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公共トイレで体を拭く女性…公園の炊き出しに子連れママが増加。なぜコロナでここまで追い込まれたのか

 「炊き出しに並ぶのはホームレス」。こんな常識が覆されようとしている。近年20代や30代の若者、女性といったこれまでの炊き出しにはあまり見られなかった層が列をなすようになったという。新型コロナウイルスの流行により、シングルマザーらが陥った窮地とは――。コロナ禍を生きる女性の姿をフリーランスルポライターの樋田敦子氏が描き出す、全3回中の3回目。 

※本稿は樋田敦子著『コロナと女性の貧困 2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』から抜粋・編集したものです。 

第1回:宿なし少女に「援助するよ」と甘い声…トー横キッズに迫るずるい大人「家出をした子どもたちが向かう場所」
第2回:風俗業界の値崩れが加速「スーパーの方が給料が確実」の声…それでもなぜ彼女はそこで働かなくてはいけないのか

※この本は2020~22年にかけて執筆されたものであり、記事中の状況は当時のものです。

炊き出しの列に子連れ女性が並ぶワケ 

「炊き出しに子どもを連れた女性の姿が見られるようになった」 

 そんな話を困窮者の支援団体から聞いて、2021年5月末、東京・池袋駅東口の公園で、生活困窮者の支援を行っているNPO法人「TENOHASI(テノハシ)」の炊き出しに行ってみた。その支援者が言ったとおり、女性が列に並んでいる姿を見かけた。 

 というのも15年以降、ことあるごとに、さまざまなNPOが主催する炊き出しを見学に行っていたのだが、女性の姿はほとんど見られなかった。多くは路上生活をする高齢男性で彼らは大きな荷物を持ち、会話することもなく所在なげに列に並んでいた。 

 また代々木公園の炊き出しには、時折スーツ姿の男性も見かけたが、それでも女性の姿を見かけることはなかった。 

 路上生活をする人々は、ブルーシートや段ボールハウスにはもうほとんどいない。深夜の街を徘徊しファストフード店で夜を過ごすか、金に余裕があればネットカフェや安いビジネスホテルで過ごす。ホームレス独特のにおいを漂わせる人は少ない。公園のトイレで体を拭き、頭を洗い、身支度を整えて出勤する。 

 コロナ以前、新宿のとあるホテルの女性用トイレで体を拭く女性に出会った。大きなキャリーケースを抱えている。年の頃、30代。東南アジアの出身だろうか。路上生活しているらしかった。 

 そんなことを考えながら、鏡越しに彼女の様子をうかがっていると、携帯電話で話を始めた。声高に何かを言い、電話を切ると荷物をまとめて外に出ていった。みんなギリギリのところで生活していた。 

 20年から特にコロナ禍で女性の困窮が明らかになり、女性が炊き出しの行列に並ぶ姿も目撃したが、それでも何百人中の2、3人くらいだ。彼女らは配給品を受け取ると、すぐに公園から足早に去っていく。 

「見た目ではわからない」あなたの隣にいるかもしれない生活困窮者 

 TENOHASIは、コロナ以前の19年までは、自分たちで40~50キロのお米を炊き、段ボール20箱ほどの野菜や鶏肉を煮て、どんぶりご飯にかける「汁かけご飯」を提供していた。 

 ところがこの新型コロナウイルスの大流行で、三密を避けて弁当や食料だけを配布するようになった。それ以降、毎回の炊き出しには、実施するたびに、史上最多の人数を記録しているという。 

 同事務局長の清野賢司が炊き出しの分析を「ビッグイシューオンライン コロナ禍と貧困、炊き出し現場のいま」の中で行い、状況を語っている(22年1月30日配信)。オンライン配信を聞いたが、現場に携わっている人だからこそわかる時代ごとの困窮の変遷を話していた。そこから抜粋してみる。 

「長年、池袋でずっと活動してきたので、定点観測とも言えるのですが、これまではリーマンショック後の2009年が最多で、年平均330人に。19年には166人にまで減り、21年からまた一気に300、400人に増えました」 

 コロナ禍になり、炊き出しには、明らかに20、30代の人が増えた。これまで女性は全体の1〜2%、高齢者が多かったのだが、今は若い女性も10%くらいはいるという。 

「実際は、困窮している女性はもっと多いはず。並びたくても抵抗がある人も多いのかなと思ってます」 

 なぜ、ここまで炊き出しに並ぶ人数が増えているのか、という質問には次のように答えた。 

「これは推測ですが、ホームレス状態ではなく、どこかに居住する家や部屋があるけれど、困窮している。食費が厳しくて、検索で知ってやってきた人が多数派になっている、ということでしょうね」 

 忘れられない光景がある。小さな女の子を連れた母親が、炊き出しの行列を遠巻きに見ていた。本当はその列に並びたかったのか。公園に遊びに来ただけだったのか。身なりもごく普通の女性で、前述のとおり、外見から貧困はわからない。それだけに今も困窮しているのなら、いち早く支援につながってほしいと願う。 

樋田敦子著『コロナと女性の貧困 2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』

シングルマザーの悲鳴「まず削るのは食費」 

 女性の困窮が明らかになってきた春先。都内にあるNPOでは「子ども配食」という名のフードパントリーを始めた。それを手伝った。 

 対象は、子どものいるひとり親家庭、コロナ禍で困窮している子育て世帯とした。同区では、かなりの数の「子ども食堂」が行われていたが、コロナの感染拡大、一斉休校などで、食堂からフードパントリーに切り替えるところが多くなった。 

 コロナによって、シングルマザーたちの雇用はズタズタにされた。リストラされた人、シフト調整で収入は激減。年齢がネックになって再就職先が見つからず、アルバイトやパートで収入を得ている人が増えていた。 

「児童扶養手当の証明書が必要ですか」 

 やって来る前にそう尋ねる人はいたが、提示しなくてもよいとした。やって来る人は「困っているので助けてほしい」と勇気を振り絞ってやってくるはずなのだ。「あなたは本当に困っていますか」と聞くわけにもいかない。何に困っているのかの聞き取りはするが、みな一様に「仕事」「就職がない」「収入が減った」と口にしていた。 

 以前出会ったシングルマザーが言っていた言葉を思い出す。 

「本当にシングルマザーが欲しいのは、子どもに誇れる健全な仕事と、それに見合う収入なんです。それ以外はなんの助けもいらない」 

 “配食”では「セカンドハーベスト・ジャパン」からの10種類ほどの提供品に、福祉作業所で障がい者が作る菓子パンをつける。ニコちゃんマークのチョコレートパンが人気で、「子どもと食べたい」と、このパンから先になくなっていった。 

 母親の2割程度は、精神疾患を抱えていて、生活保護を受けている。処方された薬の副作用もあるのか、昼夜が逆転するような生活をしている人が中にはいて、小学生の子どもは、家にあるパンを食べて、母が知らない間に登校していくのだという。 

「自分でも情けないと思うのですが、体が言うことをきかない。娘にも悪いことをしていると思う」 

 みんな困窮を口にした。高層マンションを購入したが、「ローンが払えない」と正社員のシングルマザーが話す。 

 がんにかかり会社を退職し、生活保護を受けながら生活を立て直しているシングルファザーは、「何度言ってもゲームをやめない。夜遅くまでゲームをやっているから、朝起きられなくて学校に行けない。その悪循環です」とつぶやき、そんなときは罰として朝ごはんを食べさせない、と言うから驚いた。「お父さん、それはやめてください。虐待行為ですよ」と止めた。 

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この記事の著者
樋田敦子

フリーランスルポライター。東京生まれ。明治大学法学部卒業後、新聞記者に。日航機墜落事故、阪神淡路大震災などおもに事件事故報道の現場に立った。10年の記者生活を経てフリーランスに。多くの雑誌やネットメディアで女性や子どもたちの問題をテーマに取材執筆を行うほか、テレビやラジオの番組構成も担当。書籍に『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)などがある。NPO法人『CAPセンターJAPAN』理事。

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