総裁選レース開始!竹中平蔵「小泉さんに期待します」給付含む減税を提言…明確なビジョンと大義を持っているかどうかだ

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 昨年の衆院選、今年の都議選に参院選と大きな選挙で3連敗した石破茂政権。国民から明確にNOを突きつけられた形だが、それでも石破総理は総理の椅子に長々としがみついた。そんな中両院議員総会が開催され、森山裕幹事長は総会の場で幹事長を退任し、進退を石破総理大臣に預ける考えを示し、石破総理大臣がその場で預かると発言した。が結局、石破総理は9月7日、ついに辞任することを自らの口で発表した。今後政権は一体どうなっていくのだろうか。経済学者の竹中平蔵氏は「政治の停滞は、我々の生活に直結する課題にも深刻な影響を及ぼしています」と指摘する。「本来であれば、日本の未来を左右するような重要な政策課題が山積しているはずなのに、その議論が国会から全く聞こえてこない」。これまでの石破政権の問題点とは何なのか。竹中平蔵氏が解説するーー。

目次

自分に直接の責任がなくとも責任を取るのが当然

 今、日本の政治が止まってしまっています。政策に関する本質的な議論は聞こえてこず、時間だけが過ぎていく。この国は今、深刻な「政治の停滞」に陥っています。

 本来、組織のトップというものは、たとえ自分に直接の責任がなくとも、結果が出なければ責任を取るのが当然です。しかし、今の政権からはその覚悟が見えてきません。なぜ、このような事態が許容されてしまったのか。それは、政治を動かす側にも、それを見る我々国民の側にも、根深い問題があるからに他なりません。

 一つは、政治家が「大義」を失ってしまったことです。社会の秩序を維持し、国を前に進めるという大義ではなく、自分の身にとって「得か損か」だけが行動原理になっている。野党も、本来であれば内閣不信任案を突きつけて政権に信を問うべき局面で、それを行わない。結局、与野党ともに自らの都合を優先し、本来果たすべき役割を放棄してしまっているのです。

 そしてもう一つは、我々国民が物事を深く考えず、表面的な「印象」だけで判断する社会になってしまったことです。例えば、石破総理がTICAD(アフリカ開発会議)で各国首脳と握手をする姿が報道されれば、何となく政権が動いているように見えてしまう。しかし、その実態は、官僚がずっと以前から決めていたことを、ただ発表しているに過ぎない。日本が810億円におよぶ支援を発表したのも、最初から決まっていたことです。そんな政策の実態を伴わないパフォーマンスに、一喜一憂してはいないでしょうか。

石破総理はこれまでに何を成し遂げたのか

 この政策不在の時代は、極めて異常です。本来であれば、日本の未来を左右するような重要な政策課題が山積しているはずなのに、その議論が国会から全く聞こえてこないのです。

 石破政権に欠けていたのは、突き詰めれば「レガシー」を遺すという気概です。

 例えば、菅義偉さんは、デジタル庁を創設するという明確なレガシーを遺しました。小泉純一郎さんは、言うまでもなく郵政民営化です。為政者とは、後世に何らかの足跡、つまりレガシーを遺すことで、その評価が定まるものです。

 翻って、石破茂さんはどうでしょうか。彼が総理として、あるいはこれまでの大臣経験の中で、何を成し遂げたのか。残念ながら、私には明確なレガシーが思い浮かびません。地方創生を主要政策に掲げましたが、結果として地方が本当に創生されたとは言えないでしょう。「アジア版NATO」構想や日米地位協定の見直しといった威勢の良い言葉もありましたが、それらが具体的に形になることはありませんでした。

 政治家の言葉の重みは、その人が何を成し遂げてきたかという実績、すなわちレガシーに裏打ちされて初めて生まれます。実績なき言葉は空虚に響くだけであり、国民の心を動かすことはできません。政治が停滞する根源には、このレガシーなきリーダーシップの問題があるのです。

減税も給付金も実行できなくなっている

 こうした政治の停滞は、我々の生活に直結する課題にも深刻な影響を及ぼしています。

 例えば、コメの価格の問題です。政府はこれまで備蓄米を放出するという短期的な緊急政策で価格を抑えてきました。それは短期的にいい政策ですがが、すでにその効果は切れてしまいました。本来であれば、長期的ば農業政策を議論するべきでしょう。日本の農業の構造そのものに踏み込む、つまり「減反政策」の抜本的な見直しといった議論です。しかし、そこには農水族の重鎮議員や巨大な利権団体が壁として立ちはだかり、本質的な議論は封殺されてしまう。これもまた、目先の利害が優先され、国家的な大義が見失われている典型例です。

 さらに言えば、今の政治状況では、国民に約束した減税、もしくは給付金といった政策さえ、実行できなくなっています。選挙で政党が公約に掲げたにもかかわらず、いまだに実現の目処は立っていません。与野党が対立し、予算を通すことさえままならない。

「給付を含む減税」を

 これも、政治家たちが「損得勘定」ばかりで動き、国民生活を前に進めるという大義を共有できていないことの何よりの証拠です。本来であれば、なぜ減税が必要なのか、財源はどうするのか、給付は本当に困っている人に届けるべきではないのか、といった政策の中身を真剣に議論すべきなのに、それさえ行われないのです。

 私は今の状況を打開するためには「給付付き税額控除」を実施するしかないのではないかと思っています。今、世間では、「減税か給付か」という二者択一の議論になっています。しかし給付を含む税制改革を行えばいいのです。別の言い方をすれば、給付を含む減税です。給付付き税額控除はマイナンバーシステムがある今、技術的には十分可能です。給付はした上で、人によって控除額を年末に調整するものです。

 そもそも本当に必要なのは、低所得者を対象とした的確な支援のはずです。消費税を減税しても、生活に困っている人たちにはあまり効果がありません。低所得者層は税金をあまり払っていいなからです。消費税というのは逆進性(低所得者ほど負担が大きくなる性質)があり、消費税を下げたら、高い消費をしている高所得者に有利になります。だったら給付すればいいのかといえばそういうわけではありません。高所得者に2万円を給付しても意味がないからです。だからこそ、給付付き税額控除なのです。

小泉さんには期待しています

 ぜひこうした議論も進めてもらいたいところですが、政治が停滞し、何も進もうとしていません。

 では、どうすればこの停滞を打ち破れるのか。次期総裁選をめぐり、何人かの名前が挙がっています。小泉進次郎さんのような若い世代に期待する声もあります。私自身も小泉さんには期待しています。しかし、誰がリーダーになるかということ以上に重要なのは、そのリーダーが日本の未来に対する明確なビジョンと、それを断行する覚悟、すなわち「大義」を持っているかどうかです。

 目先の損得勘定や、国民への耳当たりの良い言葉ばかりを並べる政治では、この国は沈んでいくだけです。時には痛みを伴う改革であっても、それが国家の将来のために必要であるならば、国民に正直に語り、実行する。それが真のリーダーシップではないでしょうか。

自民党は本当に責任政党なのか

 石破さんは、自民党は「政権を担う責任政党」であるがゆえに、「政治的空白を作ってはいけない」と継続する理由を主張していましたが、むしろ辞めなくてはいけない状況なのにグダグダと続けてしまったことで結局「政治的空白」を生んでしまっていました。それに「自民党は責任政党だ」と主張しながら、残念ながら不勉強な元タレント議員などに大臣ポストを渡しました。国を運営する責任を本当に果たそうとしているのか、国民が石破さんの言葉に疑問に思っても無理はありません。

 これは自民党から派閥がなくなった影響も大きい。良くも悪くも、かつての派閥には若手議員を指導し、一人前の政治家に育てる教育機能がありました。それがなくなり、今は誰も「教えてくれない」状況になっているのです。全員が個人商店のようになり、党としての一体感や規律が失われ、ますます責任政党としての役割を果たせなくなっています。結局のところ、今の政治家たちに欠けているのは、この国をどうしたいのかという哲学と、それを断行する覚悟、そしてその声をまとめるシステムです。

 政治家も、そして国民一人ひとりも、目先の利益や感情的な好き嫌いから一度離れ、この国が直面する不都合な真実と向き合うべき時です。大義ある政治を取り戻さない限り、日本の未来はないでしょう。

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