岡本太郎の「太陽の塔」、重要文化財指定へ…元経済誌編集長「熱心に動いた公明党と蚊帳の外だった維新」

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 大阪・太陽の塔が重要文化財指定へーー。元経済誌編集長で作家の小倉健一氏の取材で分かったという。重要文化財指定に向けて誰が動いていたのか。小倉氏が詳報するーー。

目次

情報解禁とともに改めて注目が集まるのは確実

 太陽の塔が重要文化財に指定されることを、政府関係者が明かした。また筆者による文化庁への確認により、5月16日午後にも情報が解禁される予定であることが判明した。記者クラブ内ではすでに共有されており、大阪府担当者も同時刻の情報解禁を認めた。「太陽の塔」が情報解禁とともに改めて注目が集まるのは確実である。

 1970年に開催された日本万国博覧会のシンボルとして建設された太陽の塔は、半世紀以上を経た今もなお多くの来訪者を引きつけている。太陽の塔は、高さ約70メートル、基底部直径約20メートル、腕の長さは片側約25メートルに達する。デザインは芸術家岡本太郎が担当した。大阪万博全体の会場基本計画のチーフプランナーであった丹下健三は、太陽の塔が位置するお祭り広場の設計なども手掛けた。

 建築構造には、当時の先進技術が惜しみなく投入された。塔の胴体下部は鉄筋コンクリート造、リング部は鉄骨鉄筋コンクリート造、胴体上部と両腕は鉄骨造をベースに、表面にショットクリートを吹き付ける工法が採用された。このショットクリート工法は複雑な曲面を持つ造形を可能にするもので、1970年当時、国内の建築物で用いられることは稀であり、太陽の塔の先進性を示す技術の一つと言える。また、1960年代に実用化が進んでいた鋼管構造も積極的に用いられた。

 塔の内部には「生命の樹」と呼ばれる全高約41メートルの鉄骨構造体が設置されている。生物進化をテーマに、原生生物から人類に至るまで当時は292体の生物模型が取り付けられており、生命の進化の過程を表現した。生命の樹は、当時の展示技術と空間演出の常識を覆すほどの規模を誇り、構造物としての施工難度も極めて高かった。2016年から2018年にかけて実施された耐震改修工事を含む大規模改修工事では、老朽化した部分の補修と耐震強化が行われ、2018年3月に一般公開が再開された。

岡本太郎の独創的なデザインと、当時の最先端技術が融合した作品

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 太陽の塔は、1970年の日本万国博覧会における基本テーマ「人類の進歩と調和」を象徴する建造物として、岡本太郎の独創的なデザインと、当時の最先端技術が融合した作品である。

 会期終了後、万博会場の跡地利用については、開催以前から様々な議論が交わされていた。当初は都市機能を備えた複合施設としての利用が想定されていたが、博覧会開催中の大阪府議会での決議をきっかけに、跡地を公園として整備する方針へと転換した。太陽の塔も当初は解体される予定だったが、保存を求める国民の声の高まりを受け、大阪府は太陽の塔を万博のシンボルとして、公園整備計画の中心に据えることを決定した。

 保存決定を受け、塔の周辺は1972年3月15日に「日本万国博覧会記念公園」として開園した。公園整備事業は大阪府の管理のもと進められ、広大な敷地内には自然文化園、スポーツ施設、文化施設などが配置された。太陽の塔は公園の中心に位置づけられ、観光や教育目的で多くの人々が訪れる場となった。内部公開は長らく行われていなかったが、2018年の耐震改修工事完了とともに再開された。それによってよって多くの来場者を再び迎え入れるようになった。

 記念公園の整備にあたっては、1970年万博の建造物や記録資料を保存・活用する方向で調整が進められた。園内には「EXPO’70パビリオン」が設置され、当時の資料や映像などが展示されている。また、国立民族学博物館や大阪日本民芸館も敷地内に設けられ、文化的な連続性を保つ施設群として整備された。

 太陽の塔は、1970年の大阪万博を象徴する構造物として建設され、当初は仮設建築物に分類されていた。しかし、時を経て恒久施設としての評価が高まり、平成24年(2012年)には耐震改修工事に伴い、建築基準法上の建築物として正式に認定された。 

 今回の重要文化財指定は、保存行政における大きな転換点と言える。これまでの登録有形文化財から国の重要文化財へと格上げされ、国による保護対象としての法的枠組みが強化された。この指定により、構造保全や資料整備において国の支援を受けることが可能となり、維持管理の安定性が向上する。

重要文化財指定に向けた働きかけに熱心だった公明党

 太陽の塔は、建造から約55年を経た現在もなお、多様な側面から語るべき価値を持つ建造物である。経済成長期の象徴、空間構成の中核、保存技術の進展を示す建造物、公共施設としての利活用など、多様な視点が存在する。文化財指定はその多面性を法的に承認するものであり、今後も保存と活用の両立が求められていく。塔の構造は静止していても、社会との関係は常に更新されている。記憶と素材の両方を継承していくという観点からも、今後の動向に注目が集まる。

 太陽の塔の重要文化財指定に向けた働きかけは、以前から活発化していた。特に熱心だったのは公明党だ。府議団、国会議員が、大阪府、文化庁、内閣に対して重文指定を働きかけてきた。

政府関係者「維新は主導できず、ほとんど蚊帳の外」

 政府関係者は「今回の指定への動きについて、維新が主導できず、ほとんど蚊帳の外であったわけだが、見込みより大幅に来客数の少ない大阪万博や大阪活性化に向けた助け舟になるだろう」と指摘した。

 筆者が、文化庁に対して電話(5月15日)で「5月16日17時に太陽の塔が重要文化財に指定されるという情報が発出されるのか」と尋ねたところ、情報を否定せず、「情報についてはすでに文科省記者クラブでは共有されているところだ」と明かした。また、同日、大阪府に「太陽の塔が重要文化財に指定されることが17時に情報が解禁され、その後知事会見の流れで合ってますか」と問うと「合ってます」と回答があり、その後、記者に連絡が入り、「情報は解禁されるが、知事会見が行われるかはわからない。囲み会見でその話題が出るかもわからない」と情報の「修正」があった。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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