「ごはん1杯はコンビニのサンドウィッチより安い」と主張のJA組合長が炎上…コメ価格「決して高いとおもっていない」発言に疑問

コメの価格高騰が止まらない。1年前に比べて2倍超となっている5キロあたりの平均価格は足元で18週ぶりに値下がりしたものの、わずか19円安くなっただけだ。全国農業協同組合連合会(JA全中)は「備蓄米の効果が出始めた」と豪語するが、3月から政府が放出した備蓄米の7割近くは出荷されておらず、流通が滞る。経済アナリストの佐藤健太氏は「コメは日本の主食であり、その価格高騰は事実上の増税に等しい。政府は『日本人は日本のコメを食べるな』といっているように映る」と指弾する。
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「消費者=多くの国民」という点が忘れられている
「そもそも、ごはん1杯いくらなのか分かって『高い』といっているのだろうか。5キロ4000円としたら、1杯は50円、コンビニのサンドイッチは300~350円。我がJA本所近くのラーメン店では、いまだに『ご飯無料サービス』の看板を掲げている」。4月24日、専門紙「農業協同組合新聞」の電子版で配信された寄稿記事で、長野県・JA松本ハイランドの田中均代表理事組合長はこのような見解を示した。
「【どうするのか?崩壊寸前 食料安保】米の安定供給は長期的視点で」と題した寄稿記事では、松本氏が「そもそも、民間在庫があるにも関わらず価格調整のために備蓄米を放出するのは市場原理に反する」「生産者のことはさておき、今だけ値段が下がりさえすればいいという消費者目線だけではことは解決しない」と主張している。当然のように、この発言はネットを中心に”炎上”した。
もちろん、「令和のコメ騒動」を考える上では生産者だけでなく、JAからの観点も重要なのだろう。ただ、そこには「消費者=多くの国民」という点が忘れられているように感じてしまう。民間シンクタンク「三菱総合研究所」の試算によれば、コシヒカリの茶碗一杯(150グラム)の価格は約57円で、4枚切の食パン1枚(48円)よりも9円近く高いという。ちなみに、2023年4月時点では1膳約30円、4枚切のパンは42円であり、一気に逆転している。一部店舗で販売されている備蓄米は「ブレンド米」と表記され、5キロ・3000円台で販売されているものの、入荷予定のない販売店も目立つ。もはや異常事態だろう。
農林水産省が5月12日発表した全国のスーパーで4月28~5月4日に販売されたコメの平均価格は5キロあたり4214円で、前週比19円安くなった。18週ぶりに値下がりしたとはいえ、1年前は2000円台。わずか1年で2倍という衝撃的な価格が家計を直撃している。
「(今のコメ価格は)決して高いとは思っていない」
しかし、JA全中の山野徹会長は5月13日の記者会見で「(今のコメ価格は)決して高いとは思っていない」との認識を示した。その上で「コメの価格は長年にわたって生産コストを賄えていないような極めて低い水準だった」「消費者と生産者が納得できる価格でコメを安定的に供給していくことが何よりも重要だ」と強調している。
政府が「切り札」とした備蓄米は3月に入札が2回実施され、計21万トンが放出されたものの、多くの人々は店頭でいまだ見つけられていないのではないか。JA全農が5月9日に発表したデータによれば、3月の落札分19万9270トンのうち、5月8日時点で卸売業者に出荷したのは32%にとどまる。すべて売り渡しが完了するのは7月以降というのだから何とも言えない気持ちになる。
ただ、山野会長は「店頭の小売価格の上がり幅は縮小傾向から直近では下落したとの発表もあり、備蓄米の買い戻し条件付きの販売効果が現われ始めている。店頭小売価格は落ち着くことが期待できる」とする。とはいえ、卸売業者から小売店に届くには2週間程度かかるとされ、足元の価格高騰にスピード感を持って対処できているかと言えば疑問が残る。
「令和のコメ騒動」は明らかに政府の失政
ANNが5月10、11日に実施した世論調査によれば、備蓄米放出が始まった3月以降、コメの価格をどう感じるかについて「高くなった」は67.3%に上り、「安くなった」は0.4%にすぎない。石破茂首相は「可能な限り早く、手に取りやすい価格で消費者の手に渡るようスピード感と危機感を持って取り組んでいく」と語っているが、昨年夏に表面化したコメ不足と価格高騰に一体どれだけの危機感を持って臨んできたのだろうか。
誤解を恐れずに言えば、「令和のコメ騒動」は明らかな政府の失政が原因だ。まず、そもそもの「見通し」が甘すぎた。2024年産米の生産量は679万トンと前年産より18万トン増えたものの、JAなどの集荷業者が買い入れたコメは今年1月末時点で前年同期比23万トン少なかった。
コメの民間在庫量は農水省が示す158万トンを大幅に下回る可能性
コメは生産者からJAなどの集荷業者が買い、卸売・小売業者を通じて消費者に流れるのが一般的だが、流通に「目詰まり」が生じているのは明らかだったはずだ。加えて、昨年夏以降の「コメ騒動」に何ら効果的なアナウンスを政府として発してこなかった点も大きい。
そして、政府にはそもそもコメが足りていないという認識が不足していると言える。昨年夏の時点で約40万トンのコメ不足に対応するため、2024年産米は「先食い」されている。言うまでもなく「先食い」は、自転車操業状態を意味する。よほどのことがない限り今年夏以降のコメ不足も懸念されるところだ。需要と供給のバランスが崩れたままであれば、価格上昇は容易に止まらないだろう。政府は7月まで備蓄米を毎月放出する方針だが、5月からは2022年産の備蓄米が放出される。2023年産、2024年産だけでは対応できず、ついに3年前のコメに頼るという状況だ。
ただ、農業専門日刊紙である日本農業新聞は2月14日、衝撃的な試算を公表した。今年6月末時点のコメの民間在庫量は農水省が示す158万トンを大幅に下回る可能性があるというのだ。それによれば、民間在庫量は110万~130万トンと低水準となり、国内需要量の約2カ月分にとどまるという。つまり、今年も「コメ騒動」は続くことになる。
農家は減少し、減反も事実上続いている。なのに…
農家は減少し、減反も事実上続いている。にもかかわらず、政府は備蓄米の入札参加条件として、放出した分と同量を原則1年以内に買い戻すとした。買い戻すルールにしたがえば、再びコメ不足・価格高騰という事態を招くのは想像に難くない。江藤拓農林水産相は「今の段階では当初の期待された結果が出ていないことについては申し訳ないという気持ちを持っている」としているが、謝られたところで国民は事実上の増税にどれだけ耐えれば良いというのだろうか。
東京商工リサーチが5月11日発表したデータによれば、コメ価格高騰が倒産に変化を及ぼしているという。パン屋の倒産(負債1000万円以上)を見ると、2025年1―4月の累計は7件で前年同期の13件から半減している。背景には、コメに代わるものとしてパン需要が増加したことがあるという。家計防衛のためにはやむを得ないのだろうが、日本人が日本のコメから離れつつある事態は残念で仕方ない。
とても為政者とは思えない評論家のような石破首相
とはいえ、この国のトップは危機感に乏しいようだ。石破首相は5月11日のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」に出演し、「日本だけはコメ生産を減らしてきましたということは、本当に正しかったんですかということ。国内で高齢化が進んで人口が減っている。だから、コメの生産は減っても仕方ないんだという考え方をもう1回立ち止まって考えてみるべきなのではないか」と述べた。もちろん、持論があるにせよ、とても為政者とは思えない評論家のような発言だろう。政府は備蓄米を小売店に直接流す方法も検討するというが、国民はいつになれば1年前と同じ価格でコメが食べられるのか一刻も早く説明すべきだ。
大手スーパー「イオン」は5月13日、米カリフォルニア産のコメを6月6日から売り出すと発表した。4キロで2894円(税込み)といい、国内産よりも安価な米国産100%のコメを消費者が選択する可能性は広がる。あらゆる物価上昇が止まらず、政府が現金一律給付も消費税減税もやらない中、こうした民間事業者のスピード感を首相は見習うべきではないか。もはや「無策」と言える政権に、国民は「期待」を放棄したように映る。