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宿なし少女に「援助するよ」と甘い声…トー横キッズに迫るずるい大人「家出をした子どもたちが向かう場所」

樋田敦子
公開)

 新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビルの路地裏、通称「トー横」には、きょうも若者たちの姿が目立つ。トー横にやってくるのは、自分の居場所を求めてさまよっている者も多い。中には、貧困とは無縁の家庭で育った者もいる。彼女らはなぜ、家や学校を飛び出すのか――。コロナ禍を生きる女性の姿をフリーランスルポライターの樋田敦子氏が描き出す、全3回中の1回目。 

※本稿は樋田敦子著『コロナと女性の貧困 2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』から抜粋・編集したものです。 

※この本は2020~22年にかけて執筆されたものであり、記事中の状況は当時のものです。

“普通の少女”がトー横で時間を潰すワケ 

 2020年7月、新宿の通称「トー横」を歩いてみた。SNSで住まいがないと訴える女性に「住むところを提供するよ」と返信し、トー横で待ち合わせをするケースも増えていると聞き、凝視してみたが、助けを求めるようなそぶりをする少女もいなかった。 

 もし目の前で、そんな光景が繰り広げられたら、なんと声をかけたらいいのだろうか。「何か困ったことない?」と声をかけるべきか。すぐさま歌舞伎町交番に行って警察官を呼んでくるべきか。少女たちの安全を守るために、大人たちは何ができるのか。自問自答しながら3時間が経過した。 

 トー横の隅に佇んでいた、ジーンズにTシャツ姿、メガネをかけた少女に話を聞くことができた。およそ“トー横キッズ”とは不釣り合いないでたちで、どこか緊張感が漂っていた。「どんな場所なのか」を確認したかったそうだ。 

「夏休みだし、友達の家で勉強してくるからと言って家を抜け出した」 

 ひとしきり、2人で韓国アイドルやアニメの話をしていると、ぽつりぽつりと事情を話してくれた。サラリーマンの父は、家庭では絶対の存在らしく、今はコロナで在宅勤務。毎日家にいて、息が抜けない。 

「大学はどうするんだ」 

「韓国のアイドルになんて熱を上げるんじゃない」 

「宿題は終わっているのか」 

 怖い目でにらみながら、矢継ぎ早に恫喝するような口調で質問をしてくる。母親に助けを求めようと顔を見ると「逆らっちゃダメ」と首を振る。 

 父親も相当いらいらしていて、普段は家のリビングがホッとできる場所なのに、父親が占領しているから、彼女にとって居場所がない。 

「夏休み中、こんな日がずっと続くのかと思うと、息苦しくなってしまった――」 

 池袋にはよく行くが、新宿の歌舞伎町は初めて。怖い大人たちがいるのは知っている。SNSで知り合って、その後リアルで会って、ホテルに連れ込まれたりする恐怖もツイッターを見て知っている。 

「大丈夫、そんな男性にはついていかないから。今日はもう少し町をぶらぶらして帰るつもり」 

 泊まるところのない女性に、援助すると甘い言葉をかけ、関係を求めてくる大人たちがいるのは事実であることを伝える。パパ活でお金を稼ぎ、そのお金でビジネスホテルに泊まる少女がいる。いきなり東京に出てきた少女に、支援を装って買春をする。そんな大人の申し出を断ると、行くところがないのでそうするしかない。  

「甘いことを言って、寄ってくる人もいるからね、気をつけて」。そう言うと、彼女は頭をちょっと下げて、駅のほうに歩いて行った。 

 両親がいても、貧困でなくても、家に居場所がない10代の少女たちはいる。家庭、学校のほかに第三の居場所が必要だと、これまでもずっと言われてきたが、第三の居場所がないとしたら、彼女たちはどこに行くのか。 

裕福な家庭で起こる“教育虐待” 

 都内の自治体が運営するシェルターに若い女性が収容されてきた。彼女に対し、どういう支援がふさわしいのかを福祉関係者で相談する。その会議に参加している、ある弁護士の証言を紹介する。 

 若い未婚の世代で収容されてくるのは家族から虐待されたケースが多く、この女性もそうだった。家に帰すのは無理。本人も家に戻りたくないと希望している。そこでなんとか家に戻さない方法を考えたという。生活保護を利用して、住まいを探し、なんとか自立できるように案を練る。 

「行政からは、親と交渉してくれと頼まれました。行政が直接電話して、“お宅の娘さんが東京都〇×区に今いるのですが”と切り出すと居場所がわかってしまいます。そこで弁護士のところに、仲介の依頼がくるのです」 

 弁護士は「私は行政機関から依頼を受けた弁護士です。娘さんは行政機関の支援を受けて安全安心なところにいます。ご安心ください」と伝えて、今後のことを話し出した。 

 彼女は親のすすめである大学に入ったけれど、自分とは合わないので退学したいと言う。「入学に際して借りている奨学金を中止する手続きをしたいのだけれど、どうしても親が書類をくれない。それがないと手続きできない、そういう交渉をしてくれませんか」とある弁護士に依頼したそうだ。 

 彼女は大学を辞めて、まずはアルバイトで生活していきたいという。 

「彼女のケースは、教育虐待でした。教育虐待のケースでは、一般的に裕福な家庭が多いのですが、“この先自分はどうなってしまうのだろう”と不安になるのは、生活困窮者と同じです。彼女の親は、まさか自分の子どもが生活保護を受けているとは思わなかったでしょう。 

 コロナになってから、大学もオンライン、親は在宅勤務で家にいる。自分は大学へ行き、親は会社に行くことで、何とかバランスを保っていたのに、今はステイホームで、家にいるだけで衝突してしまう。もともとウマが合わない家族が四六時中一緒にいるわけです。飛び出してくる子どもの気持ちもわかる気がします」 

樋田敦子著『コロナと女性の貧困 2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』

困窮者救済のために求められる“公的責任”

 弁護士が言う。 

「2013年に“脱法ハウス”が明るみに出てきたのですが、シェアハウスという名前に変わって以降も、いまだ違法なところもある。もちろんきちんとしたシェアハウスもあるけれど、問題があるところも多い。それは行政が本気で取り締まっていないこともひとつの理由なのです。 

 行政がサボっているので、違法業者が現れる。東日本大震災時に民間アパートをみなし公営仮設住宅にして借り上げたように、今、空いている公営アパートを貸し出すべきです。このコロナは災害にも近い状況で、何とかしなければいけないと思います。民間の支援団体のシェルターに頼ることなく、積極的に公的な責任のもとで貸し出せばいいのです」 

 総務省統計局は、5年ごとに土地や家屋について統計調査を行っているが、2018年は前回の調査よりも空家数は増加しており、848万9000戸。過去最高となっている。全国の住宅の13.6%を空家が占めていることがわかった。 

 空家の増加の背後にあるのは少子高齢化や人口移動の変化などだ。空家こそ困窮者支援のために有効活用すればいいのではないかと思う。 

 厚生労働省と国土交通省は、「居住に課題を抱える人に対する居住支援について」を共同でまとめているが、実際に行政レベルで居住支援に取り組んでいるところはわずかで、扱う件数も少ない。 

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この記事の著者
樋田敦子

フリーランスルポライター。東京生まれ。明治大学法学部卒業後、新聞記者に。日航機墜落事故、阪神淡路大震災などおもに事件事故報道の現場に立った。10年の記者生活を経てフリーランスに。多くの雑誌やネットメディアで女性や子どもたちの問題をテーマに取材執筆を行うほか、テレビやラジオの番組構成も担当。書籍に『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)などがある。NPO法人『CAPセンターJAPAN』理事。

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