コメの流通経路「際立って前時代的」とドンキ社長が情熱的にブチぎれた!…衝撃的意見書、令和コメ騒動は誰のせいなのか

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 コメの価格高騰や複雑な流通経路の顕在化に伴い「JA悪玉論」がにわかに高まっている。JAなどの集荷業者から「5次問屋」までを経て小売業者、消費者と流れる過程は“ブラックボックス”と映り、安定したコメ価格やスピード感のある対応の障害になっているのではないかというものだ。経済アナリストの佐藤健太氏は「流通は多重構造でスピード対応が難しく、問屋ごとの中間マージンが価格高騰につながっている点は否めない。ただ、最大の問題はJAではない」と断言する。はたして、農協改革に意欲を示す小泉進次郎農林水産相の「真の敵」は何なのか―。

目次

あまりに衝撃的…ドンキの情熱的な「意見書」

「米は、生鮮食品でありながら、加工して製品化した状態でしか買えない。まず、米の集荷役であるJAから一次問屋に米が卸される。流通の自由化というものの、集荷役のJAと取引している一次問屋は、実質的に特約店のように決定しているため、新規参入が難しい」

「二次問屋、三次問屋については、参入障壁が著しく低い。実際、ブローカーなど、利益目的だけの業者が横行し、当然、利益のみの目的のため、今回のような需給のバランスが崩れたときには、流通に協力するのではなく、利益を優先させるため、供給を抑える原因の一つになっていると考えられる」

「また、『銘柄米』と銘打っている米の中には、等級の異なる米が混ぜて売られていることも多い。最終顧客である消費者には、その中身がわからず、銘柄の情報のみで購入の決定を行わざるをえない。このため、同じ銘柄米であっても、値段が極端に異なることがあり、一層不透明な米流通になっている」

 日経新聞は5月29日、衝撃的とも言える「意見書」の全文を配信した。ディスカウント店「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が5月28日、吉田直樹社長の名義で提出した小泉農水相宛ての意見書だという。

 それによれば、PPIHは課題として①参入障壁が高い一時問屋の構造②参入障壁が低い二次問屋以降と生産者直接取引③銘柄米の銘柄名におけるルールの消費者認知の低さ―の3点をあげた上で、解決策を提案している。詳しく読むと、PPIHは「集荷役のJAと取引している一次問屋は、実質的に特約店のように決定しているため、新規参入が難しい。また、五次問屋なども存在する多重構造によって、中間コストに加え、マージンがそれぞれに発生することが、最終的な小売りの仕入原価に反映されることになる」と指摘している。

「5次問屋」まで介在していることを問題視

その上で「インフレ下と供給が不十分な状況下では、各問屋のコストと、限られた流通量で収益を確保するためのマージンの両方が仕入原価に上乗せされるのに加えて、市場競争が生まれない卸構造が、結果として仕入価格、および販売価格が高騰する要因となっている」と説明。解決策として「多重構造を解消し、集荷役であるJAなどと卸売価格の取引が直接できるようにすること、また小売りから、店頭までの流通を担う二次問屋、及び三次問屋へ依頼をかけるような取引形態にすることで、中間コストとマージン分の仕入原価、販売価格の低下に繋げることができるとともに、米自体の価格(JAなどからの卸価格)と中間コストが分離して可視化できるため、適切な競争原理と小売り、問屋の努力義務が付帯され、過度な仕入原価、販売価格への転嫁が抑制できると考える」と導きだしている。

 言うまでもなく、我が国の経済は「自由」を基本とする。ただ、参入プレイヤーが多ければ多いほど中間マージンは当然多く生じる。コメの流通過程においては、生産者からJAなどの集荷業者が集め、それが卸売業者から小売業者を通じて消費者に届くのが一般的だ。しかし、PPIHはそこに「5次問屋」まで介在していることを問題視しているのだ。

 吉田社長は6月1日に記者団の取材に「魚や野菜など、ほかの食品と比べても、コメの流通経路は際立って前時代的だ」とも批判している。

「JA悪玉論」「不要論」がにわかに高まる

 小泉農水相も6月5日の衆院農林水産委員会で、コメの流通に関し「小売側からも『他の食料品に比べてコメの流通は極めて複雑怪奇、ブラックボックス』だと指摘が寄せられている」と説明。「社名は言わないが、ある大手卸の売上高は対前年比120%、営業利益は対前年比500%、他の大手卸の営業利益も250%を超えている」と延べ、流通過程を“可視化”させることに強い意欲を示した。

 ドンキ社長の“暴露”と小泉農水相の動きは、たしかにコメの流通過程にある「ブラックボックス」の解明につながるだろう。ネット上には「JA悪玉論」「不要論」がにわかに高まり、農水相の父親である小泉純一郎元首相が郵政改革に挑んだ「小泉劇場第2章」に期待する向きもある。ただ、小泉ジュニアが“抵抗勢力”に位置づけるJAだけを批判するのは、もう少し冷静に見る必要があるだろう。

 「真の敵」に迫る前に、そもそもJAの存在意義に触れておきたい。

そもそもJAは全生産量の3割弱しか集荷していない

 まず、JAとは「農業協同組合」の英語表記である「Japan Agricultural Cooperatives」の略で、生産者の営農と生活を守るためにつくられた協同組合である。生産者(組合員)の資材共同購入や収穫物の共同出荷・販売、JAバンクといった金融業務、生活資金貸し付けなど様々な事業を展開している。JAは地域ごとに存在しており、都道府県、全国を事業区域とする組織を形成する。その意味では、生産者が「脱JA」で自由に販売することは可能であるものの、安定した販路の確保や価格交渉力、資金調達といった観点から容易ではないのも事実だ。

 2024年時点の基幹的農業従事者(農業が主な仕事の人)は約111万人で、年々減少してきた。農産物の付加価値向上や商品開発をにらめばJAに頼る生産者は少なくない。つまり、いまだJAは多くの生産者にとって重要な存在と言えるのだ。

 そもそもJAは全生産量の3割弱しか集荷していない。たしかにJAなどの集荷業者から小売業者までの流通過程で「問屋」が複数介在し、その結果として価格高騰につながっている可能性はある。「1次問屋」の参入ハードルの高さも改めて検証する必要があるだろう。

JAも国も時代に追いついていない

 だが、先に触れたとおり生産者にはJA以外、すなわち飲食チェーンなどに直接販売するケースがある。このJA以外に「高値で売る」ケースは国も調査できておらず、ブローカーによる転売や流通の目詰まりにつながっている可能性があるのだ。もちろん、生産者としては、少しでも高く買い取ってくれる事業者を商売相手とするのは当然の流れだろう。その意味ではJAも国も時代に追いついていないことを意味する。

 JA全中(全国農業協同組合連合会)の山野徹会長は6月5日の記者会見で「JAグループは多くの消費者に国産のお米をおいしく召し上がっていただきたいと考えており、消費者が購入される販売価格の高騰を望んでいるわけではありません」と説明している。そして、「一方、米生産に必要な肥料・燃料などの資材は、この数年間で高騰・高止まりしており、コストの増加分を販売価格へ反映していかなければ、持続可能な生産は実現できないとの不安の声が、全国の生産者から届いています」と苦しい胸の内を明かした。

小泉農水相が突破すべき「真の敵」とは何なのか

 断っておくが、筆者はJAに何の関係も義理もない。ましてや生産者ではなく、単なる消費者の1人にすぎない。一部には農業の高コスト体質はJAが原因との指摘もあるが、少なくともコメ価格の高騰だけを見れば「JA悪玉論」に乗ることはできない。

 6月5日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」で、元JA全中常務理事は「農協は中間マージンをできるだけ省略しようという考えが組織の目的。生産者からは高く買って、消費者には安く提供する」「余計なマージンをとっているとか、ため込んでいるとかいうことは全然ない」と説明。そして、「合理化はしないといけないと思うが、(問屋が)何次であろうとも、そこには存在する理由がある。小分けや精米、包装などの役割分担がある」と述べている。生産者に販売する高い資材などには課題点があるにしても、それが「令和のコメ騒動」の要因とは言えないだろう。

 では、小泉農水相が突破すべき「真の敵」とは何なのか。結論を先に言えば、根本的な原因は「自分自身」である。つまり、農水省による事実上の減反政策とコメ不足に対する認識だ。潜在的な生産能力から見た場合、国は明らかに生産量を抑制してきた。その結果、そもそもコメの不足が生じる構造となっているのだ。

備蓄米放出をいくらしたところで終わらない

 1993年の「平成のコメ騒動」を思い出して頂きたい。冷夏が原因とされたが、減反で生産量が減らされた上、生産は戦後最低の水準にまで落ち込んだ。この年の収穫量は約780万トンで前年比74%である。時代は令和に変わったものの、政府にはコメがそもそも足りていないという認識が不足している。市場の動きを考えれば、不足すれば価格が高騰するのは常だ。今回、小泉農水相が売り出し中の備蓄米についても、政府が溜め込むことで価格維持を優先してきた可能性があるだろう。

 政府は昨年夏の時点で約40万トンのコメ不足に対応するため、2024年産米を「先食い」することにした。言うまでもなく「先食い」は、自転車操業状態を意味する。よほどのことがない限り今年夏以降のコメ不足も懸念されるところだ。つまり、「令和のコメ騒動」は備蓄米放出をいくらしたところで終わらないことを意味する。

小泉農水相がぶっ壊すべきは「従来の農政」

 くどいようだが、コメ価格高騰の「真の敵」はこれまでの国の方針であり、小泉農水相がぶっ壊すべきは「従来の農政」ということになる。小泉農水相はコメの緊急輸入という選択肢を排除しない意向を示しているが、そもそも日本が誇るコメは「輸出」も増やしていくべきものだ。今回のように国内でコメ不足が生じれば、輸出量を調整するだけでスムーズに対応できる。

 農業専門日刊紙である日本農業新聞は2月14日、衝撃的な試算を公表した。今年6月末時点のコメの民間在庫量は農水省が示す158万トンを大幅に下回る可能性があるというのだ。それによれば、民間在庫量は110万~130万トンと低水準となり、国内需要量の約2カ月分にとどまるという。つまり、今年も「コメ騒動」は続くことになる。

 繰り返すが、小泉農水相が挑むべきは農水省を中心とする「国の農政」そのものである。連日のようにワイドショーに登場しながら、コメ価格抑制に向けた動きを加速させているのは良いとしても、「JA=既得権益」と位置づけるパフォーマンスに終われば何も問題は解決しない。はたして、小泉農水相は“本丸”にどこまで切り込むつもりがあるのだろうか。かつて頓挫した農協改革の、二の”米”とならないことを祈りたい。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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