10月開始の「NHK ONE」月額1100円はスマホ持っていたら支払うの?無料で観る方法もあるぞ!…NHK党元秘書「NHK離れが加速する」

2025年10月から始まる「NHK ONE」。月額1100円になるが、どういう状況になると支払わないといけなくなるのだろうか。国民からはその制度に対する理解が広まっておらず「テレビのようにスマホを持っていたらそれだけ支払う必要があるのか」など疑問の声もあがる。そもそもすでにNHK+を使えばスマホなどでNHKを視聴できるが、なぜNHK ONEが必要なのか。「NHKから国民を守る党」浜田聡氏の公設秘書を4年半務めた、ライターの村上ゆかり氏は「国民からの批判や疑問を解消したとはとても言い難い」と語る。なぜなのか――。
目次
ネット契約という新形態で延命を図ろうと
2024年、改正放送法によって必須業務となったNHKのインターネット配信事業が、ついに2025年10月、新サービス「NHK ONE」という名称で始まる。
「NHK ONE」は、受信料収入が大幅に減少し、視聴率低下によって国民のNHK離れが進む中での苦肉の策とみられる。2024年度の決算では事業収支が449億円の赤字となり、受信料収入は5901億円と前年度比7%減で、6年連続の減収となった。受信契約数も5年間で145万件減少し、支払率は全国平均で78%台に低下している。テレビ離れはNHK離れに直結しているが、NHKに対する国民からの不信感も根強い。それにもかかわらずNHKはNHKやNHK受信料制度そのものの根本的欠陥を放置し、ネット契約という新形態で延命を図ろうとしている。
2024年5月17日に改正放送法が可決・成立してから、テレビを持たないスマートフォン利用者等にもNHK受信料を課すのかという批判が噴出した。さらに同年秋にはネット利用者が「同意」ボタンを押すだけで契約成立とみなす案が報道され、ワンクリック詐欺ではないかとさらに批判や疑問が集中した。これらの疑問は解消されているだろうか。結論から申し上げると、国民からの批判や疑問を解消したとはとても言い難い。
最初の問題は、NHK受信料制度の「公平負担の原則」が適正に運用できるのかという点である。NHKの財源となっている受信料制度は、NHKが公共放送としての業務を行なうために必要な経費を受信機の設置者に公平に負担してもらう、という考え方に基づかれている。つまり、NHKは、NHK受信料を「受信機の設置者(契約が必要な人・事業者)全員に、必要な経費を公平に負担」させなければならないという使命を負っている。NHKは2004年に不祥事が相次いで発覚してから、受信料の不払いは激増し、現在もなお、NHKの公表する契約率、支払率は8割前後と、イギリスの公共放送BBC等の支払率9割等と比較しても、低く推移している。
アカウント登録をすれば契約しなくても視聴可能
NHK ONEはアカウント登録をすれば契約しなくても視聴することができる。つまり、NHKと契約をしていない=受信料を支払っていないのに、視聴することができる。本来なら、サービスを使うには契約をして料金を払うのが当然である。たとえばNetflixやDisney+といった動画配信サービスは、料金を支払って契約しなければ視聴できない。2025年6月24日のAV Watch(オーディオ・ビジュアル総合情報サイト)の記事によると、NHKとの契約の確認ができない場合は、「受信契約情報の登録・連携のお願い」としたポップアップが表示されるが、このポップアップは“閉じる”ボタンで消すことができ、その後もサービスの利用は可能だが、情報の登録・連携が行なわれるまで定期的にポップアップが表示される。NHKの担当者は「テレビの場合も契約を結んだらNHKが視聴できるわけではなく、テレビをご覧頂いているかたに契約をお願いするという手順を踏んでおりますので、(配信でも契約前に)サービスを利用できなくする、スクランブルの考え方は基本的に取っていません」と説明したとある。
解約の手続きが、電話でしかできない点
さらに、1契約で3つのプロファイルを作成できる仕様にも問題がある。NHKは、世帯でアカウントを作り、家族で5つまで個別のプロファイルを利用できるようにすると説明している。ところが6人以上の世帯ではどうするのかと問われると、NHKは「1つのプロファイルを共有してください」と答えている。つまり1つのプロファイルを複数人で使うことを認めているのである。これでは1つの契約で複数人が同時に利用できることになり、制度の公平性が損なわれるようにも見える。これでどうやって「公平負担」という受信料制度の基本原則を守れるのか、現在の公開情報からは読み取れない。
NHK受信契約の解約の手続きが、電話でしかできない点も極めて問題である。契約はインターネット上で手続きが可能だが、解約は電話をかけるという手法しか存在しない。NHK ONEの場合、テレビ等の受信機を設置せず、NHK ONEの利用の為だけにNHK受信契約した人が、アカウント削除やアプリ削除を行っても受信契約の解約にはならないため、契約は残り続け、そのまま放置するとアカウント削除後も請求書が届く事になる。
料金の設定にも大きな疑問
この仕組みを正しく理解せず、アカウント削除だけして後日解約したと思っていた人に請求書が送られてしまう可能性は高いのではないだろうか。まるで「入り口は広く出口は狭い」詐欺商法のようだと筆者は感じる。筆者が参議院議員浜田聡事務所で秘書をしていた当時、NHK訪問員に解約を伝えてNHKと解約したつもりだった人が、後から請求書を受け取り、事務所宛に「解約したはずなのに請求が続いている」等といった相談が何度か寄せられたことがある。現行制度でさえこのような事案が発生しているのに、NHK ONEでトラブルが発生しないとは考えられない。
料金の設定にも大きな疑問がある。NHK ONEのみの利用者の受信契約は地上契約と同じ月額1,100円(沖縄では965円)とされている。この金額の根拠は何か。衛星放送料金は3,900円(2か月払い額)と地上契約の2,200円(2か月払い額)と比較すると倍額近いが、公平負担の原則がある受信料で、この違いをどう説明するのか。NHKはこれら金額の根拠を現時点で明らかにしていないが、当然に説明責任を果たすべきことである。
なぜこのような複雑な制度にしたのか
最も問題なのは、サービス開始が目前に迫っているにもかかわらず、NHKの公式ホームページにはこうした疑問に答える説明が存在しないことである。アカウントの作り方やアプリの利用方法は詳しく説明しているが、金額の根拠や公平負担に関するNHK ONEの制度詳細に関する説明はどこにも見当たらない。
NHK公式ホームページでは受信料の公平負担に向けた取り組みについて、「受信料制度は、視聴者のみなさまに公平に負担していただくことにより成り立っており、公平負担の徹底に努めることは、NHKの責務です。」等と公表している。しかし、公平負担を徹底させるなら現行のテレビに課す受信契約もNHK ONEも、スクランブル放送にすれば良いだけではないか。なぜこのような複雑な制度にしたのか、理由は単純である。もしスクランブル化を導入すれば、見たい人だけが契約することになり、契約者数が大幅に減少する恐れがあるからだろう。しかし、契約者数が大幅に減少する恐れがあると考えているという事は、公共放送として国民の信任を得ていないとNHK自身が考えている証左ではないか。
国民の「NHK離れ」を加速させる
NHK受信料の支払率は80%前後で頭打ちになっている。受信料はNHKの主な収入源であり、支払う人が増えなければ経営は厳しくなる。そこで考えられるのが受信料の値上げである。しかし、値上げは新たなリスクを生む。国民にとって受信料が高いと感じられれば「NHKを見る必要はない」「テレビを持たない方がよい」という考えが広がり、ますます支払わない人が増えてしまう可能性がある。これが「NHK離れ」である。
NHK離れが進めば、受信料収入はさらに減り、さらに値上げを検討する等の悪循環に突入する危険がある。だが、NHKにとって何よりも重要なのは、収入そのものよりも「公共放送として国民に視聴され続けること」である。公共放送は多くの人に利用されることでその存在意義を持つ。しかし、国民から視聴されなくなれば、受信料制度そのものの正当性が揺らぐどころか、その存在が立ち行かなくなるだろう。NHKはそれを最も恐れているはずだ。
NHK受信料をめぐり契約率や支払率が上がらないのは、受信料制度を含めた、NHKそのものに対する国民からの評価が上がらないからだ。公共放送の名の下に現行の受信料制度を頑なに維持し続けようとする限り、国民の信頼は回復しない。NHK ONEは受信料制度を補強する新たな仕組みに見えるが、その実態は制度矛盾を拡大させ、国民の「NHK離れ」を加速させる可能性がある。NHKが国民と真に向き合い、スクランブル化を含む抜本改革を行わない限り、NHK離れは止まらないだろう。国民はNHKに対する監視の目を緩めることなく、引き続きNHKを注視し続ける必要がある。