参政党を“反知性”と切り捨てるのは単なる思考停止だ…東浩紀氏がリベラルの傲慢を断罪 さや氏「お母さんにしてください」に支持者が歓喜したワケ

2025年7月の参議院議員選挙では、参政党の躍進が大きくメディアに取り上げられた。この現象を、「政治的に無知な支持者たちが陰謀論や排外主義に毒されただけ」と切り捨てるのは単なる思考停止だと批評家の東浩紀氏は指摘する。
参政党が支持を広げたのは既存政治が国民の声に応えられていない現状の裏返しだと分析する同氏に、参政党躍進が映し出す日本社会の地殻変動から凋落するリベラル勢力の課題まで、多角的に論じていただいたーー。
みんかぶプレミアム特集「参政党が勝ち、リベラルが負けた理由」第7回。
目次
なぜ人々は参政党に熱狂したのか? 社会に蔓延する「不安」の正体
7月の参議院議員選挙が終わって、しばらく経ちました。今回の選挙結果、特に参政党の躍進について、いろいろな受け止め方があったでしょう。僕自身は、この現象は単なる一過性のブームや、特定の層がフェイクニュースに騙されたといった単純な話ではないと考えています。
なぜ参政党の主張や姿勢が、これほど多くの人々の心を掴んだのか。この問いを深く掘り下げていくと、現代日本が抱える政治と社会の課題、そして人々の声なき声が、ぼんやりと浮かび上がってくるのではないでしょうか。
それは、既存の政治が語らなくなった「大きな物語」への渇望であり、生活の隅々にまで浸透した正体不明の「不安」の裏返しでもあります。
今日は、今回の参院選の結果をひとつの鏡として、そこに映し出された日本の現在地を探ってみたいと思います。参政党はなぜこれほど議席数を伸ばしたのか。揺れ動く世界の中で、日本の立ち位置はどうあるべきなのか。停滞するリベラルが再生するためには何が必要なのか。
参政党を“反知性”と切り捨てるのは単なる思考停止だ
まず、大前提として明確にしておきたいことがあります。僕は参政党の主張には数多くの問題があると考えており、まったく支持する立場にはありません。彼らが提示する憲法草案などを見れば、憲法学や政治学といった分野に対する基本的な知識が欠落しているのではないかと疑わざるを得ませんし、一部には反科学的と評価せざるを得ない主張も見受けられます。
その上で、なぜ彼らがこれほどの支持を集めたのかを冷静に分析する必要があります。単に「有権者が騙された」というだけで片付けてしまえば、僕たちはこの選挙が突きつけた重要な問いから目をそむけることになります。
参政党が躍進した最大の要因は、彼らがストレートに「国のかたち」や「日本の未来」といった、いわば「大きな物語」を語ったことにあると僕は見ています。
目先の「給付金」と「手取り」の話しかできない既存政党の限界
思い出してみてください。この半年の日本の政局、特に選挙戦で語られていたことは何だったでしょうか。「減税か、給付か」「働き手の手取りを増やすべきだ」「米の価格はどうなるのか」。もちろん、これらは現役世代の生活困窮をどう改善するかという、きわめて重要な論点です。しかし、議論のほとんどが、こうしたミクロな、目先の生活問題に集中していたのではないでしょうか。
一方で、世界に目を向ければ、状況はまったく異なります。第2次トランプ政権が誕生して以降、国際情勢は激動の時代に突入しました。日本はこれまで通りアメリカべったりでいいのか。中国の脅威にどう向き合うのか。台湾有事は本当に起きるのか。僕たちの国は、まさに「国家100年の計」が求められる、重大な岐路に立たされています。
「日本は大丈夫なのか」という素朴な不安に応えたのは参政党だけだった
このような大きな構造変化が起きているにもかかわらず、日本の政治の舞台では、そうした大きな議論がほとんどなされてこなかった。国民の多くが漠然と感じているであろう、国の未来に対する大きな不安に応える言葉が、既存の政党から発せられてこなかったのです。
その空白に、参政党は飛び込んできました。「日本はこのままではダメになる」「次世代に良い日本を残すために、今までの政治を変えなければならない」。このメッセージ自体は、多くの人が同意する、ごく真っ当なものです。彼らは、解決策の是非はともかくとして、まずはその「大きな問い」を掲げることに成功した。人々が求めていたのは、日々の生活の改善策だけではなく、この国がどこへ向かうのかという、大きな方向性、つまりビジョンだったのです。