またも診療報酬不正請求疑惑…通信社が報じ続ける「介護業界の深すぎる闇」経済アナリスト「家族や国民を馬鹿にしている」

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 末期ガンや難病の患者を受け入れる民間の有料老人ホームが増加する中、またしても上場企業が診療報酬の不正請求をしていた可能性があると報じられている。今度は「ホスピス型住宅」といわれるタイプの最大手だ。2月には、パーキンソン病専門の有料老人ホームを運営する東証プライム上場の「サンウェルズ」(本社・金沢市)が総額28億円超の不正請求を特別調査委員会に認定されたばかり。経済アナリストの佐藤健太氏は「不正請求は利用者や家族だけでなく、国民をバカにする問題。疑惑を持たれた親会社は1日も早く説明すべきだろう」と指弾する。

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共同通信が報じ続ける、老人ホーム不正請求疑惑

 疑惑が浮上しているのは、有料老人ホーム「医心館」を展開する「アンビスホールディングス」(東京都中央区)。共同通信は3月23日配信した独自記事で、「複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった」と報じた。

 記事によれば、末期ガン患者などの訪問看護は必要がある場合、1日3回まで診療報酬を請求可能で、複数人での訪問には加算がある。訪問時間は原則30分以上と定められているものの、元社員らは「必要性に関係なく全員、最初から1日3回訪問と決まっていた」と証言しているという。仮に報道が事実であれば、過剰な診療報酬の請求が常態化していたことが疑われる内容だ。

 2016年10月に設立されたアンビスHDは5000人近い従業員数を誇り、2019年10月に東証スタンダード市場に上場。2023年3月には東証プライム市場に区分変更している。中核の「医心館」は全国に有料老人ホームを約120カ所展開し、ホスピス住宅最大手となっている。

 共同通信の報道を受けてアンビスHDは3月24日、「昨日の一部報道について」と題したリリースを出し、「現在事実関係を確認中です。今後、事実関係を確認できました後には、速やかに公表いたします」と入居者や家族、投資家・株主などに謝罪。3月27日には取締役会が特別調査委員会の設置を決議し、「事実関係の確認の過程で問題点が認められた場合には、早期に対応が行うことが望ましいと判断しております」として社外の独立した専門家による調査委が公正かつ客観性のある実態把握を進めると公表した。

社会的意義は拡大しているとうたってきたが…

 現時点でそれ以外のアナウンスメントはないため真相は不明だ。ただ、共同通信は続報で、ホーム勤務経験がある看護師が訪問時間に関し「実際には30分なんていません」「部屋のドアを開けて、安否を確認するだけとか薬を渡すだけの数秒~数分の訪問でも、30分いたことにして報酬を不正に請求している」などと証言していると報道。4月27日には「医心館、訪問介護でも不正請求か ホスピス最大手、会社ぐるみ疑い」と題した独自記事を配信し、入居者向けの訪問看護だけではなく訪問介護でも「不正・過剰な介護報酬を請求していたとみられることが27日、複数の現・元社員の証言で分かった」と報じた。実際には予定通り訪問しないことが多かった、と指摘している。

 アンビスHDの株価は、共同通信が最初に報じた3月23日までは600円を超えていたが、翌24日は制限値幅の下限まで売られ、5月に入ってからは450円前後で取引されている。業績悪化を懸念する売りが現われている形だ。4月に千葉県木更津市や広島市、静岡県駿東郡などに有料老人ホームをオープンし、5月1日には神戸市や金沢市で展開しているだけに入居者や家族らの内心は穏やかではないだろう。

 アンビスHDの公表資料によれば、医心館は末期ガン患者を中心とする終末期患者に対する「看取りのセーフティネットを補完」するとし、その社会的意義は拡大しているとうたってきた。入居者の属性は「末期ガン」が81.3%を占め、「看取り患者」は2024年に約9400人(施設内看取り率は98.9%)という。

 医心館の看護は「夜間も含む24時間を通じた、入居者のご要望や生命活動の維持に向けた臨機応変な対応」を掲げる。また、コンプライアンスへの取り組みとして「サービスの透明性、公平性を担保」「患者/家族の希望等を踏まえて訪問看護計画を立案。毎月計画の評価と更新をし、個別ケアを重視」「訪問看護報告書を毎月、主治医やケアマネに送付。外部の目からケア内容の確認を受ける仕組み」「社内コンプライアンス担当が定期的に記録をチェック、行政の定期的な運営指導による確認と評価」と説明してきた。

 2月6日に公表された2025年9月期第1四半期の決算説明資料を見てみよう。売上高(第1四半期実績)は117億7000万円で、通期予想は536億4000万円。既存施設の稼働率は安定稼働の目安である82~85%で推移し、2024年12月末時点で114施設(定員5806人)を運営。2025年9月末時点で133施設(定員6797人)の目標到達を掲げる。近年、急増する民間有料老人ホームの流れを背に事業を急拡大してきたことがわかる。

「行き場のなかった親をやっと受け入れてくれたところなのに…」

 背景にあるのは、国が末期ガン患者などの入院日数短縮を推進してきたことだろう。筆者も親の介護で経験があるのだが、一定期間を過ぎると入院し続けることができなくなり、病院側から退院を余儀なくされる。自宅で看ることができないとなれば、療養先の確保に苦労する。手厚い医療看護ケアをうたい、そうした患者を積極的に受け入れてきた医心館のようなホームに需要があるのは間違いない。共同通信の報道後、ネット上には「行き場のなかった親をやっと受け入れてくれたところなのに残念」「現場の看護師は親切だったのに・・・」といった声もある。

 ただ、事業急拡大の裏に報道のような不正請求が仮にあるのならば問題外だろう。思い出すのは、国の指定難病「パーキンソン病」専門の有料老人ホームを運営する「サンウェルズ」(東証プライム、金沢市)の不正請求問題だ。サンウェルズは「PDハウス」を運営し、2022年に東証グロース市場に上場。2024年7月には東証プライムに市場変更し、全国14都道府県に展開するなど急成長してきた。だが今年2月12日、同社が設置した特別調査委員会から診療報酬28億円あまりを不正に受け取っていたと指摘され、決算修正を発表した。

 思えば、この問題も共同通信の報道が発端だった。2024年9月2日の独自記事で「複数のホームで、併設の訪問看護ステーションがホーム入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが2日、運営会社の複数の現・元社員の証言で分かった」と報道。当初、サンウェルズ側は内容を否定し、法的措置を検討する姿勢を見せていたものの、調査委員会は大半のホームで不正請求があり、総額は約28億円に上るとの報告書を公表した。

 報告書は経営陣の「積極的な関与の事実は確認されなかった」としたが、訪問看護が数分以内と短時間で終了したにもかかわらず、約30分間の訪問であった旨の訪問看護記録を作成し、それに対応する診療報酬を請求する「短時間訪問」が行われていたと認定。また、訪問看護の同行者がいない場合でも「複数名訪問看護加算」を請求していたことなどが確認されたという。サンウェルズは今年5月1日、東証プライム市場の上場基準に適合しているか否かの再審査の対象となったと発表した。

1日も早く詳細を説明すべきだろう

 先に触れたとおり、末期ガンや難病の患者を専門的に受け入れるホスピス型住宅を希望する人は少なくない。誤解を恐れずに言えば、仮にその場所が不正請求をしているとしても患者や家族にとっては「恩人」に映ることもあるだろう。だが、それは国や国民、市場から認められるものではない。あくまでもルールの中での話なのは当然だ。

 アンビスHDは「総合医療カンパニーへの進化」を成長戦略に掲げ、「医心館における万全の運営体制維持・強化のため、顧客満足度向上、従業員の負担低減を追求」「教育研修への参加、人員体制の拡充を図り、従業員の採用活動を加速」をうたっている。医療課題の解決をミッションに据えるのは素晴らしいことだが、まずは共同通信が報じた不正請求疑惑に対して1日も早く詳細を説明すべきだろう。それなくして、国民や市場の不信感は取り除けない。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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