コメは買ったことある!小泉進次郎・次期農水相が語った大ウソ「消費税減税、時間がかかる」…経済誌元編集長「時間がかかるのは日本だけ。財務省の入れ知恵」

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 インフレ、増税、実質賃金の低下……日々の生活の中で経済の低迷を感じ取っている読者も多いだろう。物価は上がるが給与は伸びず、税と社会保険料の負担は重くなる一方。企業収益の伸びが報じられる裏で、可処分所得が目減りし、投資や消費に向かう余力は縮小している。いま、問われているのは「構造」そのものだ。

 そんな中で、コメ価格が高騰している中、自身は「コメを買ったことない」と発言しネットで炎上した江藤拓農林水産大臣が辞任に追い込まれた。後任として報道されているのは、江藤氏の発言について「国民の感覚からかけ離れている」と批判していた。ちなみにコメについては「もちろん買ったことあります」とその際回答していた。

 しかし小泉氏、農政とは直接的関係はないかもしれないが、今国民が強く求められている減税について「時間がかかる」などと否定的意見を持っている。経済誌『プレジデント』の元編集長で作家の小倉健一氏がこの問題を斬るーー。

目次

「国民から取る」ことが目的化した日本経済の迷走

 日本経済は、長年にわたり成長力を失い、社会全体が停滞と閉塞に覆われている。働いても報われず、物価は上がるのに賃金は追いつかず、かつて中間層と呼ばれた層は薄れ、生活に余裕のない層が増えている。若者も高齢者も、将来の見通しを持てずにいる。

 このような中で、日本の経済政策を実質的に統制してきたのが財務省である。財務省の目標は明確だ。国民からより多く税を取り、国家支出を正当化し続けること。それを忠実に代弁する自民党政権は、消費税の増税を正義と錯覚し、不要不急の事業に公金を流し込んできた。効果が見えない少子化対策、成果の出ない地方創生、建設費が膨れ上がる万博、学力水準の議論なき教育費無償化。どれもが成長につながるどころか、むしろ社会全体の効率と活力を奪っている。

 この構造を維持しようとするのが、政治家の小泉進次郎氏である。彼は、消費税減税が現実的でないと主張し、「システム改修に時間がかかる」と説明した上で、代わりに現金給付を提案した。年金生活者のような低所得者層に配慮する姿勢を見せているつもりなのだろうが、まるで中身のない優等生の答案である。根本的な政策判断を放棄したまま、耳障りの良い言葉でその場を取り繕う手法には、もはや人々の暮らしを背負う責任感も、経済構造への理解も感じられない。

減税が“できない国”という欺瞞――進次郎発言に見る現実逃避の構図

 小泉氏の「減税は時間がかかる」という発言は、世界の実例と照らし合わせれば、無知か欺瞞かのどちらかとしか評価できない。実際に、2020年にドイツは標準税率の引き下げを6月3日に発表し、わずか28日後の7月1日に施行した。イギリスは7月8日の発表から7日後に、アイルランドは5週間後に、実行した。フランスでは医療物資に対する軽減税率が法案成立前に遡及適用された。開発途上国のケニアですら、発表から7日で全国的な減税を実現している。いずれの国も、政治的決断さえあれば、全国規模の減税も可能であることを証明している。

 小泉氏の言葉が真実だとすれば、欧州もアフリカも日本より技術水準が高く、事務処理能力も優れているということになる。それが事実でないなら、小泉氏の発言は、国民に対する不誠実な逃避であり、財務省の顔色を窺う者にありがちな責任回避である。演説口調の巧さではごまかせない。政治に必要なのは、人々の暮らしを直視する覚悟と、構造を変える判断力である。減税が即効性を持つという事実から目を背け、実行可能性を嘘で覆い隠すような人物に、国家の経済政策を語る資格はない。

「減税すれば円安」は本当か?小野寺発言に見る財政論のご都合主義

 もう一人、自民党の小野寺五典政調会長は、物価高対策としての消費税減税に強く反対し、「消費税をやめれば円安になり、モノの値段が上がる」と述べた。さらに、赤字国債を財源とする物価高対策は円の信認を損ない、円安と物価高をむしろ助長すると語った。この主張は、表面だけを取り繕った一種の恫喝に近く、理論的な整合性を欠いている。

 増税によって通貨の信頼を守れるという発想は、国民生活に痛みを強いる一方で、成長の芽を摘み取ることにもなりかねない。財政規律が重要であることに異論はない。将来世代の負担を見据え、無制限な放漫財政に歯止めをかけるという視点は必要である。ただし、成長を犠牲にしてまで維持する増税が、果たして国を強くする道なのかは、冷静に問い直されるべきである。

 通貨の信認は、単なる収支の形式ではなく、国家経済の実力、すなわち成長力によって裏付けられる。税収の源泉は経済であり、成長のないところに安定的な税財源は存在しない。経済全体が縮小し、活力を失えば、いくら増税してもその土台は崩れる。

英国に見る「補助金依存国家」の失速と教訓

 成長を削ってまで数字を整えるような政策は、持続可能性を取り違えた自己目的化した増税であり、健全とはいえない。

 この点については、英国経済の失敗例を冷徹に分析した研究が示唆的である。ニコラス・クラフトが2000年に発表した論文『供給側政策と英国経済の相対的衰退』では、戦後の英国が産業補助金や内向きの公共投資に依存し、民間の活力を損なった経緯が詳細に描かれている。政府は「雇用の維持」「国内産業の保護」という名目で巨額の歳出を続けたが、結果として民間部門の競争力は衰え、生産性は低下し、経済成長率は西欧諸国の中でも最低水準にまで落ち込んだ。 

必要なのは“税”ではなく“力”──成長を導く供給力の再建

 クラフト氏は、英国の相対的地位低下の核心に「高税率・高支出・規制依存型の財政構造が、経済の柔軟性と革新力を削いだ」ことを指摘する。これは日本にも通じる警告である。数字合わせの財政運営は一見堅実に見えるが、成長の欠如はやがて税収をも蝕み、財政健全化そのものを不可能にする。高負担・低成長という悪循環が、経済そのものの信認を崩し、通貨の価値すらも危うくする。

 小野寺氏が唱える「増税こそ円の信頼を守る」という論理は、この歴史的失敗の焼き直しに過ぎない。数字のバランスを守ったつもりでも、実態の国力が損なわれれば、結果としてその数字に意味はなくなる。円の信認を守る唯一の方法は、経済の潜在力を高め、成長を維持することに他ならない。

 日本経済を再生させるために必要なのは、成長の芽を摘む増税ではなく、経済全体の「供給力」を根本から強化することである。企業や個人が自由に活動し、新しい価値を生み出す力を取り戻すための政策が求められている。これは「包括的なサプライサイド経済政策」として知られ、税制改革、規制緩和、歳出の見直しなどを通じて、生産や投資を促進し、経済の基盤を広げていく取り組みである。

 消費税の減税や撤廃は、こうした政策の中核を成すことができる。国民の手取りを増やせば消費活動が活性化し、企業のコスト負担を軽減すれば供給側の活力が高まる。価格体系の見直しは、耐久財や高付加価値商品の購入を促し、需要の底上げと同時に供給の拡大を誘発する。負担の軽減は、家計と企業の両方に将来への見通しをもたらす。成長の前提を整えるのが、減税の持つ構造的な意義である。

税率が低い国ほど伸びる──マースデン論文が示した真実

 こうした経済構造への影響は、実証研究によって明確に確認されている。少し古い研究になるが、ケネス・マースデンが1983年に発表した論文『税制と経済成長の関係:実証的分析』では、複数の国の経済データをもとに、税率と経済成長率の関係を数量的に検証した。同氏は、税率が低い国ほど投資の拡大が早く、雇用と労働生産性が改善し、結果的にGDPの伸び率が高くなることを明らかにした。逆に、税率の高い国では、企業の収益性が圧迫され、生産性向上への意欲が減退し、投資の縮小と成長率の鈍化が観察された。

 マースデン氏は、税制が経済活動に与える影響を「短期的な需要刺激ではなく、供給構造を通じた長期的な成長のカギ」と位置づけた。とりわけ法人税や消費課税といった、生産や消費に直接的に関わる税が、経済活動のインセンティブに与える影響は大きく、税率を下げることで民間部門の活力が回復し、結果として税収の土台が強くなるという因果を示した。この傾向は現在でも変わっていないことが、他の実証データが示している。日本が今必要としているのは、まさにこの「土台」を再構築する政策なのである。

 供給側の力を引き出すためには、国民から余計な負担を取り除き、自由に経済活動を行える環境を整える必要がある。消費税の減税はその第一歩になりうる。減税が価格を変え、意欲を変え、構造を変える。家計も企業も、将来への不安が薄れれば、新しい挑戦を始めることができる。成長の基盤をつくることで、分配の原資もまた自然と生まれる。拡大した経済からこそ、持続可能な社会保障や財政再建も可能となる。

 成長を生み出す構造をつくること、それが今、日本経済にとって必要不可欠な再設計である。増税による衰退ではなく、成長による持続可能性こそが、国家を守る本筋である。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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