少年のままの笑顔でジョニーと抱き合った羽生結弦に、感動しなかった人はいたのか…FaOI2023「一羽の白鳥から受け継いだ伝説のバトン」

伝説のプログラム『The Swan(白鳥)』
ある少年が、一羽の美しい白鳥を見た。
少年は白鳥に憧れた。僕も、あの白鳥になりたい、と。
その白鳥の名は、オクサナ・バイウルと言った。両親のいない、貧しいウクライナの白鳥は1994リレハンメルオリンピックのSPで黒鳥となり、FSではミュージカル・メドレーで多彩な表現力を魅せ、16歳にして金メダルに輝いた。
バイウルはエキシビションで伝説のプログラム『The Swan(白鳥)』を舞った。
貧しく孤独なウクライナの田舎娘は白鳥となった
東スラブの誇り、バレエ芸術とフィギュアスケートの真髄がそこにはあった。確かな基礎と優れた体幹、伝統に裏づけられた美は、ソ連崩壊により自信を失った東スラブの民を、ウクライナの同胞を勇気づけた。かつてのモスクワのエリート、キラ・イワノワも、アンナ・コンドラショワも届かなかった金メダルに、貧しく孤独なウクライナの田舎娘は白鳥となってたどり着いた。瀕死の白鳥は崩壊したソ連そのものであり、それでも生きるという、民族の希望を内包していた。
そして、少年もバイウルのように、氷の上で白鳥になろうと思った。