止まぬ炎上「ジャングリア沖縄」はなぜ叩かれるのか?…経済誌元編集長「税負担リスクを内包したプロジェクト」の懸念

ついにオープンした新テーマパーク「ジャングリア沖縄」。このプロジェクトを主導した株式会社刀を率いる森岡毅氏はユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させた実績を持ち、森岡氏にマーケティングの天才とも呼ばれる。しかしパークの開業直前、ニューズピックスが「森岡毅氏率いる最強マーケター集団「刀」は、大赤字を叩き出していた」「刀と森岡毅氏のファミリー企業の「変」な関係。80億円出資時にクールジャパンで議論が巻き起こった」といった動画を配信し話題を呼んだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
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なぜこの施設は、これほどまでの論争を巻き起こしてしまったのか
沖縄県北部に7月25日、新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がその扉を開いた。開業直後から、この施設は激しい批判の嵐に見舞われている。ソーシャルメディア上には「CMで見たような興奮はどこにもない」「大人が楽しむには物足りない」といった来場者からの辛辣な意見が数多く投稿された。
日本遊園地学会の塩地優会長は、ITMediaビジネスオンライン(7月30日)で「テーマパークらしいアトラクションは22の中で3つほどだ」と述べ、来場者数が今後急激に落ち込む可能性を予測している。一方で、実業家の堀江貴文氏が「普通にめちゃくちゃ楽しい」と擁護するなど、評価は完全に二分している状況だ。
この現象は、単なる新しい施設への物珍しさや、開業当初の混乱に対する一時的な批判とは質が異なる。ジャングリア沖縄が直面している「炎上」は、より根深く、構造的な問題をはらんでいるように見える。なぜこの施設は、これほどまでの論争を巻き起こしてしまったのか。その原因を多角的に分析する必要がある。
来場者を待ち受けているのは、精巧に作られた人工物の象徴、ロボットの恐竜たちである。この組み合わせが、深刻な不協和音を生み出している。本物の森の中で、なぜ偽物の恐竜を見なければならないのか。この素朴な疑問が、没入感を根本から破壊する。
テーマパークのアトラクションは、徹底的に管理された閉鎖空間でこそ、その魔術的な効果を最大限に発揮する。例えば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」は、城という巨大な建造物の中に作られた完全な屋内型ライドだ。精巧なセット、最新の映像技術、ライドの動きが完璧に同期し、来場者を魔法の世界へと誘う。
「子供騙し」に付き合ってくれる子供は案外少ない
仮にこのアトラクションが、ジャングリア沖縄のように屋外の自然光の下に設置されていたならば、スクリーンの映像は色褪せ、セットの作り物感も露呈してしまい、魔法の世界への没入は到底不可能だっただろう。屋外の環境は、どんなにリアルに作られたロボットからも人工物としての質感を容赦なく暴き出す。本物の自然の中に置かれると、その異物感はかえって際立ってしまう。やんばるの森という最高のロケーションを、没入感を阻害しかねないコンテンツで埋めてしまった。このコンセプト設計の不整合が、多くの来場者に違和感を与えている。
私の実感だと、大人は嘘だと分かってても騙されてくれるが子供は正直で騙されてくれないから、子供向けのものを作るのは、案外難しいものだ。私はこの「子供騙し」に付き合ってくれる子供の数は少ないのではないかと不安だ。
また、「自然の中に恐竜」というコンセプトは、どう考えてもそこらじゅうにありふれたもので、集客の決定打とはなり得ない。ジャングリア沖縄から車でわずか10分ほどの場所には、「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」という競合施設が長年営業している。そこでも、原生林の中で80体以上の恐竜と出会える体験が提供されている。なぜすぐ近くに類似の恐竜施設をもう一つ作る必要があったのか、計画の意図は全く理解できない。
陳腐で矛盾したプロジェクト
コンセプトそのものに、わざわざ沖縄まで足を運ばせるほどの魅力が欠けている。学術的な価値や希少性を求めるなら、上野の国立科学博物館で開催される大規模な恐竜博覧会に足を運んだ方が、はるかに有意義な体験が得られるだろう。
この陳腐で矛盾したプロジェクトを主導するのが、株式会社刀を率いる森岡毅氏である。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させた実績は、森岡氏にマーケティングの天才という神話的な地位を与えた。
しかし、USJ退社後のプロジェクトを冷静に検証すると、その手腕には疑問符が付く。ネスタリゾート神戸の再建では、集客数を大幅に増加させたが、その一方で、公表された黒字は減価償却費を計上する前の数字であり、償却後の利益では赤字が続いていたとされる。少なくとも持続可能な利益構造を築いたとは言い難い。
森岡氏と刀が手掛けるプロジェクトに共通するパターン
西武園ゆうえんちのリニューアルでは、昭和レトロというコンセプトで大きな話題を呼んだ。しかし、親会社である西武ホールディングスは関連事業で巨額赤字を計上しており、投資を回収できる見込みは立っていない。2024年に開業したイマーシブ・フォート東京も、新しい体験を提供すると注目された。しかし、その運営は損益分岐点を下回る日も多いとされ、チケットの値下げに踏み切るなど、採算性ぎりぎりの厳しい経営が続いている模様だ。
これらの事例が示すのは、森岡氏と刀が手掛けるプロジェクトに共通するパターンである。初動の話題作りや集客には成功する。持続的な利益を生み出し、投資を回収するという事業経営の核心部分では、明確な成果を出せていないケースが散見される。見せかけの成功と、実質的な赤字の闇。USJ以降の道のりは、必ずしも輝かしいものばかりではない。
こうした過去の実績を踏まえると、ジャングリア沖縄の未来にも暗い影が落ちる。開業直後の賑わいや、沖縄の地域振興に貢献するという社会的な意義の訴求は、これまでのプロジェクトでも見られた手法だ。問題は、その先に持続可能な収益構造を描けているかどうかである。
税負担のリスクを内包したプロジェクト
ここで極めて重要になるのが、ジャングリア沖縄の資金調達の構造だ。このプロジェクトには官民ファンドからの出資が含まれており、公的資金が相当な割合を占めている。挑戦すること自体は尊い。純粋な民間資金だけでリスクを取るのであれば、その挑戦は応援に値するだろう。官民ファンドに依存した事業となると、話は全く変わってくる。
もし今後、ジャングリア沖縄が恒常的な赤字に陥り、経営が行き詰まった場合、その損失を補填するのは国民の税金となる可能性がある。森岡氏は開業前のセレモニーで「大成功ではなく堅実な離陸を」と語った。その言葉の裏には、公的資金の重圧と、投資回収へのプレッシャーが透けて見える。税負担のリスクを内包したプロジェクトを、手放しで支持することはできない。
結論として、森岡毅氏という人物は、二つの側面から評価されなければならない。一つは、マーケティング戦略家としての側面だ。数学的分析と巧みな物語作りを駆使し、人々の関心を引きつけ、集客や話題づくりで成功を収める手腕は揺るぎない事実である。
もう一つは、事業経営者としての側面だ。複数のプロジェクトにおいて、「初速は良いが継続的利益構造が弱い」「償却後赤字が常態化」「投資回収が見込めない」といった課題が明確に浮かび上がっている。森岡氏はマーケティングの神なのか、それとも持続性に欠ける演出家なのか。USJを成功させた「一発屋」で終わるのか、あるいはジャングリア沖縄で持続可能な収益構造を構築し、経営者としての真価を証明できるのか。この施設の成否が、森岡毅という稀代のマーケターの最終的な評価を決定づけるだろう。現状では、話題性とPRの演出力は圧倒的だが、経営の継続性という視点では、その手腕を全面的に信用するには至らない。ジャングリラ沖縄、地元の期待を背負って開業したからには成功してほしいと願いたいが、どうなってしまうのだろう。