“減税は無意味”竹中平蔵氏があっさり断言するワケ「低所得者はそもそも税金を払っていない」

石破茂政権の2万円給付案を「目的がわからない究極の手抜き」とバッサリ斬るのは、かつて小泉純一郎政権で構造改革を断行した経済学者・竹中平蔵氏だ。なぜ日本は何十年も成長できず、おかしな政策ばかりが続くのか? 竹中氏と『令和の虎』2代目主宰の林尚弘氏が、日本の未来をめぐり本音トークを炸裂させた。短期連載全4回の第1回。(対談日:6月24日)
目次
大学受験失敗→年商100億円に『令和の虎』林尚弘氏の一発逆転人生
――本日はお二人のゲストに来ていただきました。経済学者の竹中平蔵さん、そして『令和の虎』2代目主宰の林尚弘さんです。本日はありがとうございます。
竹中平蔵(以下「竹中」): よろしくお願いします。
林尚弘(以下「林」): よろしくお願いします。嬉しい、こんな機会をいただいて。
――林さんは元々、東京の至る所にある武田塾の運営母体の元代表取締役社長でいらっしゃいますね。
林: はい。大学受験に失敗しまして、塾が悪いんじゃないかと思って大学生のときに塾を作りました。20歳から28歳まで直営で頑張ったんですけど、年商1億円しか行かなかったのが、28歳のときにフランチャイズ化しましたら、うっかり流行っちゃいまして。28歳から36歳までの同じ8年間で年商100億円まで行っちゃいました。
竹中平蔵氏、まさかの『令和の虎』出演に意欲?「呼んでください」
竹中: すごいね。
林: 全国400校舎、今は年商140億ぐらいあるんですかね。ですが、3年前に賭けポーカーをしているのがSNSでバレまして。通ってる塾の社長が賭けポーカーしてたのは萎えるかなと思ったのと、僕も塾ってキャラじゃなかったんで、スパッと辞めました。今はフランチャイズのお手伝いをする会社や、『令和の虎』など、色々やらせてもらってます。
――『令和の虎』では、やはり一番お金を出している人というイメージです。
林: 3億、4億積んだんじゃないでしょうか。全然返ってきません。
――竹中先生は『令和の虎』に出られたことは?
竹中: ないですね。出てない。呼んでください。
石破政権の2万円給付案に竹中氏が苦言「目的がよくわからない」
――さて、そんなお二人にまずお伺いしたいのが、最近の政治の動きです。石破政権は物価高対策として「2万円給付」を打ち出しました。竹中先生、この政策は一体どういった狙いがあるのでしょうか?
竹中: 我々はどうしても理屈っぽく考える傾向があるんですが、その理屈から言うと、政策というのは、まず「何を目的としてやるのか」が重要です。景気刺激なのか、物価抑制なのか、低所得者の救済なのか。目的によって手段は決まるはずです。ところが、今回の給付は目的がよくわからない。
“減税は無意味”断言のワケ「低所得者はそもそも税金を払っていない」
竹中: 普通に考えれば、今回政府がやる目的があるとしたら、やはり社会保険料がすごく高くなってきたので、低所得者の人の負担が非常に大きい。だからその人たちを救わなければいけない。もちろん高額所得者、中所得者の人も物価高で困ってはいるけれども、全員を助けることなんかできないから、一番困っている人を助ける、と。
そうであるならば、低所得者の人はそもそもあまり税金を払っていないわけだから、減税しても意味がありません。彼らの負担が大きいのは社会保険料なんです。これは財務省にすごく責任があるんですが、GDPに対する社会保険負担の比率は過去20年で2倍になっています。
これはいわゆるステルス増税ですよね。こども家庭庁を作ったときも、本来なら増税で財源を確保すべきなのに、それが言えないから社会保険料に上乗せしてごまかしてきた。ですから、本当に困っている人を助けるなら、社会保険料を時限的に減らすか、あるいは困っている人たちに限って社会保険料分を給付すればいい。それなのに、なぜか全員に給付する。これはまったく意味がわからないですね。
たった2万円をもらっても物価高対策として意味なんかない
――表向きは米価や物価高騰への対策とされていますが。
竹中: そう言いますが、物価高を抑えるには、なぜ物価が上がり、なぜ賃金が上がらないのか、その根本原因に手をつける必要があります。でもそれはほとんど議論しないで、とにかく2万円。高額所得者の人が2万円もらって、物価高対策として意味があるかというと、とてもそんなことは考えられません。
結局、自民党がなぜあんなことを言い出したかというと、物価が上がったことによって税収が増えたんですよ。別に政府が努力したから増えたわけじゃなくて、物価が上がれば名目GDPが増える。税収は名目GDPで決まるので、知らない間に税収が増えちゃった。その増えちゃった分を「お返ししましょう」というのが趣旨でしょう。
2万円給付は究極の手抜きだ…竹中氏が石破政権を断罪
――なるほど。
竹中: だからそれを一番楽な、というか簡単な方法で一律2万円(一部4万円)やったということです。毎年いろんな給付をやっているじゃないですか。しかし思いつきで給付を繰り返すのではなく、本来なら制度として給付の仕組みを作るべきです。その意味では、「ばらまきだ」という批判は非常に分かりやすい説明として納得できますよね。
――ちなみに林さんはこの2万円で何を買いますか?
林: いやあ……一瞬でなくなっちゃいますね。大体僕がいつも行くところは麦茶ピッチャーで5,000円しますから。麦茶ピッチャー4杯ぐらいじゃないですか(笑)。
――そもそも2万円が必要なのが低所得者層だとすれば、林さんご自身は喉から手が出るほど欲しいものでもないのではないでしょうか?
林: あったら嬉しいし、みんなにあげるんだったら僕にもちょうだいよとは思いますけど。「うーん、2万円か」って思う人は多いんじゃないですか?
“減税か給付か”の壊滅的な間違いとは「非常におかしい」
林: 竹中先生に色々聞いてみたいんですけど、じゃあ今、政府が本当にやるべき政策は社会保険料の削減ですか?
竹中: 社会保険料という制度自体をいじるのは大変ですから、限定的な給付というのはひとつの方法です。ただ私が非常におかしいと思うのは、「減税か給付か」という二元論で議論が進むことです。一番いいのは、給付を含むような税制改革をすればいいわけですよ。
林: なるほど。
単なる減税でも給付でもない…一部野党の政策を絶賛する理由
竹中: 「給付付き税額控除」ですよね。これはいくつかの国でやっているし、野党の一部も主張していますから、この議論をもっともっとすべきです。まあ、財務省は抵抗していると言われますが。
林: 給付付き税額控除、たぶん多くの人がよく分かっていないと思うので、詳しく教えていただけますか。
竹中: 日本の所得税は累進課税で、所得の高い人の税率は最高で55%、低い人は5%や10%、さらに低い人は0%ですよね。この累進構造の傾斜をもう少し滑らかにして、所得が極端に低い人の税率を「マイナス%」にすればいいんです。マイナスの所得税ということは、税金を納めるのではなく、逆にお金がもらえるということです。これが結果的に「給付」になるわけです。
国民は税金を全然払っていない 勘違いしている“減税派”の人たち
林: 大体、所得税がない人って年収いくらぐらいの人なんですかね?
竹中: 家族構成にもよりますが、一番分かりやすい例で言うと、所得税率が10%以下の人の割合は、納税者の中でどのぐらいだと思いますか?
林: 15%くらいですか?
竹中: 8割です。
林: ええ、そんなに!?
竹中: 8割です。これは財務省の資料にはっきり出ています。だから日本の所得税というのは、税制の基本のはずなのに空洞化しているんですよ。
林: ちょっと待ってください……。僕はずっと、所得税を払っている4,000万人で残りの8,000万人を支えるのは辛いな、と思っていたんですが、その払っているはずの人たちの8割が、税率10%以下なんですか? じゃあ国民は全然税金を払っていないってことじゃないですか。そりゃ俺の税金が高いわけだ……。