「安野貴博氏、デジタル大臣に」竹中平蔵氏…不勉強なタレント議員らを大臣にする自民党のどこが「責任政党」なのか

先の参院選で大敗した石破・自民。石破茂総理に責任を求める声が日に日に大きくなる一方で、本人は継続する意志を国民に伝えた。一方で立憲民主党の野田佳彦代表は内閣不信任決議案の今国会での提出を見送る方針を示唆。経済学者の竹中平蔵氏は「ポリコレ的には石破氏はやめるべきで、野党も不信任案を出すべきだ」と指摘する。しかしそれが実際に起こらない以上、「チームみらい党首の安野貴博氏をデジタル大臣にするべきだ」と指摘する。なぜかーー。
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なぜ石破総理は居座るのか
読売新聞と毎日新聞がそろって「石破総理、退任へ」といった内容のスクープを放ちましたが、結果として石破総理は自身の口で継続する意志を国民に伝えました。では、あの報道は一体何だったのでしょう。常識的に考えれば、これだけ選挙で負けが続いたのであれば辞めるべきところです。自民党最高顧問の麻生太郎氏が「総理の続投は認めない」と語ったのも「辞任ムード」をつくった一つの要因でしょう。しかし、首相を辞めさせる方法というのは、内閣不信任決議以外、本人が辞めるしかないのです。
それではなぜ石破総理は総理の座に居座るのか。これは権力というものの本質に関わる問題です。権力というのは、やはり判断を誤らせるものです。かつて小泉純一郎元総理が私に「権力って怖いな」と言っていたことを思い出します。郵政民営化の時に反対し、国民新党を立ち上げた綿貫民輔氏はもともと小泉さんを指導していた、可愛がってくれていた人だといいます。「最もカラオケを一緒に歌った人」だそうです。大学の先輩、後輩関係にもあるわけですが、郵政民営化を境に大きく人が変わってしまった。そして、その権力と関わることの難しさを小泉さんは感じたのでしょう。
過去を振り返れば、三木武夫元総理も1年ぐらい居座りました。権力を持つ者にとって、それを手放すということは想像以上に困難なことなのでしょう。石破さんも、これから終戦、国連総会、といろんなイベントがある中で、総理がいないわけにはいかないですし、そういう状況を見越して、居座れると踏んでいるのだと思います。
石破総理は、自民党は「政権を担う責任政党」であるがゆえに、「政治的空白を作ってはいけない」と継続する理由を語っていますが、むしろ辞めなくてはいけない状況なのにグダグダと続けてしまうことで結局「政治的空白」を生み出しています。
不勉強なタレント議員を大臣にして、何が「自民党は責任政党」だ
それに「自民党は責任政党だ」と主張しながら、残念ながら不勉強な元タレント議員などに大臣ポストを渡しています。国を運営する責任を本当に果たそうとしているのか国民が疑問に思っても無理はありません。
これは自民党から派閥がなくなった影響も大きいと思います。派閥というのは議員を指導する機能をこれまで持っていましたが、それがなくなり、今は誰も「教えてくれない」状況になっています。全員が個人商店のようになってしまい、ますます責任政党として役割を果たせなくなっています。
ただ野党にも大きな問題があります。先日立憲民主党の野田佳彦代表は内閣不信任決議案の今国会での提出を見送る方針を示唆しました。これに対して自民党の小林鷹之議員はインターネット番組で「内閣不信任案を野党が出さないのなら、それは政権運営を担う覚悟がないということ」と批判し話題を呼びましたが、それはその通りでしょう。
安野さんをデジタル大臣にするべきだ
政治の常識、ポリティカルコレクトネスから言うと、石破総理はやめるべきですし、野党は内閣不信任案を出すべきです。政治空白を石破さんが作っているし、野党も作っている。何もできない状況です。選挙前に自民党が公約に掲げた給付金2万円もがどうなるのかもよく分かりません。衆参両方で自公が過半数を失った今、補正予算案は野党の協力なしでは通らない状況です。
しかし減税するにしても給付するにしても、補正予算は通す必要があります。今この状況で野党にどうやって協力をあおげばいいのでしょうか。
まず参議院について、自公が過半数に足りないのは3議席です。今回、和歌山選挙区で世耕弘成前参院幹事長の支援を受けて当選した無所属・望月良男議員、鹿児島選挙区から初当選した無所属・尾辻朋実議員(父は自民党重鎮・尾辻秀久氏)に追加公認を与えるか、もしくは協力を求めることはできるでしょう。
そして、残り1議席に関しては今回の選挙で初議席を獲得したチームみらいの安野貴博氏にデジタル大臣をお願いするという方法も模索するべきです。その斬新な人事は日本にとってもプラスになるはずです。そして現在デジタル大臣の平将明氏には経済産業大臣などになり、日本の経済成長に寄与してもらいたく思います。
ポスト石破、高市・小泉それぞれの課題
衆議院に関しては、本年度予算案の時、維新と組んで通したのと同様に「これはこれ、あれはあれ」という形で、個別に対応すればいいのです。
そうやって現体制下で予算案を通す見込みがたったとして、やっぱり石破おろしは止まらないでしょう。自民党としては「選挙に勝てる」人を次の総裁に選びたいわけですが、誰だったら選挙に勝てるのか。
そうなると名前が挙がるのは二人です。高市早苗氏と小泉進次郎氏です。
高市氏は保守票に強い人気を誇るため、今回の選挙で参政党や国民民主党に流れた保守票を呼び戻せるかもしれません。一方で、彼女の過激な発言から党内からの反発の声がないわけではありません。前回の総裁選と同様に、党員・党友票は多く獲得できても、国会議員票は獲得できるかは未知数です。とくに、彼女を支えてきた多くの議員が昨年と衆院選と先の参院選で落選してしまいました。
保守票に強い高市さんに対して、小泉氏は浮動票に強みがあるとされます。今回の選挙は自民党の政策が浮動票に評価されなかったことも敗因の一つです。小泉氏自身はいつかくる「将来の総裁選」を意識して、地方を積極的に回っています。とくに前回の総裁選では、1回目の投票で国会議員票はトップだったのにも関わらず党員・党友票で高市氏、石破氏に50票弱の差をつけられました。仮に総裁選が行われるとして、小泉さんが出るかどうかは、その時の状況判断として、「待っていたらより良いタイミングが将来本当にくるのかどうか」でしょう。
注目される3番目の総理候補者とは
そんな中で、注目されている3番目の候補者は林芳正氏です。今、岸田文雄総理の復活を求める声がある中で、岸田総理を政権内で支えた林氏にも期待が高まっています。国会議員からの評価が高い林芳正さんが無難な選択という見方もありますが、党員・党友票の獲得は難しいかもしれません。ただ2020年に実施した「簡易方式」での総裁選を実施した場合、チャンスはあるでしょう。
さて、話はの参議院選挙に戻りますが、今回の選挙ほど政策議論のなかった選挙はないと思います。その責任はやはり自民党にあります。本来であれば、責任政党である自民党が、きちんとした政策論争を提起すべきなのに、それができていない。そして「新しい世の中になるぞ」という強いメッセージがないのです。
現在の議論がポピュリズムに基づいているから、まともな政策論争が出てこないんです。「もっと金を出せ、もっと金を使え」という話しか出てこない。これでは日本の将来はありません。
従来以上に利権団体にすがりついた石破自民
給付金税額控除や、ライドシェア、生活保護制度などにしても、何も新しい提案がありません。その代わり毎年のように掲げている現金給付については今回も公約に掲げました。はっきりいって、国民全員に対する現金給付は論外です。これはどう見てもバラマキであり、良い政策とは言えません。
基本的には利権団体を守るという形になってしまっているように感じます。要するに、選挙で負けそうなので、従来以上に利権団体にすがりついたのです。例えば、今自民党内では郵政民営化の逆行方針も出すという話があります。これは象徴的です。かつて小泉純一郎政権下で進めた構造改革の理念を完全に放棄し、既得権益の復活を図ろうとしている。これでは日本の将来はありません。
では、他の党がすごくいい政策を掲げているかといえばそういうわけでもありません。昨年の衆議院議員選挙で大躍進を果たした国民民主党は、2035年まで名目GDPを 1000兆円という目標でぶち上げました。これはウィッシュリスト(願望)でしかありません。計算してみればすぐわかります。達成するために名目で毎年5%以上成長しないといけないのです。物価を2%にするなら実質3%です。そんなことはありえません
今回の参議院選挙や今の政策論というのは、後から見たらものすごく批判される政策論だと思いますよ。90年代に「ちゃんとした政策がないと公共事業ばっかりでやっていた」と言っているじゃないですか、今。それと同じことが今始まろうとしています。
政治家も国民も、そしてメディアも、もう一度政策の本質を見つめ直す必要があります。感情論やポピュリズムに流されるのではなく、日本の将来を真剣に考えた政策議論を復活させなければ、この国の未来はないでしょう。