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「現代のアヘン戦争」フェンタニル問題とTikTok売却で米中関係はどうなる…米中の軋轢が引き返せなくなるタイミングを見極めるためのキーポイントは台湾

 米中関係が緊張する中、9月19日に米中首脳電話会談が実施された。そこで、TikTokの米国事業の売却が決まった。一見、米中関係が緩和したかのように見えるが、国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は「両者の軋轢は今後も止まることはない」と指摘するーー。

 みんかぶプレミアム連載「渡瀬裕哉の常識革命」

目次

米共和党にとっての中国問題

 米中貿易交渉においてTikTokの米国事業の売却が決まった。その他、米中貿易交渉については、表面上の情報発信だけなら進展があったように見えるが、それはどこまで本当なのだろうか。そこで、今回は米中貿易交渉の本質について触れていくことにする。

 米国側の米中貿易交渉に関する優先事項とは何だろうか。2024年大統領選挙・連邦上下両院議会議員選挙で掲げられた共和党のプラットフォーム(政策方針)を確認してみよう。

 中国に関して名指しで言及している箇所は下記の通りだ。

「中国からの戦略的独立の確保:共和党は中国の最恵国待遇を撤廃し、重要物資の輸入を段階的に廃止し、中国による米国不動産・産業の買収を阻止する」

 共和党にとっての中国問題とは、サプライチェーンや米本土における活動への対処がメインとなっている。同政策方針には、貿易問題、フェンタニル問題、サイバー攻撃問題など、中国が関連している問題も山ほど記載されているが、そのいずれのケースも自国本土に対して問題が発生することに対しての受動的なアクションが明示されているケースが多い。

 米国共和党の特徴は敵に直接的に国土を攻撃されない限り、その国に対する対処に本腰を入れないという点にある。その代わりに9.11のように自国本土が明確に攻撃されると、異常な反応を引き起こして大規模な戦争に踏み切ることもある。

フェンタニル問題は「現代のアヘン戦争」と呼ばれている

 第二次トランプ政権において中国に対する初手の対応は、フェンタニルの蔓延について中国の対応が不十分である、という理由で追加関税を課すものであった。共和党にとっては、中国及び同国犯罪組織が関連したフェンタニル問題は現代のアヘン戦争と呼ばれており、直接的に米国本土の安全を脅かす最重要な事項だからだ。

 その後、米中は高関税をかけ合うエスカレーションが発生し、現在は小康状態となっている。貿易問題は米国の雇用を奪うという文脈で「攻撃」と捉えることもできるが、誰が見ても直ぐに分かる攻撃の明白性という観点からいまいちパンチが弱い。そのため、この点については今後も二転三転する可能性が高い。

 一方、中国からの留学生受け入れ拒否や中国資本による不動産投資(特に農地など)拒否などの対処は明瞭に行われつつある。これは誰でも目に見えて分かる形の侵略であるため、安全保障上の問題として理解しやすく、共和党としては対処しやすいタイプの問題だからだ。

米中のSNS事業を巡る軋轢はこれでは終わらない理由

 冒頭のTikTokの米国事業の売却問題は米本土の安全を優先するという政策方針のシンボリックな事案である。TikTokにはサイバーセキュリティー上の問題が指摘されているが、トランプ政権にとって関心があることは「米国本土上での安全性のみ」である。したがって、中国共産党とTikTokの米国事業さえ切り離せば一旦は満足という評価が与えられる。実に分かりやすい反応だ。

 ただし、筆者の見立てでは米中のSNS事業を巡る軋轢はこれでは終わらないと考える。

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この記事の著者
渡瀬 裕哉

1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。2016年トランプ大統領当選、2020年民主党による大統領・連邦上下両院勝利を正確に予測し、米国政治に関する分析力に定評がある。『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 』(すばる舎)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)

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