党内最大の減税否定派「麻生太郎自民最高顧問の暗躍」進次郎、高市を両天秤に…「国民不在の老獪さを露呈」総裁選のカギ握る

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 石破茂政権がついに終わる。昨年の衆院選、今年の都議選・参院選と大きな選挙で3連敗した石破氏は、党内外から責任を問われ、先日自ら総理の座から降りることを発表した。次の総理は一体誰になるのだろうか。そうした中で注目を集めるのは自民党最高顧問の麻生太郎元首相の動向だ。経済誌プレジデントの元編集長の小倉健一氏は「世紀以上にわたり日本の政治に大きな影響を及ぼし続けている」と指摘する。一方で「国民不在の老獪さを露呈している」と批判する。小倉氏が詳しく解説していくーー。

目次

進次郎、高市を両天秤に

 自民党最高顧問の麻生太郎元首相は、半世紀以上にわたり日本の政治に大きな影響を及ぼし続けている。

 2025年現在、80歳を超えた麻生は、戦後日本の政治史を体現する存在である。麻生の長きにわたる政治キャリアは、一部から老害の象徴と見なされている。多くの実証データを検証すれば、経済成長の鍵は、減税とムダ遣いの撲滅にあることは明白である。国民の負担を軽くし、民間の活力を引き出す王道ということだが、麻生氏の行動はこれら全てに否定的に見える。

 かつて消費税増税を推進し、歳出を社会保障の名目で膨張させ、規制を維持する麻生氏のスタンスは、国民生活を圧迫する。麻生氏は自身の行動を巧妙に隠蔽し、党内権力闘争の道具に変えてきた。2025年9月、石破茂政権下で石破おろし運動を主導した麻生氏の姿は、国民不在の老獪さを露呈している。

 麻生氏の行動が国民から見えにくいのは、派閥とメディアの巧みな利用にある。2025年9月3日、麻生氏は自身が率いる派閥の研修会で総裁選の前倒しを要求し、石破おろしを主導した。麻生氏は9月5日に茂木敏充前幹事長と都内の日本料理店で3時間ほど会食し、党総裁選の前倒し実現に向けて協力を確認した。そして9月7日、石破首相は辞任を表明した。翌8日、麻生氏は山口県防府市での講演で石破退陣に触れた。麻生は講演で「まさか昨日、石破総理大臣が総裁を辞任するという話になると思ってもいなかった」と述べ、「どうせ言うなら、もう少し早くから言ってくれればよかったのに、と思わないでもない」と語った。

 石破おろしの後、麻生はすぐさまポスト石破の選定に動き出した。麻生は前回総裁選で高市早苗氏を支持したが、今回は小泉進次郎氏を推す動きも見せており、両天秤にかけているとみられる。

経済政策の核心は、消費税増税の推進

 その背景についてデイリー新潮は<小泉氏も8月6日、国会内で30分以上、麻生氏と話し込んでいます。各候補、麻生氏の歓心を買おうと躍起なのですが、麻生氏が今、一番、買っているのは小泉氏です。麻生氏は小泉氏が直接、頭を下げに来たことに相当気を良くしているのです>と報じた。かつて推した高市との関係を残しつつ、若手の小泉を評価する姿勢は、派閥均衡と個人の好悪が複雑に絡む構図を浮かび上がらせている。次期総理候補の選定が政策論争ではなく、長老の気分や人間関係に左右される現実は、日本の政治の機能不全を端的に示している。

 麻生氏の経済政策の核心は、消費税増税の推進にあるとされる。減税は消費を刺激し、内需を活性化させる。麻生氏は減税に一貫して反対してきた。2025年9月3日の麻生派研修会で、麻生氏は野党が主張する消費税減税論を批判した。物価高騰で苦しむ国民を無視した発言であった。参院選によって民意は示されたのに、ガソリン減税は遅々として進んでいない。

減税反対を財政健全化という大義名分で覆い隠す

 麻生氏の影響力がここに及んでいるのは明らかである。過去を振り返れば、麻生氏の減税反対は財務大臣時代に顕著であった。2014年5月、麻生氏の諮問機関である財政制度等審議会は、税収が予想を上回っても歳出増や減税に回すべきではないと提言した。麻生氏はこの提言を支持し、景気浮揚策としての減税を封じた。新型コロナウイルス禍での補正予算編成でも、直ちにやる考えはないと歳出抑制を優先した。国民の購買力は削がれ、消費低迷が続いた。麻生氏の巧妙な点は、減税反対を財政健全化という大義名分で覆い隠すことである。メディアでは将来世代のためと美化される。実際は財務省との癒着である。

 歳出削減によってムダ遣いをなくすことは、財政を立て直すための土台であり、経済が健全に成長するための大切な条件である。国の予算には、不要な事業や効率の悪い支出が数多く含まれている。こうした非効率な部分を徹底的に取り除き、そこで浮いた資源を民間に回すことができれば、企業は新しい設備や研究に投資する余裕を持ち、経済活動が活発になる。その結果、雇用の拡大や所得の増加にもつながり、社会全体の豊かさを押し上げる。つまり、ムダを削ることは単なる節約ではなく、未来の成長を引き出すための投資でもある。

支出を削れば必ず既得権益層から強い反発が起きる

 民間が主導する経済活動は、市場での競争を通じて効率と生産性を高める力を持つ。自由な競争は、コストを抑える工夫や、より優れた商品やサービスを生み出す原動力となる。政府(公共部門)が主導する経済はどうしても硬直的になりやすく、効率が下がる傾向があるのに対し、民間は需要に応じて柔軟に対応できる。長期的に見れば、この仕組みが国民一人ひとりの生活水準を押し上げ、暮らしを安定させる。だからこそ、国は思い切って無駄な支出を削り、資源をできるだけ民間に振り向ける必要がある。

 しかし現実には、麻生太郎氏をはじめとする自民党の政治家たちは、党内の融和を優先し、また短期的な支持基盤の維持を重んじるあまり、歳出削減に消極的な姿勢を示してきた。これは麻生氏に限らず、自民党全体に共通する傾向といえる。なぜなら、支出を削れば必ず既得権益層から強い反発が起きるからだ。公共事業や補助金を減らすとなれば、その事業で利益を得ている業界や、それに依存している地域の団体から不満の声が噴き出す。政治家にとっては国民全体の利益を優先するよりも、身近な支援団体の声に耳を傾けるほうが得策に見えてしまう。こうした短期的な政治判断が繰り返されることで、本来必要な改革はいつも中途半端に終わり、抜本的な改善は先送りされるのである。

国民はすでに重い税負担を強いられている

 国民はすでに重い税負担を強いられている。所得税や消費税、社会保険料など、家計から出ていくお金は年々増えているにもかかわらず、行政の非効率やムダ遣いが放置されている現状を目にすれば、不満を抱くのは当然である。国民が汗水流して納めた税金は、本来であれば生活を支える政策や将来の成長につながる投資に使われるべきなのに、実際には特定の業界や団体に偏って配分されることが多い。納税者にとっては「なぜ自分たちの犠牲が、一部の既得権益を守るために使われるのか」という疑問が強まるばかりだ。

 こうした状況を変えるには、徹底した歳出の見直しが欠かせない。行政の無駄を洗い出し、効果の薄い(というか、ほとんどのケース、効果のない)補助金や不要不急の公共事業を縮小し、浮いた資源を成長分野や国民生活に直接役立つ分野に回すことが重要である。改革を進めれば一時的に反発は避けられないだろう。だが、短期的な不満に怯えていては、いつまでも財政の健全化は実現せず、経済の成長も停滞したままである。政治が必要なのは、長期的な視点に立って資源配分を最適化する勇気であり、その覚悟が国全体の未来を決める。

麻生派影響力下で日本経済の再生はあるのか

 民間の力を最大限に引き出し、市場主導の成長を促すことができれば、日本経済は新たな活力を取り戻せる。競争が新しい技術やサービスを生み出し、それが国民の暮らしを豊かにしていく。この循環を取り戻すことが、真の意味での財政再建であり、持続的な成長戦略でもある。政治家が既得権益の保護にとらわれ続ける限り、日本の再生は遠のく。だからこそ、勇気ある決断と徹底した歳出削減こそが、国民の未来を切り開く道となるのである。

 日刊スポーツの「政界地獄耳」と題されたコラム(9月10日)は、麻生の権力維持への執着を厳しく断罪している。コラムは<首相経験者で派閥解消を決めた党で唯一派閥を残すというわがままを許し、昭和政治から抜け出せない麻生に対して、なぜ党最高顧問などというポストを与えるのか>と疑問を呈し、<「財務相時代から財務省を守り抜き、物価高などどこ吹く風でやってきたおじいちゃんが、まだ権力で遊んでいる」と国民からの風当たりも強い>と指摘する。

 麻生太郎氏の行動は、減税、歳出削減、経済成長を阻む三重苦である。80歳を超えでも、国民生活を顧みず、党内権力を優先する。2025年の物価高で苦しむ国民に、減税の光を当てるべきだ。石破政権の不安定さは、麻生の陰謀の産物である。麻生派の維持や政権への影響力行使が続く限り、日本経済の再生は望めない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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