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「おそらく当面、日中首脳会談は開かれない」それでも日中関係を改善させるために高市首相が持っている唯一のカード

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 高市首相の「存立危機事態」発言で日中関係が修羅場を迎えている。中国の政治経済に詳しいエコノミストの柯隆氏は「おそらく当面、日中首脳会談は開かれない」と指摘する。この危機を乗り越えるための秘策はあるのかーー。

 みんかぶプレミアム特集「高市首相の正念場」第2回。

目次

高市首相はトランプのおもてなしで高得点を獲得した

 高市政権が発足して、世界に対してこれまでの日本政治と違って積極的な外交姿勢をみせた。伝統的な日本外交は積極性がなく慎重なものだったのに対して、高市政権は内政改革に着手する前に、トランプの来訪などの外交活動に出加えた。なによりも、日本外交にとってもっとも重要なトランプ大統領とどのように信頼関係を構築するかという難題に直面した。就任したばかりの高市首相の外交手腕について事前に不安な声も少なくなかった。

 結果的に高市政権はトランプ大統領のおもてなしで予想以上の高得点を勝ち取ったといえる。なぜそんなことがいえるかというと、トランプ大統領との首脳会談でトランプは高市首相に「何か困ることがあったら、私が助ける」と伝えたといわれている。日米同盟を強化することは日本の安全保障を担保する重要な材料である。高市・トランプの信頼関係を構築できて、日本にとってのアジア外交も展開しやすくなったのも事実であろう。

 日米首脳会談のあと、韓国の慶州で開かれたAPECの合間、日中首脳会談が開かれた。中国側はこの会談に応じるかどうかについてぎりぎりまで態度を保留していた。日中首脳は立ち話するだけの可能性があるともいわれていた。しかし、実際は30分の着席の首脳会談が行われた。

なぜ中国側は日中首脳会談に応じるかどうか、判断するのに時間がかかったのか

 なぜ中国側は日中首脳会談に応じるかどうか、判断するのに時間がかかったのだろうか。一つは、首脳会談の冒頭発言のなかで習近平主席が高市首相の所信表明演説で日中関係を重視する発言を引用したことだった。中国では、保守系の高市議員は右翼政治家と分類されている。高市首相は就任後の所信表明演説で中国を批判せず、逆に中国との関係を重視する姿勢をみせた。それに秋季例大祭に靖国神社参拝を見送られたことに中国政府も注目したのだろう。これこそ日中関係重視の表れとみられた。

 さらに、日中首脳会談の現実味を高めたのはなんといっても日米首脳会談が成功裏に行われたことだった。日米同盟が強化されればされるほど中国にとって間違いなく脅威となる。とくに台湾統一を至上命題にしている習近平政権にとって日米同盟の強化はかなり気がかりである。

 それ以外に中国政府にとって一つ不都合なことが起きている。すなわち、高市政権執行部に親中派議員は一人も入っておらず、しかも、親中とみられる公明党は自民党との連立を離脱してしまい、与党を離れた。それは何を意味するものかというと、中国政府にとって高市政権にアクセスする窓口を失ったということである。

 結果的に可否を判断するのに時間がかかったが、習近平主席は高市首相との首脳会談に臨み、直接、高市政権の対中姿勢を確かめることしかなかった。普通、首脳会談を行う前に、両国の事務方は会談の内容の詳細について綿密に詰めなければならない。しかし、今回の首脳会談の直前、トランプ大統領は日本を訪問していた。日本側は詰めの作業を行う時間的余裕がなかった。結局のところ、茂木外相と王毅外交部長は電話会談を行っただけだった。その後、中国側は報道を通じて日米首脳会談の結果を知り、習近平主席と高市首相との首脳会談を決断したと思われる。

 問題は日中外相の電話会談で「戦略的互恵関係」について原則論のコンセンサスを得られたが、実際の会談において高市首相がどんな話題を提起するか、双方の事務方もおそらく知らなかったようだった。一般的に日本の外務省は事なかれ主義であるため、初の首脳会談で中国側を刺激したくないと考えるのは合理的な判断である。中国側も日中関係を重視する姿勢を見せる高市新首相は「無礼な」ことを言わないだろうと思っていたに違いない。

中国習近平政権が日中首脳会談で最も触れてほしくなかったこと

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この記事の著者
柯隆

柯隆(か・りゅう) 1963年中国・南京生まれ。88年来日、94年名古屋大学大学院、経済学修士号取得。長銀総研、富士通総研を経て、2008年東京財団政策研究所主席研究員に。中国政治、社会関連の著書多数。「『中国「強国復権」の条件』(慶応義塾大学出版会)が第13回樫山純三賞を受賞、近著は『ネオ・チャイナリスク研究』(2021年、慶応大学出版会)。日本と中国双方の政治、経済に精通したオピニオンに定評。

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