玉木財務相起用を検討⁉自民関係者「わざとポストを空けている」…経済アナリスト「高市ー玉木ラインが実現すれば株価急騰の可能性」

自民党の高市早苗総裁ら執行部が国民民主党の玉木雄一郎代表に対し、財務相での起用を検討していることが分かった。26年間続いた公明党が連立政権から離脱し、高市氏が首相に就任した場合には厳しい政権運営を強いられることが必至のため、党勢を伸長させてきた国民民主党の玉木代表を閣内に取り込んでいきたい考えだ。ただ、玉木氏は公明党の離脱によって「自民とうちを足しても過半数にいかない。これまでの連立の議論にほぼ意味はなくなった」としており、自民党サイドの秋波には慎重だ。日本維新の会が連立入りを視野に自民党と政策協議を始めることも影響するとみられる。経済アナリストの佐藤健太氏は「積極財政派の『高市・玉木連立政権』が誕生すれば、株価は爆上がりする可能性はあるものの簡単ではない」と見る。はたして、混沌とする政局の先には何が待ち構えているのか――。
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自民関係者「国民民主が連立に加わる可能性は十分にある」
「自民党、公明党との関係でいうと昨年12月11日の3党幹事長で結んだガソリンの暫定税率廃止、そして『年収の壁』(見直し)の約束がまだ十分に果たされていない。この約束が果たされれば信頼関係もできるから、その先の連携パターンやあり方もさらに広く深くなると思うが、まずは約束をしっかり守っていただけるか。これは高市氏の党首会談でも確認したい」。国民民主党の玉木代表は10月15日のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」で、司会者から自民党との連立について問われ、このように意味深長な言葉を残した。
玉木氏や榛葉賀津也幹事長ら国民民主党執行部は、これまでも自民党の麻生太郎副総裁らと交流を深めてきた。岸田文雄政権下でも一時は「国民民主が連立に加わる可能性は十分にある」(自民党関係者)と言われたほどで、最近も麻生副総裁は高市氏の「後見役」として榛葉幹事長と会談している。従来は「自民・公明・国民」の3党連立政権樹立を丁寧に模索してきたが、公明離脱によって安定政権の確立は喫緊の課題と言える。
なるほど、と思った人は「政治通」だろう。読売新聞は10月14日、高市氏が首相に就いた場合には閣僚人事で防衛相に小泉進次郎農林水産相、総務相に林芳正官房長官、外相に茂木敏充元幹事長を起用する方向で調整に入った、と報じた。高市氏は自民党政調会長に起用した小林鷹之氏を含め、10月4日投票の党総裁選で競った4人を要職に充てる意向とされている。
「わざと財務相ポストを空けている」
10月21日に予定される臨時国会での首班指名選挙に備え、閣僚の人選を進める高市氏は官房長官に木原稔前防衛相を起用する方針で、麻生副総裁のカラーが濃い鈴木俊一幹事長ら党執行部とともに挙党態勢を確立する考えだ。そこで気になるのは「高市内閣」の顔ぶれなのだが、首相の女房役である官房長官や外相・防衛相といった重要閣僚が“内定”しているにもかかわらず、高市氏の看板である「積極財政の要」となる財務相だけが報じられていないのである。
もちろん、首相就任前であることは理解できるところだ。ただ、それならば他の重要閣僚の名前が次々とメディアで報道されているのはなぜなのか。そこで、筆者が複数の自民党関係者に話を聞くと、自民党執行部サイドは国民民主党との連立政権樹立を目指して「玉木財務相」を検討していることが新たにわかった。つまり、玉木氏への就任要請を見据えて「わざと財務相ポストを空けている」ということなのだ。高市氏と玉木氏は10月15日に党首会談に臨み、こうした連立構想が話し合われた可能性もある。
自国政権実現への3つの壁
ただ、自民党と国民民主党が連立政権を組むためには、少なくとも「3つの壁」を乗り越えなければならない。1つ目は、2党だけでは安定政権を確立することができないという点にある。自民党の衆院での勢力は196で、過半数の233には37足りない。これに国民民主党の27を足しても223議席であり、なお10が不足することになる。自公連立政権下では220議席だったため3議席増えた形にはなるものの、自民・国民の2党連立が実現したとしても少数与党であることに変わりはない。
参院の方は自民党が100、国民民主(・新緑風会)は25で合計すると、過半数の125と同数だ。野党第1党の立憲民主党を除き、自民党が参院で過半数を確保するための連立相手としては国民民主党以外にない。ただ、衆院で少数与党のままでは厳しい政権運営を強いられることになる。
2つ目は、「連立後」にある。玉木代表が言及しているガソリン税の暫定税率廃止や「年収103万円の壁」見直しは、自民党総裁選ですべての候補者が実現に前向きな姿勢を繰り返していた。つまり、時期はともかく実現するのは既定路線と言って良いだろう。だが、これまで「手取りを増やす。」をスローガンに掲げてきた国民民主党の政策は2つだけではない。
消費税やインボイス制度の扱いはどうする
実質賃金がプラスになるまで消費税を一律5%に引き下げ、インボイス制度の廃止、「教育国債」創設し毎年5兆円発行する、などと公約してきた。玉木代表は、消費と投資を拡大する積極的な経済政策で2035年に名目GDP1000兆円を実現するとしている。
先に触れた通り、高市氏もガソリン税の暫定税率廃止や「年収103万円の壁」見直しを実現するのは問題ない。ただ、財務相を歴任した麻生副総裁や鈴木幹事長らが牛耳る自民党内を「消費税減税」「インボイス廃止」でまとめるのは容易ではないはずだ。
安倍晋三政権下のアベノミクスの継承者として「責任ある積極財政」を掲げる高市氏と国民民主党は一見すると連携しやすいように見えるものの、「税の根幹」部分で折り合うことは難しいとみられる。安倍首相(当時)が2014年11月に「国民生活にとって重い決断をする以上、国民に信を問うべきである」と消費税の再増税延期と衆院解散を表明したことを踏まえれば、消費税やインボイス制度の扱いを決めずに連立政権を樹立するのは「無責任」という誹りを免れないだろう。
国民民主も支持層離反の懸念
一方、国民民主党にとっても重要な部分を脇に置いたまま、安易に連立入りを果たせば支持層の離反を招きかねないというリスクを負う。昨年の衆院選、今年夏の参院選で順調に党勢を拡大してきたのは「非自民」の第3極に期待する人々が多いためだ。玉木代表はあくまでも「政策本位」を繰り返してきており、それが連立政権樹立のために「消費税減税」「インボイス廃止」という国民生活に直結する部分を“棚上げ”することがあれば、次の選挙で失望を買う恐れが生じる。
なにより、窮地に立った自民党はなりふり構わず、社会党とさえ連立政権を組んできた歴史があるが、その結果、自民党の相手は党勢が減退していったのも事実だ。野党のままであれば、次の選挙でも躍進することが予想される中で連立与党という「アメ玉」に飛びつくことには支持者からも疑問視する声があがる。
そして、3つ目は「政治とカネ」問題にある。公明党は連立離脱を決めた理由として、企業・団体献金の規制強化案に高市執行部が消極的な点をあげた。お金の流れを透明化するため、献金が受け取れる対象を7000超の政党支部ではなく、政党本部と都道府県単位の組織に限定する強化策だ。
マーケットは「次」を前向きに据えている
報道では「公明案」などと呼ばれているのだが、実はこの規制強化案は今年3月に公明党と国民民主党がまとめたものである。つまり、国民民主党が仮に連立入りを果たすならば、この規制強化案を自民党に飲ませる必要がある。これまた、「野党時代に合意したものだから関係ない」と言って棚上げしてしまうのであれば、あらゆる野党時代の主張や公約は意味をなさなくなり、国民の政治不信が増幅するのは必至だろう。
公明党の斉藤鉄夫代表は規制強化案をめぐり、政治資金規正法改正案を「できるだけ早く、次の臨時国会でも各党合意が得られれば成立させるべきだ」と語っており、「野党案をまとめることも1つの選択肢だ」と語っている。立憲民主党の野田佳彦代表も連携することに前向きとされ、国民民主党を含めた野党が共闘すれば改正案は可決、成立する。「政策本位」と言うならば、国民民主党はまずは政治資金規正法改正の実現を目指すべきだろう。
10月4日に高市自民党総裁が誕生し、金融緩和と積極財政が継続されるとの思惑から市場は「高市トレード」と呼ばれるほど熱気が渦巻いている。公明党の連立離脱や米中摩擦などを背景とする株価下落は見られたものの、マーケットは「次」を前向きに据えているのが大勢だろう。
高市は国民民主党を“丸飲み”できるのか
もちろん、高市氏の政策には批判も少なくない。財政規律への懸念やインフレ加速リスク、さらに靖国神社参拝をめぐる外交関係といったものが主だ。ここに国民民主党の玉木代表が本当に財務相として起用され、自民党と国民民主党の連立政権がスタートすることになれば、「日経平均株価は積極財政を好感し、5万円を楽に超えていく」と見る向きがある一方で、「第3極としての国民民主党は終わり、野党・参政党に支持が傾いていく」との声もあがる。
政界の一寸先は闇―。自民党の高市氏は日本維新の会との連立を視野に政策協議を始めることにしたが、これから国民民主党も“丸飲み”する連立カードを真剣に切っていくことはあるのか。そして、玉木代表は「消費税減税」「インボイス廃止」「政治資金改正の断念」といった根幹部分を棚上げして、これから連立入りを目指すことはあり得るのか。高市総裁の誕生から、予想もつかない展開を迎えそうな状況と言える。