小泉進次郎が出馬意向→総理が変わっても国民の生活は良くならない…病んでいるのは自民党全体の「バラマキ&増税」経済政策

石破茂総理大臣は、アメリカの関税措置をめぐる対応に区切りをつけたとして、辞任の意向を表明した。そして、小泉進次郎氏が自民党総裁選に立候補の意向を示したと各メディアが一斉に報じるなど、総裁選レースが本格化している。しかし、首相が代わるからといって、日本経済の根本的な課題が一夜にして解決するわけではない。これまで繰り返されてきたように、現金給付や公共事業に代表される“ばらまき型”の政策は短期的な安心感を与えるにすぎず、持続的な成長をもたらすことはできない。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は、「求められるのは、将来を見据えた構造改革を語るリーダー」と語るとともに、今後の日本が歩むべき針路は、市場主導の経済政策へと大きく舵を切れるかどうかにかかっていると指摘する。
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“石破辞任”に沸いた市場心理 株価は素直に上昇
9月7日、石破茂首相は辞任の意向を表明した。就任から約1年のことであった。7月の参議院選挙における与党の敗北が、辞任の直接的な引き金となった。この報を受け、株式市場では株価が上昇した。石破首相よりも、新しいリーダーへの期待感が市場心理を動かしたように見える。とはいえ、自民党内での首相交代が、国民一人ひとりの生活を即座に改善するわけではない。
政治の刷新が、必ずしも実体経済の好転に直結するわけではないからだ。石破政権が推進した経済政策は、政府が積極的に財政支出し、国民の消費を刺激する手法、すなわちケインズ主義と呼ばれる経済思想に根差している。具体的には、秋の経済対策として現金給付の実施が計画されていた。他にも「地方創生」「国土強靭化」「半導体支援」などの名目で、政府支出によって有効需要を創出し、経済全体の活動水準を引き上げようとしてきた(=国がお金を出して買い物やサービスの動きを増やし、経済を活発にしようとした)。
多くの実証データによる研究は、ケインズ主義的なアプローチの長期的な有効性に疑問を投げかけている。財政出動による景気刺激策が短期的な効果しか持たない可能性を指摘している。一時的に経済指標を押し上げる力はある。長い目で見ると、政府債務の累積という深刻な副作用を伴う。国家の借金が増え続ければ、将来世代への負担が増加する。将来の増税や社会保障の削減といった形で、国民生活に重くのしかかることになる。
ケインズ主義の効き目とは?政府支出1%増加で“GDP2.2%押し上げ”の実証
実証データによる研究とは、個人の感想や抽象的な理論、経済の教科書にある政策などではなく、過去の経済で実際に起こった事実や数字を収集し、統計学的な手法で科学的に分析するアプローチである。政策の効果を客観的に判断する上で、このような証拠に基づく分析は不可欠である。減税と歳出削減を中心とする政策がなぜ日本の将来にとって望ましいのかといえば、多くの成功例が積み重なってきたためである。実証データを大事にすれば、東大の先生がこう言っているから、有名なエコノミストが主張しているから、教科書にあるからなどという、何かの権威に頼った政策を実行しなくて済むようになり、政府の間違いが減る。
石破首相の辞任は、日本の経済政策の方向性を、こうした科学的な根拠に基づいて見直す絶好の機会である。日本経済を再活性化させるためには、新しい経済運営の原則を確立する必要がある。
ケインズ主義は、政府が市場に介入し、公共事業や給付金を通じて総需要を管理する経済思想だ。不況期に政府がお金を使うことで、民間の消費や投資を誘発し、失業者を減らすことを目指す。短期的には経済を活気づける効果が確認されている。ÖztaşkınとKaraによる2022年の実証データ分析は、G20構成国を対象に行われた。政府支出が1%増加すると、国内総生産(GDP)が2.243%増加するという結果が示された。政府の支出が経済規模を拡大させる乗数効果を持つことを示唆している。
ケインズ政策の根本的な問題は、持続性の欠如
しかし、この効果は永続的ではない。ケインズ政策の根本的な問題は、持続性の欠如にある。政府による資金のばらまきは、財源の問題を無視できない。財源は税金か国債発行によって賄われる。財政赤字が拡大し続ければ、国の信用は低下し、金利が上昇するリスクが高まる。最終的にはインフレーションを誘発し、国民が保有する資産の価値を目減りさせることにもつながる。
過去の歴史は、ケインズ主義的な政策の失敗事例を数多く記録している。日本は1990年代に深刻な経済停滞を経験した。失われた10年と呼ばれるこの時期、政府は大規模な公共事業を次々と実施した。景気回復の起爆剤となることを期待した。結果は芳しくなかった。
“失われた10年”が示す教訓ーー公共事業は成長を生まなかった
GDP成長率は年平均でわずか1.2%にとどまった。前の10年間の成長率から3%ポイントも低下した。政府の借金は2倍以上に膨れ上がった。RascheとThorntonの2001年の研究やLeeの2011年のデータ分析は、この時期の財政政策が非効率であったことを示している。巨額の資金が投じられたにもかかわらず、生産性の向上にはつながらなかった。日本経済は長期にわたる停滞の泥沼にはまり込んだ。
多くのデータ分析研究は、ケインズ政策が長期成長に寄与しない、あるいはむしろマイナスの影響を与える可能性を示唆している。需要刺激策はあくまで一時的なカンフル剤に過ぎない。経済の構造的な問題を解決する力はない。石破政権が計画した現金給付策も、同様の道をたどる危険性をはらんでいる。国民に一時的な安心感を与えるかもしれない。日本の経済が抱える根本的な課題、すなわち低成長と人口減少という構造問題の解決にはつながらない。
借金とインフレのダブル圧力…国民生活を直撃する未来
政権が交代した後も同じようなケインズ主義的な政策が継続されれば、日本の財政はさらに悪化する。増え続ける借金と物価上昇の圧力は、いずれ国民生活を深刻に脅かすことになる。市場の自律性を重んじる経済思想は、ケインズ主義とは対照的な処方箋を提示する。市場の効率性を信頼し、政府の役割を限定的に捉える。
経済成長の源泉は、個々の企業や家計の自由な経済活動にあると考える。政府がすべきことは、民間部門が能力を最大限に発揮できる環境を整備することである。具体的には、減税、歳出削減、規制緩和が政策の三本柱となる。税金の負担を軽くすることで、企業は投資を拡大し、個人は消費や貯蓄を増やす意欲を高める。政府の支出を切り詰めることで、財政赤字を削減し、将来の不確実性を低下させる。不要な規制を撤廃することで、新規事業の参入を促し、競争を通じて経済全体の効率性を高める。自己の判断と責任のもとで最適な選択をすることが、結果的に全体の幸福につながるという思想である。
市場主導の経済政策の有効性は、多くの国々の経験によって裏付けられている。Chariらが2021年に行った新興国に関する実証データ分析では、インフレーションを抑制し、貿易の自由化を進めた国々で、GDPが2.6%から2.66%増加したことが示された。
規制緩和の効果は絶大 早期断行国は一人当たりGDP30%高
安定したマクロ経済環境と開かれた市場が、企業の投資意欲を刺激した結果である。
Stankovが2010年と2015年に行ったデータ研究は、70カ国以上のデータを分析している。規制緩和を早期に断行した国は、そうでない国に比べて一人当たりGDPが30%も高くなるという結論を導き出した。政府の介入を減らすことが、資源の効率的な配分を促し、持続的な成長を実現することを示している。
ChariらやStankovの研究をはじめ、多くの実証分析が、減税や規制緩和といった供給側政策が長期的な経済成長に有効であることを示している。減税は企業の投資を促進し、技術革新のインセンティブとなる。歳出削減は、非効率な公共部門から効率的な民間部門へと資源を再配分する効果を持つ。政府の市場への干渉が減ることで、経済全体のダイナミズムが高まる。
バラマキでは未来は開けないーー求められるのは構造改革を語るリーダー
石破政権の政策にも、一部の税制改正など評価すべき点があったかもしれない。全体として見れば、現金給付のような需要刺激策に偏りすぎていた。次期政権は、この路線を転換し、本格的な減税と歳出削減に舵を切るべきである。大胆な供給側改革を実行すれば、新たな雇用が生まれ、国民の所得が増加する道が開かれる可能性がある。
石破茂首相の辞任は、日本の政治における一つの節目である。国民生活の真の向上を実現するためには、政治のリーダーが変わるだけでは不十分である。経済政策の基本思想をケインズ主義から、減税と歳出削減を軸とする市場主導の考え方へと転換する必要がある。
提示された実証データ研究と各国の事例は、減税と歳出削減こそが持続的な経済成長を実現するための鍵であることを明確に物語っている。次期総裁選挙では、候補者たちがどのような経済ビジョンを提示するのかが問われる。目先の利益を約束するばらまき政策ではなく、将来を見据えた構造改革を語るリーダーが求められる。国民一人ひとりも、政治家が掲げる経済政策の本質を、客観的なデータに基づいて見極める必要がある。日本の未来は、政府の介入に頼る経済ではなく、自由な市場と民間の活力によって築かれるべきである。