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高市首相が招いた経済損失と「50万件のキャンセル」経済から見る「存立危機事態」の真実…経営視点で言えば明確なマネジメント・エラー

(c) AdobeStock

 日中関係がピリピリしている。ことの発端は高市早苗総理の「台湾有事」に関する発言だ。「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」。しかし、そもそも「存立危機事態」とは何か。なぜこれが問題視されるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏から経済の観点から斬っていく――。

目次

高市発言でマーケットと実体経済は残酷な反応を示した

 政治家の言葉は、時に株価を動かし、ビジネスの流れを変え、国民の生活を直撃する。とりわけ総理大臣の言葉となれば、その重みは計り知れない。

 先日の衆議院予算委員会で、高市早苗首相が放った「台湾有事」に関する発言が、今、日本経済に激震を走らせている。首相は、台湾周辺で中国軍が海上封鎖を行った場合、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と断言した。

 この勇ましい発言の直後、マーケットと実体経済は残酷な反応を示した。これが意味するものは何か。今回は、感情論やイデオロギーを抜きにして、冷徹な「数字」と「論理」だけで、高市政権が犯した致命的なミスと、私たち日本企業が取るべき道筋を分析する。

 まず、高市発言が引き起こした「経済的被害」を直視しよう。これらは未来の予測ではなく、すでに起きている事実である。

『クレヨンしんちゃん』『はたらく細胞』が公開見送り

 最も分かりやすいのがエンターテインメントと観光の分野だ。中国では11月14日から映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が公開され、初日だけで約22億円(1億元)を売り上げるロケットスタートを切っていた。しかし、高市発言が報じられた直後の16日(日曜日)、その売り上げは急落した。さらに、公開予定だった『クレヨンしんちゃん』や『はたらく細胞』といった人気作品も、中国当局の意向ではなく「観客の感情」を理由に公開が見送られた。

 影響は人の移動にも及んでいる。香港紙の報道によれば、直近の数日間だけで、日本行きの航空券が約50万件もキャンセルされたという。これは総予約数の3割に相当する異常事態だ。愛知県半田市や山口県下関市では、予定されていた中国からの代表団受け入れや市長の出張が急遽中止となった。

経営者の視点で見れば明らかな「失策(マネジメント・エラー)」

 さらに深刻なのは水産物だ。日本政府は長年の交渉の末、ようやく北海道産ホタテなどの輸出再開にこぎつけたばかりだった。しかし、今回の発言を受けて中国側は再び態度を硬化させ、輸入停止へと逆戻りしてしまった。

 たった一度の国会答弁で、これだけの経済的損失が生まれたのである。経営者の視点で見れば、これは明らかな「失策(マネジメント・エラー)」と言わざるを得ない。

 なぜ、これほどまでに大きな反応を招いたのか。それは高市首相が「存立危機事態」という、国の命運を左右する法律用語の意味を、根本的に履き違えているからである。

 ここで、中学生でもわかるように「存立危機事態」について整理しよう。これは、日本が直接攻撃されていなくても、自衛隊が武器を持って戦うことができる(集団的自衛権を行使する)ための特別なルールのことだ。しかし、このルールが適用されるには、非常に厳しい「3つの条件」をクリアしなければならない。

 その第一の条件にして最大の壁が、「我が国と密接な関係にある『他国』に対する武力攻撃が発生すること」である。

高市「存立危機事態」の致命的な法的欠陥

 ここに高市発言の致命的な法的欠陥がある。日本政府は公式に、台湾を「国」として認めていない。つまり、台湾単独で攻撃を受けたとしても、それは日本の法律上、「他国への攻撃」には当たらないため、自衛隊が出ていく法的な根拠が成立しないのだ。

 この条件を満たす唯一のシナリオは、「台湾防衛に来たアメリカ軍(他国)が攻撃されること」である。だからこそ、これまでの政府答弁ではアメリカの介在が必須条件とされてきた。しかし、もしトランプ政権が「アメリカは介入しない」と決めたらどうなるか? アメリカ軍が攻撃されない以上、日本が動く法的根拠は消滅する。

 これは、万引き犯を捕まえるためにバズーカ砲を撃ち込むような、法的なバランスを完全に欠いた暴論である。法律の定義を無視し、「封鎖されたら戦争だ」と叫ぶ。これでは、日本が自分から戦争を始めたがっているように世界から見られても仕方がない。実務を知らないトップの思い込みが、日本を危険な領域へと引きずり込んでいるのだ。

 この騒動の中で、さらに情けない光景が繰り広げられている。

拳を振り上げ高市首相のケツを拭かされる外務省幹部たち

 高市首相が国会で威勢よく「戦艦だ!武力行使だ!」と拳を振り上げているその裏で、経済産業省や外務省の幹部たちが、必死の形相で中国へ飛び、事実上の「土下座行脚」を行っているのだ。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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