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右派ポピュリズムの“ガス抜き”トークに踊らされる人たちの残念な末路 ひろゆき的「自己責任論」が世論にウケるワケとは

(c) AdobeStock

 なぜ、これほど懸命に働いても私たちの生活は楽にならず、社会は閉塞感に覆われているのか。多くの人が「意味のない仕事」に疲弊する一方、物価や不動産価格は高騰し、将来への不安は増すばかりだ。経済思想家の斎藤幸平氏は、この「静かな絶望」の根源は、経済成長を至上命題とする現代資本主義の構造的欠陥そのものにあると指摘する。

 社会に不可欠な仕事ほど低賃金である一方、一部の富裕層による投機的なマネーゲームが社会のリソースを独占してしまうのはなぜなのか。なぜ人々の不満は根本的なシステム批判に向かわず、自己責任論や排外主義に吸収されてしまうのか。同氏に詳しく話を伺った。全3回の第2回。みんかぶプレミアム特集「資本主義は人を幸せにできるのか」第9回。

目次

右派ポピュリズムの“ガス抜き”トークに踊らされる人たち

 これほどまでに生活が苦しくなり、格差が広がれば、社会に対する人々の不満が高まるのは当然のことです。問題は、その不満の矛先がどこに向けられるかです。

 世界的に見られる傾向ですが、ここ日本でも、生活の困窮から来る怒りが、資本主義というシステムそのものではなく、特定のスケープゴートに向けられてしまう現象が起きています。これが「右派ポピュリズム」の本質です。

 例えば、都心の不動産価格高騰の問題。右派ポピュリズム的な言説は、「悪いのは不動産を買い漁る外国人、特に中国人だ」という単純な物語に飛びつきます。もちろん、海外からの投機マネーが流入している側面は否定しません。しかし、麻布台ヒルズに住んでいるのが皆中国人というわけではないように、問題の本質はそこにはありません。

 根本的な原因は、国籍を問わず、投機やマネーゲームを行う人々に構造的に有利なルールになっている、資本主義そのものにあるのです。それにもかかわらず、「外国人」という分かりやすい敵を設定することで、問題の本質は巧妙に隠蔽され、資本主義システムは温存されてしまいます。参政党の躍進などに見られるように、この傾向は日本でも顕著になっています。

なぜ日本では資本主義への怒りが“声”にならないのか

 今、私たちが本当に必要としているのは、こうした問題のすり替えに騙されることなく、資本主義が生み出す格差や環境破壊という根本原因に鋭く切り込む「左派ポピュリズム」の動きです。海外では、バーニー・サンダースやジェレミー・コービンのように、資本主義の問題を正面から問い質す政治家が一定の支持を集めました。ポピュリズムは、既存の政治が人々の声を代弁していないときに生まれる、ある意味では健全な民主主義のメカニズムの一環でもあります。

 しかし、残念ながら日本では、この左派ポピュリズムの動きが非常に弱いと言わざるを得ません。資本主義が生み出したアベノミクス以降の歪みにしっかりと立ち向かい、オルタナティブを提示する政治勢力が不在なのです。その結果、人々の不満は右派ポピュリズムに吸収され、排外主義的な空気が強まるという、非常に危険な状況に陥っています。

ひろゆき的「自己責任論」が世論にウケるワケ

 では、なぜ日本では左派的な変革の動きがこれほどまでに盛り上がらないのでしょうか。その背景には、私たちの意識の奥深くにまで根を下ろした、ある種の「思考停止」があるように思えます。

 今の日本社会を覆っているのは、「社会全体をどう変えていくか」という発想ではなく、「決められたゲームのルールの中で、いかに個人としてうまく立ち回り、ハックするか」という自己責任論的な思考です。2ちゃんねる創設者のひろゆきさんのような言説が広く受け入れられるのも、こうした土壌があるからでしょう。

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この記事の著者
斎藤幸平

1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism(邦訳『大洪水の前に』角川ソフィア文庫)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界10カ国で翻訳刊行されている。日本国内では、晩期マルクスをめぐる先駆的な研究によって「日本学術振興会賞」受賞。最新刊は、『マルクス解体』(講談社)。50万部を突破した『人新世の「資本論」』(集英社新書)で「新書大賞2021」を受賞。(プロフィール写真撮影:丸山光)

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