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石破首相はリベラルの“救世主”なのか?左派が繰り返す過ちを東浩紀氏が批判するワケ

(c) AdobeStock

 2025年7月の参議院議員選挙では、参政党の躍進が大きくメディアに取り上げられた。この現象を、「政治的に無知な支持者たちが陰謀論や排外主義に毒されただけ」と切り捨てるのは単なる思考停止だと批評家の東浩紀氏は指摘する。

 参政党が支持を広げたのは既存政治が国民の声に応えられていない現状の裏返しだと分析する同氏に、参政党躍進が映し出す日本社会の地殻変動から凋落するリベラル勢力の課題まで、多角的に論じていただいたーー。

 みんかぶプレミアム特集「参政党が勝ち、リベラルが負けた理由」第8回。

目次

石破首相は本当に“救世主”か? 左派が繰り返す過ち

 この文脈で、最近の「石破ブーム」についても触れておきたいと思います。僕は石破茂さんという政治家を個人的に嫌いではありませんが、現在のブームは非常に不健全なものだと感じています。

 かつて安倍晋三政権の時代に、当時の天皇陛下(今の上皇陛下)が平和を希求するお言葉を発せられるたびに、一部の左派・リベラルが「陛下こそが真のリベラルだ」と持ち上げたことがありました。今の石破ブームは、それとまったく同じ構造です。もともと安全保障の専門家で、タカ派と見なされてきた石破さんが、「敵の敵は味方」という論理で、今や一部の左派・リベラルから救世主のように扱われている。これは、彼の政策や理念が支持されているというよりは、単なる極右へのアンチテーゼとして消費されているに過ぎず、非常に足場のもろい、ふわふわした支持だと言わざるを得ません。

石破政権はなぜイスラエルを批判することができたのか

 ただ、石破政権が誕生して以降、注目すべき変化もありました。それはイスラエルの問題です。イスラエルのイランへの攻撃は明らかな国際法違反です。それに対して、G7の中でいち早く、そして強く非難声明を出したのが、石破政権でした。けれどもアメリカはイスラエルを支持しました。

 この一点を取っても、もはや「アメリカにくっついていれば正義であり、自由民主主義陣営は正義なのだ」という時代は完全に終わったことが分かります。アメリカと異なる独自の判断を場合によっては下せること。それこそが、これからの日本に求められる姿勢であり、その萌芽が現れたと評価することはできるでしょう。

 各党は、もはや「戦後の平和を守る」といった後ろ向きのスローガンではなく、これからの日本をどういう国にしていくのか、未来志向のビジョンを競い合うべきです。その中で、国際社会における日本の新たな立ち位置を明確にすること。それこそが、今最も必要とされている政治の役割だと言ってもいいかもしれません。

「純粋な日本文化」という幻想 ダイナミックな変革こそがこの国のDNAだ

 では、日本はどのような国の形を目指すべきなのでしょうか。僕は、そのヒントは日本の歴史そのものの中にあると考えています。一言でいえば、それは「雑種文化」の伝統です。

 一部の人が主張するように、日本は単一民族による純粋な文化をずっと守ってきた国ではありません。歴史を振り返れば、常に外部からの影響を受け入れ、それらをたくましく消化・吸収することで、自らをダイナミックに変革させてきた国であることが分かります。

 古代に遡れば、朝鮮半島から渡来人がやってきて技術や文化を伝え、中国からは律令制や仏教という巨大な文明システムを取り入れました。戦国時代にはポルトガルからキリスト教や鉄砲がもたらされ、社会を大きく変えました。江戸時代の「鎖国」ですら、歴史全体で見れば250年ほどの例外的な期間に過ぎず、その間も長崎の出島を通じて限定的ながら外部との接触は続いていました。そして、明治維新では西洋の技術、制度、思想を怒涛のごとく取り入れ、国の形を抜本的に作り変えることで、日本は植民地化の波を乗り越え、近代国家として生き残ることができたのです。

日本は「守りに入ったら死ぬ国」外国人排斥が致命的な誤りだと言える理由

 鎖国の時代をロマンチックに語り、それを日本のアイデンティティの根幹と考える人がいますが、それは歴史の一断面を切り取った見方に過ぎません。むしろ日本の本質、そして強みは、常に外圧にさらされながら、外部のものを貪欲に取り込み、自らを変化させていく、そのダイナミズムにあったはずです。

 ある意味で、日本は「守りに入ったら死ぬ国」なのです。外部の新しい血や知恵を取り入れることをやめたとき、この国は停滞し、衰退していく。それが日本の歴史が示す教訓だと僕は思います。

 この視点に立てば、現代の外国人問題に対する答えもおのずと見えてきます。排斥や排除ではなく、彼らを新たな「血」や「知恵」として受け入れ、日本社会を活性化させていく。もちろん、そのためには痛みを伴う摩擦や軋轢も生じるでしょう。だからこそ、政治にはその摩擦を最小限に抑え、スムーズな統合を促すための繊細な舵取り、つまり「寛容な社会」を維持するための具体的な仕組み作りが求められるのです。

川口のクルド人問題はなぜここまでこじれてしまったのか

 川口のクルド人問題や、最近よく話題になる中国資本による不動産買収問題。これらの問題がここまでこじれてしまった根源には、政治の無策があります。

 たとえば、外国人が特定の地域に急増し、住民が不安を感じているのであれば、それは地方自治体に丸投げするのではなく、国が責任を持って治安維持の強化や、地域コミュニティへの財政支援、あるいは共生のためのプログラムを主導すべきでした。不動産の問題にしても、外国資本による土地取得が社会的な混乱を招く恐れがあるのなら、もっと早い段階で一定の規制を設ける議論を始めるべきだったのです。

政治の無策で日本人と外国人の“両方が不幸”になる惨状

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この記事の著者
東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。 著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。

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