石破政権、体制維持へ国民絶望「減税も給付も進まない」最大の障壁は石破総理…国民の生活なんてどうでもいい自民党

一体、国民のための物価高対策はどこに行ったのか―。「給付」か、「減税」かを争点に与野党が激しい舌戦を繰り広げた7月の参院選から2カ月近くが経とうとしている。だが、あれほど「年内」を念頭に早期着手すると豪語した政治家たちの動きは見えない。物価高騰対策を審議する臨時国会すら開かれておらず、ガソリン税の暫定税率廃止も進んでいない状況だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「政権与党の自民党が党内政局というコップの中の争いに明け暮れていることもあるが、衆参で多数派を形成できる野党が本気で動かないことにも原因がある」と指摘する。政治家は選挙の時だけ甘言を振りかざすだけなのか―。
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9月に値上げする食品は前年同月に比べ0.6%多い1422品目
記録的な猛暑や台風の猛威など気象にまつわるニュースで溢れる今年の夏、もう1つのトピックは物価高騰だ。民間調査会社「帝国データバンク」が食品メーカー195社を対象に行った調査によれば、9月に値上げする食品は前年同月に比べ0.6%多い1422品目に上る。前年を上回るのは9カ月連続というのだから、2025年は国民生活に毎月打撃があることになる。11月までに値上げする食品は2万品目を超える見通しだ。
事態が悪化しているにもかかわらず、政治の動きは緩慢と言える。2カ月ほど前を思い出せば、与野党は競うように物価高対策のメニューを打ち出していた。自民党は「物価高騰下の暮らしを支えるため、税収の上振れなどを活用し、子供や住民税非課税世帯の大人の方々には一人4万円、その他の方々には一人2万円を給付します。マイナンバーカードの活用により、手続きの簡素化、迅速化に努めます。」と公約した。
石破茂首相(自民党総裁)は7月2日、毎日新聞のインタビューで国民一律の現金給付に関し「年内には当然開始する」と明言し、参院選中には「速くなければ意味がない。実現したが1年後でしたみたいなことにはならない」と繰り返した。
自民党の森山裕、公明党の西田実仁両幹事長は7月29日に会談し、公約実現に向けた制度設計をそれぞれの政調会長に指示する方針を確認したが、今頃になって所得制限を設ける方向で検討することになったという。それも実現するかどうか分からない石破政権下での経済対策を指示するというのだから驚きだ。
補正予算案の審議はおろか、臨時国会すら開かれていない
たしかに先の参院選の結果、少数与党になった石破政権は野党の協力を得られなければ政策は実現できない。だが、国権の最高機関である立法府が十分に機能していない状況は異常だろう。物価高騰対策を裏付ける補正予算案の審議はおろか、臨時国会すら開かれていない状況なのだ。これには衆参で多数となった野党にも責任がある。
先の参院選で、野党は「給付」ではなく、「減税」が必要であると訴えた。立憲民主党と日本維新の会は消費税の「食料品0%」(2年)を掲げた。立憲は1人2万円の現金給付も掲げていたはずだ。社民党、日本保守党も「食料品0%」の立場だった。
消費税を「5%」にすると訴えていたのは、国民民主党と共産党。国民民主は実質賃金が持続的にプラスになるまで一律5%に下げ、共産党はまず5%に引き下げてから「廃止」とした。れいわ新選組は「消費税廃止」と現金10万円給付を訴え、参政党は消費税の「段階的廃止」を掲げた。
新税導入を検討しているという自民党
衆院でも参院でも少数与党になった石破政権に対しては、野党が一丸となって「減税」を突きつけていけば最終的に飲まざるを得ない。だが、与党も野党も本腰を入れてやるつもりが感じられないのだ。
立憲民主党の野田佳彦代表は7月21日の記者会見で「10月1日からでも実施みたいな成功体験をもちたい」と述べ、ガソリン税の暫定税率廃止を目指す意向を示していた。8月1日には与野党6党の実務者がガソリン価格を引き下げる措置の協議をスタートさせ、自民党を含めた与野党は暫定税率の年内廃止で合意した。野党側は11月からの廃止に向けた動きを見せており、ついに「民意」が政治を動き出したかと思わせた。
だが、自民党側は暫定税率廃止に伴う減収を賄う必要があるとして、代替財源を探すのに時間がかかるとの立場だ。暫定税率は廃止するものの、他の税目で課税する「新税」を導入することも検討しているという。
言うまでもなく、ガソリン税とは、揮発油に課されている「揮発油税」と「地方揮発油税」の総称だ。本来の課税額(1リットルあたり28.7円)に暫定税率(1リットルあたり25.1円)が上乗せされている。
ガソリン減税、実現する責任があるはずだ
ガソリン価格が高いのは、合わせて1リットルあたり53.8円の税が乗っているためだ。この暫定税率部分がなくなれば、1世帯(2人以上)あたりの年間ガソリン購入費負担は1万円程度低くなると試算されている。一方、ガソリン税の暫定税率を廃止すれば1兆5000円の減収となる。
おやおや、と驚いてしまうのは参院選であれだけ実現を訴えていたにもかかわらず、その具体策が詰められていなかったことだ。言うは易く行うは難し、ということも理解はするが、立憲や日本維新の会、国民民主、共産、参政、日本保守、社民の野党7党は先の通常国会で廃止法案を提出していたはずだ。参院選で「民意」が得られたということならば、早速実現する責任があるというものだろう。
参院選で躍進した国民民主党の玉木雄一郎代表は「秋に基礎控除を上げれば年末調整に間に合う」として所得税減税を目指し、躍進した参政党の神谷宗幣代表も「減税をやって経済を回す」と大胆な経済政策の必要性をうたっていたはずだ。せっかく、野党が衆院と参院で多数派を形成できるのに選挙から2カ月近く経っても前進していないというのは残念でしかない。
「最大の障害」は、言うまでもなく石破政権
先に触れた通り、物価高は何も今になって始まったわけではない。しかも、これからも上昇していくことが見込まれている。今までの分を手当てし、これからの物価上昇に国民生活が耐えられるだけのサポートをするのが政治の責務であるはずだ。
その「最大の障害」となっているのは、言うまでもなく石破政権の存在なのではないか。9月に入ってから石破首相が物価高騰対策のため経済対策の検討を指示すると報じられたが、あまりにも遅すぎる。何より、野党は石破政権の延命につながるような連携を拒否しており、与野党が一致して強力な経済対策を断行することは期待できない状況にある。
だが、7月20日投開票の参院選後に政権与党・自民党が何をしていたかと言えば、「石破おろし」という権力争いだけだ。首相の座から引きずり下ろし、幹事長を始めとする党役員・閣僚たちを一掃するためのコップの中の争いである。
たしかに消費税減税・廃止に否定的な姿勢を重ね、国民の不評を買った現金給付を打ち出したのは石破政権である。「石破やめろ」という党内の声は日増しに勢いを見せているが、首相は9月2日にも続投することに意欲を示した。
総裁が変わったところで日本は変わるのか
こうした権力の座に固執する姿勢は参院選での「民意」を考えれば、障壁でしかない。各種世論調査では首相が辞任する必要がないとの回答が多いものの、冷静に見れば「続投したところで、何かしてくれるの?」ということである。
ただ、忘れてはならないのは仮に石破首相が辞任し、新たな自民党総裁が誕生したとしても消費税減税・廃止に否定的だったり、減税そのものに慎重だったりすれば誰が自民党のトップに立とうとも変わらないということだ。自民党内にも積極財政派、減税派は一定数存在しているものの、それが自民党の正式な方針・公約となるかは未知数と言える。結局のところ、自民党そのものが変わらない限り、参院選で示された「民意」を反映するのは難しいのではないか。
自民党政権は減税に後ろ向きであるとの見方が強い。他国に対する支援には巨費を投じることに精力的である一方、国民生活に打撃を与える事態が生じても補助金は出しても減税には慎重だった。自民党内の政局、コップの中の争いは国会審議を遅らせ、国民を愚弄していることに気づくべきだろう。何も変わらないのであれば、選挙での「民意」は意味を失う。