「もはや神」「次の総理決定」小泉大臣、北海道でも米「2000円台、出てきた」SNS投稿!筆者に寄せられた「批判してた愚民は頭を下げろ」という誹謗

政治家の人気は、時に国民生活に直結する課題への迅速な対応で決まる。小泉進次郎農水大臣が打ち出したコメ価格引き下げ政策は、国民の熱狂的な支持を集め、次期総理大臣への道を切り開くかのように見える。小泉大臣も本人は5月25日、「北海道の備蓄米。最近こうやって知り合いが日本各地のコメ価格を教えてくれます。2000円台、出てきた。北海道の自民党の議員の協力に感謝」と写真とともにSNSに投稿し、早速話題を集めている。しかし、元経済誌プレジデント編集長で作家の小倉健一は、その熱狂の裏に潜むリスクと、市場原理を無視した政策介入が長期的に日本の農業にもたらす影響を深く憂慮する。一見すると国民を救う英雄のようだが、その政策は本当に日本の食卓を守るのか、それとも「亡国の道」へと繋がるのか。その真価を問うーー。
目次
6月上旬にもこの2000円台の備蓄米が店頭に並ぶ見込みだという
江藤拓前農林水産大臣が国民の耳目を疑わせる発言の責任を取り辞任したあとを受け、小泉進次郎氏が新しく農林水産大臣の座に就いた。コメ価格高騰という国民生活に直結する喫緊の課題を前に、進次郎農水大臣がどのような手腕を見せるのか、注目が集まっている。前任者の失言による突然の交代劇であったものの、待ったなしで政策判断を下さねばならない状況であった。
進次郎農水大臣は就任後間もなく、政府備蓄米の放出方法に大きな変更を加えることを発表した。これまでは全国農業協同組合連合会などの集荷業者に対し競争入札で売り渡していた方式を取りやめ、スーパーなどの大手小売業者を国が任意に選び直接売り渡す随意契約という新しい仕組みを導入するという決定であった。この新しい方式では、放出量は当面30万トンとし、需要に応じて追加放出も検討するという。放出されるのは令和3年(2021年)産と4年(2022年)産米のあわせて30万トンである。農水省は、ことし8月末までに消費者に販売される分を対象に、毎日先着順で申請を受け付け、契約・販売を行うとしている。
この新しい方式の最大の狙いは、これまでの競争入札では備蓄米が適切に流通しきらず価格高騰の抑制に繋がらなかったという反省に基づき、流通を一層迅速化することにある。農水省は、平均でこれまでの平均落札価格のほぼ半額である60キロあたり消費税込み1万1556円(5キロあたり約963円)で大手小売業者に直接売り渡す計画である。これにより、一般的な流通経費が上乗せされても、店頭での販売価格は5キロあたり税抜きで2000円程度、税込みで2160円程度に抑えられると農水省は試算している。早ければ6月上旬にもこの価格帯の備蓄米が店頭に並ぶ見込みだという。
「2週間でできたら神の世界」「次の総理決定」
小泉農水大臣は、新しい備蓄米放出について「一層のスピード感と危機感で国民の皆さんの不安を払拭する」と述べ、また「これまでと同じやり方では国民の皆様の期待に応えられない」「早く、安定した価格を実現し、これ以上のコメ離れを防ぐ」とその決意を語っている。省内にはコメの価格高騰に対応する新しいチームも立ち上げられ、事務次官をトップとするおよそ500人体制でこの課題に取り組むという。
このような迅速かつ大胆とも見える進次郎農水大臣の対応は、国民の間で価格高騰に苦しむ現状への打開策として大きな期待を集めている。有名スーパーのスーパーアキダイ社長はテレビ番組の中で、小泉大臣が早ければ6月頭に備蓄米を2000円台で店頭に並べたいと話したことについて、現場の感覚からすれば「2週間でできたら神の世界」「次の総理決定」とまで述べた。
現在の店頭価格が5キロあたり4000円を超える状況であることからすれば、わずか2週間で価格を半額近くまで引き下げるという目標がいかに驚異的であるか、現場の専門家が驚きをもって語っていることが伝わる。これは、単なる一閣僚の政策実現への期待を超え、進次郎氏が国民の生活に直結する困難な課題を短期間で解決し、その政治手腕を証明すれば、次期総理大臣への道が大きく開かれるであろうという観測と結びついている。
「全部進次郎のおかげであり、これまで価格高騰の原因を批判していた奴は頭を下げろ、誰のおかげで安いお米が食えると思っているのか、愚民め」
もし、この目標が達成され、本当に6月上旬に5キロ2000円台の備蓄米が全国の大手スーパーの店頭に並ぶような事態となれば、国民の進次郎農水大臣に対する評価は一気に高まるだろう。「スーパーアキダイの秋葉社長の言葉を信じるなら、お米が安くなるのは全部進次郎のおかげであり、これまで価格高騰の原因を批判していた奴は頭を下げろ、誰のおかげで安いお米が食えると思っているのか、愚民め!」とばかりに、進次郎氏を熱狂的に支持する人々から、そのようなメッセージを、筆者は今日、受けた。今後、進次郎大臣を救国の英雄として称える人もきっと多く現れるに違いない。
国民の切実な願いである「安いコメ」の実現を成し遂げた政治家は、世論から熱烈な支持をもって迎えられるだろう。国民の不満を速やかに解消した実績は、今後の政治キャリアにおいて強力な武器となる。進次郎農水大臣は今、その期待を一身に集め、ヒーローへと祭り上げられようとしている。
市場の原理から離れた、政治的な意図をもって行われる価格への直接的な介入
しかし、本当に話はそれほど単純なのだろうか。市場の原理から離れた、政治的な意図をもって行われる価格への直接的な介入に対しては、冷静かつ批判的な視線を送る必要がある。見かけ上の価格引き下げが、長期的に見て日本の農業やコメ市場に歪みをもたらさないと言えるのだろうか。進次郎農水大臣の手腕が、一時的な喝采を浴びるだけのパフォーマンスに終わらず、日本の農政を改革する突破口となるのかどうか、その道のりには多くの困難と不確実性が潜んでいる。
特に、市場原理を無視した政策介入は、これまで日本の農業が抱えてきた構造的な問題、すなわち補助金や関税といった非競争的な手段による過保護がもたらした弊害をさらに深刻化させる恐れがある。市場の自由な競争が農業の成長と効率性を高めるという国際的な実証データに基づいた研究の知見に反する政策は、結局「亡国の道」へと繋がるのではないかという懸念が拭えない。
小泉農水大臣が打ち出した備蓄米の随意契約による大手小売業者への直接売却、そして5キロ2000円台という具体的な小売価格目標の設定は、市場の自由な価格形成メカニズムから大きく逸脱する行政の介入である。
備蓄制度の趣旨に反する恣意的かつ脱法的な介入
ジャーナリストの浅川芳裕氏は自身の論考の中で、小泉農水大臣による備蓄米の価格指定について、法的側面から厳しく論じている。
<小泉農相による「コメ5kg2000円指定」は、備蓄米の根拠法令「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の制度趣旨を逸脱したものである。同法では、政府備蓄の目的を「米の供給が不足する事態に備えること」と明確に限定しており、政治的な価格操作は、定義上も制度設計上も想定されていない。にもかかわらず、今回の価格指定は、備蓄制度の趣旨に反する恣意的かつ脱法的な介入であり、行政の裁量権を著しく逸脱する行為に他ならない。これは、法的にも看過できない重大な問題をはらんでいる。このような制度の逸脱に対して、コメ農家が受ける損失は無視できず、ただちに価格指定の撤回を求めるとともに、必要に応じて法的手段によって是正を図るべき局面に入っている>(NOTE『小泉農相の備蓄米2000円指定―法の枠を超えた価格介入、コメ農家は撤回と是正を求めるべき』5月24日)
本当に市場価格全体が下がるかどうかも不確実
そもそも、備蓄米放出によって本当に市場価格全体が下がるかどうかも不確実である。現在の価格高騰の最も大きな原因は、農水省自身の資料が示すように、民間在庫が過去最低水準に落ち込み、市場の供給量が不足していることにある。しかし、農水省の作況指数には品質低下が十分に反映されず、供給量が過大に評価されてきたという批判もある。正確な供給不足量が把握できていない状況で、備蓄米放出が不足分を完全に補い、市場価格を目標水準まで押し下げるかどうかは未知数である。
放出される備蓄米自体の品質も懸念される点である。備蓄米は必ずしも一般の店頭に並ぶブランド米と同等の品質ではないことが知られている(過去の言及参照)。消費者が低価格であってもその品質に満足せず、購入をためらう可能性もゼロではない。また、放出された備蓄米が迅速かつ円滑に市場全体に行き渡るかという流通の課題も残っている。山下氏の記事が農水省の流通に関する説明を批判しているように、現在の民間流通に何らかの課題が存在する可能性がある。農水省の資料も、在庫減少の主な要因として集荷量の減少を挙げており、これは民間流通の根幹に課題がある可能性を示唆する。仮に十分な量の備蓄米が放出されても、これらの流通の課題が解決されないままでは、効果が限定される恐れがある。
小泉進次郎農水大臣の手腕が、一時的な国民の喝采を浴びるための派手なパフォーマンスに終わるのか、それとも市場の原理を無視した介入が、結果として市場を混乱させ日本の農業をさらに弱体化させる「亡国の道」へとつながるのか。その道のりは不確実性に満ちており、その結果は、進次郎大臣個人の政治的キャリアだけでなく、日本の食卓と農業の未来に重くのしかかる。天才総理誕生か、亡国への一歩か、その真価が問われるのはこれからである。