市場の安定化を図るなら、全量放出と戦略的な輸入・備蓄再構築という抜本策こそが必要なのであり、それができないのは国内利権への配慮以外の何物でもない。

米価高騰は“予兆”に過ぎない 国家存立を揺るがす農政の失策

 対米関税交渉に対する姿勢も、国民不在、利権擁護の極みである。「5年前に日米の間では貿易協定を結んでおります」「これがベースであり、岩盤である」と、過去の合意を盾に、現状変更を頑なに拒む。安価な輸入米を求める国民の声には「国益なのか」と問い返し、農業分野での「逆噴射は避けるべき」と国内利権団体の代弁をする。高すぎる関税が国民生活を圧迫している現実には一切目を向けない。

 この記者会見は、江藤大臣個人の資質の問題にとどまらず、自民党・農水省という組織全体の構造的腐敗と無能さを象徴している。国民生活の苦境に対する想像力の欠如、政策の誤りを認めない傲慢さ、問題の本質から目を逸らす責任転嫁、既得権益を守るための詭弁。これほどの無責任体制が、気候変動という未曾有の危機に直面する日本の食料安全保障を担っているという事実に、国民は戦慄すべきである。

 記録的な米価高騰、そしてその背景にある気候変動による生産リスクの増大。これは、単なる経済問題ではない。国家の存立基盤に関わる危機である。この危機に対し、責任を放棄し、国民を愚弄するような発言を繰り返す政府・与党に、もはや政権を担う資格はない。国民は、彼らの欺瞞を見抜き、怒りの声を上げ、日本の食と農の未来を取り戻すための行動を起こさなければならない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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