「台湾有事の可能性はかなり低い」が第二次トランプ政権の誕生によって中国側が「動かざるを得ない」状況はつくられ得る…想定できる泥沼シナリオとは

「台湾有事の可能性はかなり低い」と指摘するのは、中国事情に詳しい紀実作家・安田峰俊氏。しかし、第二次トランプ政権の誕生により、常識が通じない状況になりつつあると話す。日本を含む東アジアの情勢は今後どうなるのか――。みんかぶプレミアム特集「危機の時代を生き抜く」第3回。
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トランプ政権は東アジア最大の不確実要素
アメリカにおける第二次トランプ政権(以下、トランプ政権)の成立は、事前の予想を大きく上回る混乱を世界にもたらしている。とりわけアメリカの対中政策に話を絞っても、トランプ政権が始動してからの数ヶ月、その方針は急速な硬化と、一見それに矛盾するような融和演出とが混在している。だが、いずれも共通するのは、長期的な視野のある戦略よりも「政治的即応」が優先されているという点だ。これこそ、現在の東アジア情勢における最大の不確実要素になっていると言っていい。
トランプは政権成立前夜の1月17日、習近平との電話会談をいちはやく実現し、一定の融和姿勢を演出したように見えた。しかし、政権の蓋を開けると、中国との不毛な関税つり上げ合戦や、エヌビディア製の高性能AIチップ「H20」の対中輸出制限、対外投資の管理強化、さらには対中企業に関わる第三国の締め上げまでを視野に入れた厳しい対中姿勢を示しはじめた。米国議会では中国の最恵国待遇を取り消す動きも再び本格化しており、4月末時点でのアメリカの対中関税は145%。対して中国側も120%の対米関税を課する泥仕合となっている。
すくなくとも外部的に観察する限り、このようなトランプ政権の対中姿勢は、戦略的整合性に基づいているとはとても思えない。トランプ自身の気まぐれや、アメリカ国内の支持者向けのパフォーマンスによって、いかようにもエスカレートしたり軟化したりする懸念がある。国務長官に就任したマルコ・ルビオや、副大統領J.D.バンスらが主導する政策ラインも、強硬かつ構造的な対中圧力に満ちている。そして、こうした米側の動きに振り回されるかたちで、台湾をめぐる「有事的環境」が形成されていく。
台湾人にとっての「台湾有事」は日本人にとっての「首都直下地震」
ただし、実際のところ、私は従来から台湾有事の現実性についてはかなり否定的な立場だ。正確には、可能性として絶対にゼロであるとは断言できないものの、いまのところ台湾への旅行や留学や投資を手控えるほどの現実的危機として考える必要はない、という立場である。これは主に「有事」のメインプレイヤーである台湾や中国の社会情勢からの判断だ。