“エリート候補者”集めた石丸新党「再生の道」違和感の正体…“SAPIX生まれ東大育ちのチームみらい”は「東大内部生」集団

先の参議院選挙では、自民党と公明党が過半数割れするといった大波乱が起きた。与党が議席を減らした一方、参政党や国民民主党が議席数を大幅に伸ばした。そんな中で注目が集まったのは初挑戦で1議席を獲得した「チームみらい」だ。そんなチームみらいは選挙中、代表らの経歴などから「SAPIX生まれ、東大育ち、賢い奴は大体友達」と揶揄されることもあった。「彼らの本当のアンチは東大卒だ」と指摘する者もいる。一体どういうことか。そこには本来の“内部生”が存在しない東大のはずだが、内部生のような存在がいるというが……。ジャーナリストの汐留太郎氏が取材したーー。
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「『チーム東大』チームみらいのアンチは東大卒」
参政党の躍進や国民民主党の健闘、自民・公明党の凋落が話題となった参院選が終わった。選挙で負け続けているのに首相の椅子にしがみつく石破総理の往生際の悪さや自民党内での倒閣運動がクローズアップされ、永田町は早くも政局モードとなりつつある。しかし、そうした空気に飲まれていない政党がある。チームみらいだ。
開成出身、東大卒の安野貴博党首をはじめ、候補者のほとんどが東大卒。その上外資系コンサルティング会社や外資系投資銀行、霞が関など超一流の人材をずらりと並べた。「俺はSAPIX生まれ、東大育ち、賢い奴はだいたい友達」といわんばかりの人選やスタイルはネット上で揶揄されることもあったものの、政界のしがらみから距離を置き、「永田町にエンジニアチーム創設」という一点勝負で選挙戦を戦った様子はじわじわと共感を得て、目標とする比例代表での議席を獲得した。当選の瞬間、安野氏が「やったー」と無邪気に喜び、桜蔭出身、これまた東大卒で妻の黒岩里奈氏を抱き寄せる姿はSNSでも広く拡散された。
そんな実質「チーム東大」であるチームみらいの躍進を苦々しい気持ちで見ている人たちがいる。「多分、チームみらいのアンチが一番多いのは東大卒だと思う」。学生時代に安野氏をキャンパスで見かけたことがあるという30台前半の男性、A氏は取材に対してこう語る。「チームみらいのボランティアに参加した知り合いもいるが、あいつらを仲間だと思ったことはない」と吐き捨てるA氏の表情には、諦観の念と哀しさが漂っていた。
肩で風を切ってキャンパスを歩く名門中高一貫校出身者
いまから十数年前、地方の「浪人をあわせても東大合格者が年間数人出る程度」の公立高校から猛勉強の末に東大に入学したA氏だったが、東京での新生活への希望は入学早々に打ち砕かれた。当時の東大ではオリ合宿という、一泊二日の合宿があったが、最初から既にコミュニティができていたのだという。「特に開成や麻布など東京の名門中高一貫校出身者や、関西でも東大進学者数が多い灘や洛南の奴らは最初から固まっていて、排他的な空間ができていた」とA氏は振り返る。特に、麻布出身の浪人生は先輩に高校時代の同級生がいることもあり、肩で風を切って歩いていたという。
A氏にとって屈辱だったのが、自己紹介だった。バスの中でマイクを使って自己紹介をするのだが、「◯◯高校出身」というたびに「めいもーん!」といういわゆる名門コールがあった。どこの大学でもある話だが、その空気は明確におかしかったという。開成や麻布のような本当の名門校であれば「へえ」くらいのリアクションで流されるのだが、A氏のようなマイナー高校であればあるほど「めいもーん」の声は大きく、それも本当の名門校の人々が嬉しそうに叫ぶのだ。
「明らかに一軍」SAPIX、浜学園出身者
「当時はスクールカーストなんていう言葉はなかったが、明らかに彼らは1軍で、中高一貫校以外の出身者は2軍だった」とA氏は振り返る。マジョリティ側の人々が、悪気なくマイノリティをいじって笑いものにするような空気に気分を害したのはA氏だけではなかったはずだが、非名門校出身の人間同士の横の連帯も薄く、被害者としての立場を口にすることも憚られる雰囲気だったという。「慶應や早稲田と違って内部生と外部生の断絶がないというが、SAPIXや浜学園を使って中学受験を通過し、高校に入ってからも鉄緑会に通っていたような連中は事実上、東大の内部生みたいなものだ」と断言する。
金銭面でも、「内部生」と「外部生」の格差は激しい。内部生の多くは裕福な実家暮らしで、高校時代から渋谷で遊び慣れている学生も多かったという。「先輩のツテで時給が高い家庭教師や企業でのバイトを引き継いだり、そもそもバイトなんてせずに親からの小遣いだけで遊んだり旅行したりしている奴もいた」(A氏)。居酒屋やコンビニなど、誰でもできるようなバイトしか選べない層とは、スタートラインが違ったと話す。
就活でも”内部生”が独占する情報
勉強面でも、「内部生」の有利は圧倒的だ。東大では1年生は全員が教養学部前期課程に所属し、3年以降にどの学部・学科に進むかという進振り(進学選択)は2年生の夏までの成績で決まる。もっとも、右も左もわからない中で生活を立ち上げながら暗中模索で進まざるを得ない「外部生」と、試験対策のシケプリや授業の情報の質・量とも充実している「内部生」とは勝負にならない。また、語学でも帰国子女や留学経験者がゴロゴロいるため、そもそも大きな差がついている。結果、わざわざ地方から上京したのにも関わらず、希望していなかった進路に進まざるを得ず、学年を経るごとに行方不明になっていく「外部生」は多いという。
就職活動に向けても、「内部生」の動きは早い。「そもそもコンサルや外銀に就職している先輩がたくさんいるので身近なところにロールモデルがいるし、その道に進むための最短ルートが共有されている」とA氏。また、インターンでも「先輩が起業した会社を手伝う」「小さなコンサル会社が東大生限定で学生を募集している」といった、公募以外のルートも豊富だ。もちろん、こうした情報は「内部生」が独占している。
今のように就活塾のようなものが盛んでなかった当時でも、「内部生」が中心となって有志でOBを巻き込んで就活対策に取り組むといった動きはあり、早い段階で一流を目指すという流れはあったという。結果、いわゆる外コンや外銀といった、チームみらいの人々が進むような進路に進めるのは名門中高一貫校出身者が圧倒的に多かった。
社会の仕組みに絶望し、地方の医学部を再受験
結局、A氏はメガバンクに入行し、転職を経て現在は「ホワイト気味なJTC企業」で働いている。仕事が楽な割に年収は1000万円を超え決して低くはないが、それでも、かつての同級生たちがピカピカの企業で数千万円を稼いでいたり、更にそうした地位を投げ売って政界に飛び込み、そして称賛されている姿を見るのは辛いし、嫉妬にかられるという。
「特に文系の場合、東大を卒業したからといって企業内で優遇されることはないし、ペーパーテストが得意だからといって、評価されることもない。社会の仕組みに絶望し、東大を卒業してから地方大学の医学部を再受験した知り合いもいる」とA氏は話す。
「チームみらい」「再生の道」の差
今回の参院選でA氏が共感したのは、かつての同級生だったはずのチームみらいのピカピカのエリートではなく、むしろ石丸伸二氏に「年収800万円以上のハイクラス人材」と紹介された、再生の道の候補者たちだという。彼らの多くは有名大学の出身でそれなりの職歴の人も多いが、チームみらいの候補者として選ばれるような、誰もが羨む経歴の人は少ない。むしろ、キャリアが行き詰まった人が政治家という職業に人生一発逆転の希望をかけたケースすら見受けられた。
チームみらいの若きエリートたちは自らが安野氏を当選させるための捨て石として覚悟を持って選挙戦に臨んだため、選挙が終わったあとも恨み言ひとつ漏らさず、仲間同士の連帯感とともに爽やかで明るい雰囲気を保っている。それは美しい光景であるが、極めて同質的な空間だからこそ可能だともいえる。一方、対極的なのが再生の道の候補者たちで、石丸氏からの支援ももらえない中、自分たちがなにをやっているのかも分からずに落選し、横のつながりもなく、絶望的な表情をみせていた。「東大で格差に気づかなければ、自分も一歩間違えればああなっていたかもしれない」とA氏は呟く。その言葉は、チームみらいの仲間たちには絶対に届かない重さを伴っていた。