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台湾有事はますます近づいている……米中首脳会談で「台湾」の2文字が出てこなかった理由

(c) AdobeStock

 かねてより、「2027年までに台湾有事が起こる可能性が高い」と言い続けてきた外交・安全保障が専門のキヤノングローバル戦略研究所上席研究員・峯村健司氏。世界情勢は刻々と変化しているが、それでも峯村氏は「そのシナリオは何も揺らがない。むしろ強固なものとなっている」と警鐘を鳴らす。10月末に行われた首脳会談を振り返り、台湾有事の可能性について探る。

 みんかぶプレミアム特集「高市首相の正念場」第4回。

目次

「台湾が話題に出なかった」米中首脳会談

 トランプ米大統領は10月末に行われた米中の首脳会談について、「120点だ」と自画自賛しました。なぜなら、トランプ氏が最も強く求めていたレアアースの輸出規制について、中国側が「1年間の停止」と約束したからです。

 米国のレアアースが底を尽き始め、産業界からも突き上げを食らっていたトランプ氏にとっては「朗報」なのでしょう。ただ実際には、中国側がいつでもレアアースの輸出規制を再開できることを忘れてはいけません。つまり、米中交渉は中国優位の状況で進んでいるのです。

 今回私が最も重視しているのが、会談後のトランプ氏の「台湾のことは全く話さなかった」という発言です。両政府当局者に確認したところ、事実のようです。

 実は10月末の日米首脳会談後の場で、高市早苗首相がトランプ氏に対し、台湾有事の危険性について時間を割いて説明したようです。高市氏は中国が台湾を「統一」すれば何が起こるのかを、経済や地政学における台湾の重要性などについて、トランプ氏に丁寧に解説したそうです。

「ディール好き」なトランプ氏が安易に台湾を「カード」として利用するのでは、という懸念がありました。ですから、米中の首脳会談で「台湾」という言葉が出てこなかったのは、高市首相の説明の成果とも考えられます。

アメリカは「現状黙認」か

 一方で見方を変えると、「話さなかった」ことには問題もあります。2018年以降の6回の米中首脳会談の場で、米側は中国側に「台湾の平和と安定が大切」だと伝えてきました。

 現状に目を向けると、中国側の台湾に対する軍事圧力は強まる一方です。にもかかわらず、首脳会談の場でアメリカは何も言わなかった。中国側のロジックで言えば、これは「現状を認める」に等しいことなんです。少なくとも中国は、そのような意図で受け取っています。

 そもそもアメリカは2023年、バイデン前大統領時代にも致命的なミスを犯しています。習氏は当時のバイデン米大統領に対して、「米国は台湾を武装することをやめ、中国の平和的統一を支持するべきだ」と言いました。

 そこで本来、バイデン氏は「平和的統一の定義とは何か」と習近平氏に逆質問しなければならなかった。でもバイデン氏は何も言えなかった。多くの日本の識者は中国が全面軍事侵攻による併合の可能性を主張しています。

 しかし、私が監訳した『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)の著書で習近平氏の「戦略ブレーン」でもある劉明福・中国国防大学教授によると、中国は「新型統一戦争」によって台湾を「統一」しようとしています。劉氏によると、中国は上陸作戦はせず、「人員に死傷なし」「社会に損害なし」「財産の破壊なし」を目指す「新型統一戦争」を指します。

 同著によれば、劉氏は中国人民解放軍による「上陸作戦をしない」と明言しています。その代わりに、まずは台湾と国交を結んでいる国々に台湾と断交するよう圧力をかけ、経済制裁へと段階を上げていく。続いて中国軍による軍事演習や海警局の監視船による臨検を実施して台湾を封鎖して、台湾の物流や旅客を制限する。その上で、台湾当局を「対話」に引きずりだして統一に向けた道筋をつける――。これが「新型統一戦争」のアプローチです。

 バイデン氏が何も言えなかったということは、事実上「新型統一戦争」を認めるということ、さらに、アメリカ側が中国の意図をまったく把握していないことを意味しました。ここに習氏は勝機を見出したと考えられます。

制服組の更迭は「平和的統一」には影響なし

 報道では、トランプ氏が「中国側は『(トランプ氏の)在任中に行動を起こさない』と言った」と報じられました。ただ、ここの「行動」はあくまで「軍事行動」のことです。

 日本の有識者は、「台湾有事」と言えばすぐに「大規模軍事侵攻」を思い浮かべます。確かに、中国軍にそれだけの能力はあると言えるかもしれません。しかし先ほど言ったように、「台湾有事」と「台湾侵攻」はイコールではないのです。

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この記事の著者
峯村健司

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞入社後、北京・ワシントンで計9年間特派員を務める。ハーバード大フェアバンクセンター中国研究所客員研究員、朝日新聞編集委員を経て現職。2011年、優れた報道で国際理解に貢献したジャーナリストに贈られるボーン・上田賞を受賞。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『潜入中国』(朝日新聞)など、監訳書に『中国「軍事強国」への夢』(劉明福著、文春新書)がある。

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