元モルガン銀行東京支店長が指摘“日本円が紙くずになる”可能性に現実味か「バラマキと減税」という甘い罠に騙される国民に警鐘

自民党総裁選で高市早苗氏が勝利し、「高市政権」誕生の可能性が高まっている。市場は株高・円安でこれを歓迎しているように見えるが、元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏は、この光景こそ日本経済崩壊の序曲に他ならないと強く警鐘を鳴らす。
高市氏が掲げる「バラマキと減税」は、英国を大混乱に陥れた「トラスショック」の再来になりかねず、異次元緩和の末に機能不全に陥った日銀にはこの暴走を止める術がないと憂慮する同氏。制御不能なハイパーインフレと「円の紙くず化」という破滅的な未来が現実味を増す中、我々が資産を守るために今すぐ取るべき行動とは何なのか。同氏に詳しく語っていただいた。全3回の第1回。みんかぶプレミアム特集「資本主義は人を幸せにできるのか」第1回。
目次
「高市政権」誕生で日本経済崩壊シナリオが加速か
自民党総裁選での高市早苗氏の勝利を受けて、「高市政権」誕生が事実上確実視されています。市場はこれを歓迎したかのように、日経平均株価は急騰し、為替は円安方向に一段と振れました。
多くの人々はこの「ご祝儀相場」に期待を寄せているかもしれません。しかし、私の目には、この光景はまったく違って映っています。これは、これから日本を襲う未曽有の経済カタストロフの序曲に他ならないのではないか、と思えてならないのです。
高市政権で「日本円が紙くずになる」可能性に現実味
このタイミングは、為替や長期金利に関して言えば、賢明な人々にとっての「最後の逃げ場」だったのではないか。そんな思いが脳裏をかすめます。残念ながら、多くの日本のサラリーマントレーダーたちは、この絶好の機会に決断を下せず、後で取り返しのつかないほどの大きな痛手を被ることになるでしょう。
なぜ私がここまで断言するのか。それは、来る高市政権がやろうとしていること、そして現在の日本経済と日銀が置かれている絶望的な状況を冷静に分析すれば、あまりにも明白な結論だからです。これから、なぜ円安が止まらなくなるのか、なぜハイパーインフレが避けられないのか、そして、そのXデーを生き抜くために我々は何をすべきなのか、私の考えを包み隠さずお話ししたいと思います。
「バラマキと減税」という甘い罠に騙される無知な国民
高市氏が掲げる経済政策の柱は何でしょうか。それは「バラマキ」と「減税」です。この組み合わせを聞いて、金融市場に詳しい方ならすぐにピンとくるはずです。そう、2022年に英国を大混乱に陥れたリズ・トラス元首相の政策と全く同じなのです。
トラス氏は、大規模な減税とエネルギー価格抑制のための巨額の財政出動を打ち出しました。財源の裏付けなきこの無謀な政策に対し、市場は即座に「反乱」を起こしました。英国債は暴落(金利は急騰)し、通貨ポンドは史上最安値まで売り込まれ、株価も急落しました。これが世に言う「トラスショック」です。財政規律を無視したポピュリズム政策が、いかに国の信認を破壊し、経済を危機に陥れるかを全世界に示した教訓的な出来事でした。
20年のデフレが生んだ「財政破綻を想像できない人々」の悲劇
さて、翻って日本の状況を見てみましょう。高市政権がやろうとしていることは、まさにこのトラス氏の政策の焼き直しです。しかし、市場の初期反応は奇妙なものでした。英国では株安が起きたのに、日本では株価が急騰したのです。これは一体なぜでしょうか。
私は、日本の株式市場がいまだに「国内市場」の論理で動いているからだと考えています。一種のムード、期待感だけで動く「イケイケどんどん」の空気が支配しているのです。為替市場はすでに世界の投資家が参加するインターナショナルな市場ですから、財政悪化を懸念して円を売るという、より冷静で合理的な反応を見せ始めています。しかし、株式市場は、目先の景気刺激策への期待だけを織り込み、その先に待っている財政破綻という巨大なリスクを完全に無視しています。
はっきり言って、これは日本のマーケット参加者たちの危機感の欠如の証左です。20年以上もデフレと低金利という「平穏無事」な時代が続いたせいで、国家財政が危機に瀕するというリアリティを想像できなくなっているのです。イギリスやアメリカで同じことが起これば、間違いなく株価は下落したでしょう。
世界が一斉に日本を見限る「Xデー」が迫っている
しかし、この楽観ムードがいつまでも続くわけはありません。高市氏が実際に組閣し、政府の方針として大規模な補正予算などを打ち出してきたとき、世界の投資家たちは日本の財政規律の崩壊を確信するでしょう。そのときこそ、「ミニ・トラスショック」では済まない、本格的な「日本売り」が始まるのです。