小泉大臣 JA重鎮「突然宇宙から来て農協潰すつもりか」面会要求に「モノ申したい全国の組合長、会いましょう」…経済アナリスト「改革方向性、貫徹力に疑問」

低空飛行が続く石破茂政権で「コメ担当大臣」としてメディアの注目を集める小泉進次郎農林水産相は“本物”なのか。「コメ2000円台」発言や卸売業者の「異常な利益」と受け取れるような発言で物議を醸したかと思ったら、今度はJA(農業協同組合)を“仮想敵”として照準をあてる。その姿は、かつて郵政改革こそが「改革の本丸」と位置付けた父親の小泉純一郎元首相とソックリだ。ただ、経済アナリストの佐藤健太氏は「改革の方向性も貫徹力も疑わしい」と疑問視する。はたして、小泉ジュニアの改革は“本物”なのか、それとも―。
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小泉劇場「やはり、こうなるのか…」
やはり、こうなるのかと思った人は多かったに違いない。5月21日に農水相に就いた小泉氏はコメ価格高騰に対応するため、政府の備蓄米放出で随意契約などによる価格抑制策を打ち出すなど注目を集めた。たしかに備蓄米は2000円台で販売され、その一挙手一投足をマスメディアは連日取り上げる。小泉農水相の就任後はコメ不足がウソだったかのようにスーパーやコンビニなどで「コメあまり現象」が見られた。ガラガラだったはずの棚にコメ袋が山積みになり、長らく続いたコメ不足は解消に向かったのだ。
すわ、「スター」誕生か。メディアから大量に流される“小泉劇場”に驚いた人は少なくないだろう。だが、残念ながら「やっぱり」なのである。小泉農水相は就任から一夜明けた5月22日に長野県でコメ価格が「5キロ、2000円台に下がった」と備蓄米の放出効果を誇らしげに語っている。だが、長野県の信濃毎日新聞デジタルが5月266日配信した記事によれば、店頭に並んでいたのは「国内産ブレンド米」として税抜き2990円で販売された商品で、税込みは3000円超だった。記事では「信濃毎日新聞記者が22日に長野市内のスーパーで確認したところ、備蓄米5キロの税込み価格は3500円余」「県内の卸業者によると、取引のあるスーパーでの店頭価格は通常の国産米5キロが3000円半ばから4000円前半といい、『県内で税込み2000円台で販売している店はまずない』」と記されている。
これくらいは「愛嬌」、と思うかもしれない。では、次はどうか。小泉農水相は6月5日の衆院農林水産委員会で以下のように述べた。
小泉大臣の言いたい放題に怒る人々
「社名は言いませんが、コメの卸売大手の売上高や営業利益を見ますと、営業利益はなんと前年比で500%くらいです」と発言。流通の透明化を確保するとし、「コメの流通は他の食品と比べても極めて複雑怪奇。『ブラックボックスがある』という指摘が寄せられている」
これに対して、大手コメ卸の木徳神糧は6月11日、社長名義の声明を公表し「弊社が市場価格を釣り上げたり、買い占めや出し惜しみによって流通を阻害したりといった事実は一切ない」と説明している。なぜ小泉農水相が「異常な利益」と受け取れるような発言をする必要があったのか疑問視する向きは少なくない。
そして、次に飛び出したのが「コンバイン」発言だ。6月17日に経団連の筒井義信会長らと会談した小泉農水相は記者団にこのように語った。「コメ農家は2000万円のコンバインを1年のうち1カ月しか使わないんですよね。だとしたら、普通買いますか?」
「それだったら買うのではなくてレンタルやリース、こういったことがサービスとして当たり前の農業界に変えていかなければいけない」。そして翌18日にはテレビ番組で「農家の負担を下げるために何ができるかをJAと考えていきたい」として農機を農家に販売しているJAに矛先を向けている。言わんとしているところは分からないでもないが、「JA・卸売業者=悪玉」と錯覚させるようなスケープゴート化には疑問符を付けざるを得ない。
さすがに、いきなりバトルを挑まれた形のJAには戸惑いや怒りを隠せない。
農家からは不安の声「いつ」「いくら」
小泉氏は6月20日、JAグループ幹部と会談し、JAがコメを集荷する際に農家に代金を仮払いする「概算金」の廃止を求めた。JA全中の山野徹会長は「農家の所得向上に結び付くよう各地のJAが最終的には判断すると思う。1つの手法としてはアリだと思う」と述べたが、内心は穏やかではなかったはずだ。
なぜならば、概算金は事実上の「最低価格保証」という一面がある。たしかに概算金が廃止されれば販売委託手数料をJAに払わずに済む農家は収入が増える可能性もある。だが、概算金の仕組みが見直されれば農家は一体、「いつ」「いくら」受け取ることができるのか不安の声が尽きない。小泉農水相は前日の6月19日には、JA全中が東京・大手町に構えるビルについて「農家で東京のど真ん中に農協がビルを持っていることを求めている人はいない」とも述べ、“圧力”を止めない。
コメの平均価格、値下がりは5週連続
6月16~22日までに販売されたコメの平均価格は5キロあたり3801円で、前週から119円値下がりした。値下がりは5週連続だ。小泉農水相が主導する随意契約の備蓄米販売が進んだことが影響しているのは間違いない。小泉氏は6月30日放送の関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」で、「政策効果が発揮できているし、結果が出ていると思っている」と誇る。
ただ、JA福井県中央会の宮田幸一会長は6月27日の記者会見で、概算金について「コメの価格決定に重要な役割を果たしてきた。概算金をなくしてしまうと相場観がバラバラになってしまう」と説明。「農家を不安にさせている」「消費者ばかりでなく生産者のことも考えてほしい」と述べ、「農家のみなさん、全部廃業ですわ。今の価格でいったら」も批判した。
他のJA関係者も小泉農水相に怒り心頭だ。JA秋田中央会の小松忠彦会長は「安けりゃいいでは、(農家が)いなくなる」と不満をあらわに。6月30日放送の関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」にVTR出演したJA直鞍の堀勝彦組合長も「ある日、突然宇宙からポンと来て、農協改革という取り組みはいかがなものか。今の農家の気持ちを全然分かってない。消費者の価格の問題だけしか。改革ではなく、農協を潰すのか。(小泉氏と)1回会いたい」と直接対決まで挑む事態に発展している。
小泉大臣「(JAを)潰そうとしていることはない」
だが、小泉氏は「私が(JAを)潰そうとしていることはない。付加価値がつく市場を開拓し、手取りを上げられれば農家から必要とされる」と突き放し、農家からJAが選ばれるようになることが重要だとしている。もはや「JAは抵抗勢力」と位置付けている発言のように感じてしまう。また、「私に対して物申したいという組合長さん、全国にいらっしゃる。是非、お会いをさせていただきたい」とも語った。
誤解を恐れずに言えば、小泉氏が改革とする現在の方向性には一定の理解もできる。しかし、昨年からのコメ不足やコメ価格高騰の原因はJAにあるわけではない。最大の要因は、政府が事実上の減反(生産調整)で需給をタイトにし続けてきたことだ。その反省を詫びるわけでもなく、「JA=悪玉」と印象付けるかのような言動には首をかしげたくなってしまう。
小泉氏の改革は「貫徹」できないという見立て
石破首相は7月1日、「2025年産から増産を進める。意欲のある生産者の所得が確保され、不安なく増産に取り組めるよう新たな政策に転換する」と表明した。コメの増産が進めば価格が下がっていくのは当然だ。備蓄米の放出が遅すぎたように、今回の判断もあまりに遅いと言わざるを得ない。
とはいえ、生産者は価格が落ち込んだ際にどうすれば良いのか十分に検討する必要があるだろう。供給力を求めるあまり、価格が下がりすぎれば生産者には打撃となる。その際のパッケージも政府として責任を持たなければならない。小泉氏や石破首相の方針転換には持続可能な農業に対して責任がつきまとう。
もっとも、筆者は小泉氏の改革は「貫徹」できないと見ている。その理由は、今回は参院選前に「高い花火」をぶち上げる必要があったため、自民党内の農水族などから批判が巻き起こらなかったものの、選挙後は不透明感が漂うからだ。参院選の結果、与党の獲得議席次第では農水相としての存在感を発揮できなくなる可能性もある。打ち上げられた「花火」がひらくかどうかは、まだまだわからない。